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百人の村の不幸

幸せとか不幸とか、本当になんなんー、と思って書きました。


「世界がもし百人の村だったらって本を見たんだけど、なんだかわたし場違いな気がした」


 へぇ、とわたしは適当に頷いた。


 カフェテリアでする話なのか? と疑問を持ちながら、私は向かいに座る宇田ススキの話に耳を傾ける。どうでもいい、ためにならない話を永遠とするのが、彼女は無駄にうまかった。本当に、無駄でしょうがない。宴会芸にもならない。必要性ゼロだなぁ……。


 と言っても私は面倒ながら聞き手に回っているので合いの手くらいは入れてやらなければ。


「どんな風に?」


 ススキはうーんと唸りつつ、コーヒーを一杯口に含む。ススキはブラックコーヒーより、砂糖が固体として飽和するほど投入したコーヒーの方が好きだった。ザラッ、と音が聴こえた。


「うんとねぇ……。その本って授業の時に見たんだけどさー。あ、先生が課題で持ってきたわけ。これ見て感想文かけよーって。で私たちのクラスはその『世界がもし百人の村だったら』だったの。……おーけー、ここまでついてこれてるかね?」


「別に難しい事なにも言ってないじゃん」


「いやこう、通過儀礼的に。訊かなきゃいけない気がねぇ」


 何言ってんだこいつ、と視線を向けるとススキは「そんなに見つめないでっ!」と戯言をほざいていた。私は席を立って今すぐ帰っても良かったのだけれど「あ、待って待って。冗談、冗談だかーらさぁー」ススキがちょっと半泣きで行く手を阻んだので席に座り直した。


 私も『世界がもし百人の村だったら』は読んだことあるけれど、自分の事を場違いとか、そんな風に思ったことは無い。ただ自分は恵まれてるんだなぁーと万人が思うような在り来たりな感想を持った筈だ。


「でね」


 とススキが言う。眼は少し潤んでいた。泣きやすい体質だと、私は知っていた。


「それをみんなで回して読むことになるでしょ? 見終わった人はそれについて感想をまとめて、回って回ってわたしの番になったの」


「ふぅん」


 私はそれほど興味がないので適当だ。


「それを見終わってさ、みんなはちょっと『しんみょー』な顔してるわけ。でもわたし、それ見てもどうとも思わなかった。だから場違いだなぁーってそう思ったの」


「……理由は?」


 要領を得ない回答だったので取り敢えずもっとまともで分かり易い言葉を求める。

 ススキは「なんて言うかなぁ」と首を傾げた。


「人の死? っていうか幸せとか、不幸とか。……あれってつまりさぁ、わたしたちみたいに『死にてぇー』って言っている人に見せてさ、自分より下がいる事を確認させて勘違いする為の本でしょ? だから別にどうとも思わなかった」


「へぇ……」


「地球の裏側で誰かが死んでようと、わたしは素直に泣けないし。でも今の自分は十分幸せだと思う」


「なんで?」


 私がそう訊くとススキは「えぇへ……」と照れて頭を掻いた。


「甘いコーヒーは呑めるし、授業で寝てても怒られないし、美味しい学食は食べれるし、それにヒカリともこうやってお喋りできる。わたしの物差しで今は幸せなのだよー」


 あー、うん、そうかー。


「……………………恥ずかしい事言うなぁ」


「えへ、へぇへ……」


 更に頭を掻いて盛大に照れだすススキ。そんなに恥ずかしいなら言わなきゃいいのに。


「でもその考えは色々不良だ」


 感性がひねくれていると言うか、考え方が真っ直ぐじゃないとか、こうやって真面目に学校に来て授業を受けているのが不思議な子だ。私の中のススキは少なくともそういう評価だ。


「不良じゃないよ。わたしバカだけど考えナシだから。考え過ぎが不良になるのー」


 そう言ってススキはコーヒーの最後の数滴を飲み乾した。カップの中には底に溜まった白い塊がゴロゴロ転がっている。角砂糖溶けてないじゃん、と私は笑った。


 ススキは不思議な子だった。みんなとずれて、みんなより少しだけ可笑しい。


「おもしろいね、ススキは」

「おぉう、笑うがよい。笑うがよい」


 ススキは立ち上がり大手を上げた。当然、私達の他にもお客はいるわけで、自然と注目が集まる。さっきのススキの発言より、こっちの方が社会的に恥ずかしい。


「ほらもう、行くよ」

「あーはい行くって、そんなに引っ張らないで、ね、ね?」


 私とススキはそん感じでカフェテリアを後にした。


          *


 夕焼け空に浮かぶ雲が茜色に染まっていた。


 もう少しで秋がやってくる。風が少しだけ冷たくなった気がした。


「世界がもし百人の村だったら、ススキはどこでどうしたい?」


「わたしはあれかなぁー、その村を造った村長になりたい!」


「夢がおっきくてよろしー」


「ヒカリはー?」


「私は普通に黄色人種でお金があればいいよ」


「ぜいたくだねぇー」


「お前の方が贅沢だろー」


「そんなことないよー。村長はめっちゃ強いから怪獣とかから村を守んなきゃ」


「村長なんなんだよ」


「村長はわたしだぁああ!」


 宇田ススキは不思議な子。


 世界が百人の村だったら、世界は結構つまらない。










 おわり

 

 

世界がもし百人の村だったら。まあ言っちゃえば先進国のエゴの塊ですよね。自分より下を数えて満足するとか『ナンバーワンよりオンリーワン』という言葉を僕はこの世で二三番目に嫌いです。他人行儀と言うか自己完結の面白くない言葉ですよね。そんな感じであまり意味のないお話でした。

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