-The distortion world.6-
人気がない森の一角の川原で、麻理はひざを抱えて震えていた。
一重が作ってくれたチャンスを無駄にしたくない一心で、ここまで逃げてきたのだ。
怯える麻理の耳に、かすかに遠くのほうで木々の折れる音が聞こえる。戦闘は、今も続いているのだろう。
麻理は争いごとが嫌いだった。
三年前、世紀の大災害である“世界歪曲”により、凄惨な現実を目の当たりにしてきた麻理は、そこでヒトの裏側、本性を知った。どんなに綺麗に取り繕ったところで、所詮ヒトは汚いモノなのだということを。そしてそれは、自分も同じなのだと。そして、麻理は戦争や争いこそ、ヒトの裏面の具現化したものだと信じていた。
しかし、麻理は一人の少年に出会った。自分と同世代に見える少年は人の良さそうな表情をしていたが、人を見る目を持った麻理は、その笑顔が偽りのものであると見抜いていた。なのになぜかこの少年はきっといい人に違いない、と感じさせるものがあった。
その後も幾度となく争いごとに巻き込まれて危機に陥るたびに、少年が敵を返り討ちにして、麻理を救ってきた。
そして、当時ふさぎこんでいた麻理の心が開いたとき、同時にその心に少年への恋心を抱いていた。
つい弱気になり、昔のことを思い出していた麻理は、恩人であり想い人である少年の名前を、消え入りそうな声で呟く。
「一重さん…」
その直後、一重と灯馬のいる方角から爆発音が轟く。
おかしい、と麻理は思った。灯馬の能力である風を操る力ではあのような爆音は出ないはず。つまり今のは敵の―――
「!」
麻理の決断は早かった。素早く立ち上がり、震える体を奮い立たせる。
本当は闘いたくない。敵がどんな力を使うのかも分からない。怖い。だけど、いつまでも守られるわけにはいかない。次は、自分が守らなければ。どんなときも自分のことより麻理のために体を張ってくれた、あの二人を。