赤い恋
リレンザってすごいね、と思って書きました。
死ぬことを、ほんの戯れで考えたことがある。
まず死には、自殺と他殺がある。つまり、自分で死ぬか、他人に殺されるか、だ。穿り返せば病気だって『病気』という他人からの殺害だし。そう考えると世界の大半は他殺で溢れた、混沌とした場所なのかもしれない。わたしは少なくとも、そう思う。
病室の窓から見える桜の影に、わたしは少しだけ死を忘れられた気がする。
わたしが病院に入ったのは、中学校の最終学年の、それも三月の時だったから、丸一年病院に缶詰状態だった。散歩も、許可がなくちゃいけないし。息苦しい生活か、と聞かれれば「そうですね」と答えることができる。楽しみなんて、偶にお見舞いに来てくれる、彼の持って来てくれるプレゼントくらいだった。
彼は優しい人だった。わたしは彼に色々な事を教わったし、わたしも彼に色々な事を教えた。ゲーム機の使い方やサッカーの上達方法。彼は高校でサッカー部に入ったらしい。わたしは彼の有志を見ることは、今まで一度もなかったけれど。相当格好良いに違いない。
そんな彼が今日は小さな小包を持ってきてくれた。
「あけていい?」
彼は笑顔で、深く頷いた。わたしも彼の笑顔を見ていると嬉しくなって、笑顔のまま小包を開けていく。中にはまた小さなビニール袋が入っていて、その中に小さな錠剤があった。いつも飲む錠剤に似ているけど、大きさはこっちのほうが少し大きい。それに色も、見たことないくらい鮮やかな紅色だった。
これは? と彼に言う。彼は小さく微笑んだ。
「お薬。君が元気になれる薬だよ」
彼はわたしにコップを渡してくれた。優しい、もっと好きになった。近くの棚にあった物らしい、彼は水の入ったビンも一緒に持っていた。
「さあ、水を」
わたしの手に持たせたコップに、水を注いでいく。透明で澄んだ色をしていた。冷たい筈の水は、彼の温もりを受けて少しだけ暖かかった。これが彼の体温か、と思う。水はきっちり一杯分。、コップの中に注がれた。小さな泡が見える、気泡、というやつだろうか。授業を殆ど受けていないわたしには、それが正しいのかどうなのか成否は分からなかった。
「これを飲むと、元気になるの?」
彼は笑っていた。
「そう、ありがと」
そう言ってわたしは、錠剤を流し込んだ。
死ぬことを、ほんの戯れで考えたことがある。
わたしはずっと彼を見ていた。彼には可愛い彼女がいて、楽しそうに喋っていた。わたしの方が彼の事を愛している筈なのに、彼はわたしに見向きもしない。
わたしの手は届かない。
わたしの口は届かない。
わたしの声は届かない。
そうだ、なら。なら、そうだ。彼にもわたしを見てもらおう。
こっちに、きてよ。ねえ。ねえ。ねえ。
わたしは彼の首に手を伸ばした。
ねえ。
おわり
しっかし最近の医療は半端ないですね。今年インフルになったんですが、二日で熱が下がりました。医療の発達はそれでも僕みたいな一般人から見ると魔法のようでなりません。チチンプイプイ、病気よ治れーっと、はいそんわけで。