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World Distortion  作者: 風吹
第一章
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-The distortion world.7-

 謎の爆発から十を数える頃。先程とは打って変わって、不気味なまでに静寂に包まれた森の中、灯馬が呟きと共にうめき声をもらす。

「くっ… 一重は平気か?」

「一応、ね…」

 一重はそういうが、二人の体には小さな切り傷があちこちに刻み込まれていた。

 どうやって爆発させたのかは分からないが、金属が彼女の武器のようだ。

 竜巻が赤髪の少女を飲み込む直前に爆発は起きた。かなりの規模ではあったが、二人の反応は早かった。

 ほぼ無意識のうちに、目の前に風の渦を生成して敵の攻撃を防いでいたのだ。多少の細かな金属片が風圧を突き抜けて二人を切り刻みはしたが、もし能力を展開していなければ、こんなものでは済まなかっただろう。

「まあでも、これでようやく相手の能力がわかった」

「ところであいつは?」

 灯馬が呟き、一重が視線を巡らせようとしたその時、

「あたしならここだよ」

 二人から少し離れた場所に、紅い髪を揺らして少女は悠然と立っていた。その身体には傷一つなく、年相応の少女らしい肌が光を受けて輝いていた。少女は言う。

「女の子を傷つけようとするなんて、男としてひどいんじゃない?」

 そういう少女の声には怒りの感情はなく、いたずらをした弟を軽く叱るそれと同じように見えた。

「こっちも命かかってるからね。手を抜くわけにはいかないんだよ」

 余裕を見せる少女とは対照的に、苦笑する一重。表情こそ疲れてはいるが、その脳内では高速で思考が巡らされていた。

 何故赤髪の少女は今更になって能力を使ったのか。そしてその能力の代償は何なのか。

 今分かっているのは、少女は金属を操る能力を持っているということと、それを扱うにはそれなりのリスクが伴うかもしれないということ。

 もし一人きりで闘っていたら、思考はここで止まっていただろう。しかし、今の一重は一人じゃない。

「そういえばよお」

 そう言って、灯馬は続きを一重に耳打ちする。

「―――…!!」

 灯馬の耳打ちに一重が目の輝きを変える。それを見ていた灯馬が一重に問う。

「いけるな? 一重」

「オーケイ。灯馬は陽動よろしく!」

「おう!任せとけ!」

 一重は頭の中にある作戦を、灯馬に伝えることはなかった。下手をすれば敵にばれてしまいかねないのもあるが、長い間組んできた甲斐もあってか、最近では呼吸をするように、灯馬の動きに合わせることができる故、そもそもそんな必要がないのだ。

 そしてその灯馬が少女めがけて一直線に突っ込む。

「二手に分かれてやろうって作戦? いいわ、まずはアンタからよ!」

 先程とは打って変わって、躊躇なく能力を発動させる少女。その手のひらから金属の槍を生成し、それを灯馬へ向けて伸ばす。そのまま突っ込んでしまえば、自分から体を貫くことになってしまう。

「へっ、俺は生憎と自殺願望はねえんだよ!」

 叫び、跳躍しながら槍を避けていく灯馬。

「なら、あたしが引導を渡してあげるわよ」

 それを聞いてくすくすと笑む少女。灯馬が避けた槍が二股に別れ、その背中と眼前に迫る。灯馬は瞬時に強烈な横殴りの突風を前後に生み出し、その軌道をずらそうとする。

「見ず知らずのやつに殺されるなんて、もってのほかだっての!」

「あたしも同感。だけど、言うことを聞かない悪い子にはお仕置きが必要のようね」

 直後、軌道をずらされかけた二本の槍が、さらに細長く無数に枝分かれをする。

「軌道が、ずれねえ…ッ!」

「体積を少なくすれば、空気抵抗もまたしかり、ってね」

 さらにそれは灯馬を挟み込むようにしながら迫る。

「!…これはッ」

 少女の狙いを理解して、風を生み出しどうにか逃げ出そうとする灯馬だったが、間に合わない。左右の繋がった無数の細長い金属は、さらに広がり、檻のそれだった金属が風船のような形状へと変化し、灯馬を閉じ込めた。

「捕獲完了♪」


「ちっ、やられたぜ…」

 灯馬の小さな呟きは、金属製の風船に阻まれこちらの声は届かず、また外側からの声も聞き取ることは出来ない。

 一重が相手の能力の穴を見破り、この檻を消滅させるまで、なんとか持ちこたえなくてはならない。

 閉ざされた内部には光は届かず、暗闇で満たされている。ある程度の身動きは取れるが、やっかいな問題が二つあった。

 一つは相手の能力そのものに捕らわれており、相手がどんな攻撃に転じようとも、こちらからは防ぐことは出来ないということ。

 二つ目に、どうやら完全に密閉されているらしく、向こうが何もせずとも、酸欠に陥りお陀仏になってしまうということ。

 もし一人で闘っていれば、これで詰んでしまっていたかもしれないが、こちらはチームである。

「…頼んだぜ、一重」


「さて、どう料理してやろうかな」

 赤髪の少女が不敵に笑う。灯馬を捕らえている風船は薄くも、密度及び硬度を最高値にまで上げており、逃げ出すことは絶対に不可能だ。

「このままほったらかしにして酸欠にするのもいいし、中で串刺しにするのもいいわね」

 有利を確信した少女がサディスティックな笑みを浮かべる。

「くっ、させるか!」

 灯馬と二手に分かれていた一重が、灯馬が捕らわれている檻に向かって全力疾走するが、赤髪の少女が立ちはだかる。

「オトモダチを助けるために真正面から向かってくる根性は認めるけど、せめて風を使って身体を押したりしたらどうなの? アンタ、案外馬鹿なのね!」

「馬鹿なのは自覚してるよ。それに風は使わないんじゃなくて、使えないのさ!」

「何を言ってるのかサッパリね! いいわ、あんたも閉じ込めてあげる」

 直後、地面から一重を囲うように十本の柱が生える。さらに瞬時に上を塞がれ筒状の檻へと形を変える。

「くっ…」

 少女の能力に閉じ込められた一重が、苦虫を噛み潰したような表情で少女を睨む。

「ふふっ、あんたはそこでこいつがくたばるのを見てなさい」

 そして少女は灯馬を閉じ込めた風船の折に向き直り、能力発動のために集中力を研ぎ澄ます。灯馬を串刺しにするイメージを。

「終わりよ」

「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 一重の叫びも虚しく、少女の能力は発動。金属の風船には変化こそ見られないが、恐らく中では串刺しにされた灯馬が重症、最悪死亡に陥っているのだろう。

 そして、一瞬の静寂。赤髪の少女が不気味な笑みを浮かべ、それを見た一重が全てを理解する。

「灯馬アアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

「はっはっは! あんたもすぐにこいつと同じ目に合わせてあげるよ」

 絶叫する一重に、少女が死刑宣告を告げる。その目は獲物を追い詰めた肉食獣そのものだ。

 そして一重は全身が脱力したようにぴくりとも動かない。少女はその絶望から抵抗も出来ない様子を冷え切った瞳で見つめて、興がそがれたように溜息をつく。

「つまんないの。もういいや、あんたも死になさい」

 少女が一重に引導を渡すために鋭い金属の槍を生成しようとしたそのとき。

 少女の目の前と背後で二つの爆発が起きた。

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