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だらけ

お姉さんって響きがよくて書きました。


「友達って……、君そんなにいないでしょ、友達」 

 

 その性格なら当然ね、とお姉さんは笑った。僕としては「お姉さんの方が友達いないんじゃないですか?」と言いたくなったが口には出さない。目上の人を敬う気持ちは大切、と両親が耳にタコどころかイカが出来るくら言っているのでそれを機械的に遂行しただけだ。

 

 お姉さんは相変わらず、コンビニで買ったお酒をコンビニの中で飲んでいた。外国人と見間違う様スリムな体型と金色の長髪。髪が口に入って邪魔なのか、忙しなく払っている。目は半目で加えて唇も薄いので『くーるびゅーてぃー』とはお姉さんみたいな人の事を言うのかもしれない。但し、それは内面を重んじなかった場合である。

 

 お姉さんは変だ。僕が言うのも何だけど、頭の大部分が宇宙の彼方と接続している感じだ。まあ要するにぶっ飛んでいるわけで。


「彼女、いるの?」

 

 突拍子もない質問は、お姉さんの十八番だった。


「いませんよ。大前提の友達がいませんし」


「あー、そうね。でも大丈夫よ、過程は考えない主義だから、わたし」


「いや……恋人とかって過程の方が重要なんじゃ……」


「にしても暑いわー。店員ー! 冷房の温度下げてー」


 お姉さんは薄手のTシャツの首をパタパタと煽っていた。話が途中であらぬ方向に曲がるのも、お姉さんの特徴なので僕はいちいち文句を言わなかった。


 お姉さんはこのコンピニの常連だがブラックリストにも載っている面倒な人だった。店長さんにそのリストを見せてもらったことがあるが、お姉さんの場所だけ明らかに他の人と情報量が違っていた。まあネグラと言っては何だけど、一日の大半をこのコンビニで過ごしているお姉さんなら、まあ考えられないわけではない。そもそも僕がいつ来てもいるし。仕事はしているみたいだけど、一体どこにそんな暇な仕事があるのか、不思議でならない。


 僕は手に持っていた週刊誌を棚に戻して、隣の月刊誌に手を伸ばした。こっちには好きな漫画が載っている。僕は漫画とかアニメとかに造詣が深い人間なので、こういう最新話は逐一チェックしなければならないのだ。


 お姉さんはお酒を片手に僕の手元を覗き込んだ。


「漫画っていいわよねー、何でもできて」


「何でも出来るから創作だと思いますけど」


「人生はそうはいかないわよー。薄っぺらくないわ」


「薄っぺらいですよ、僕は」


 それもそうね、とお姉さんは無遠慮に笑った。僕の気持ちを知ってか、お姉さんは「あのね」と前置きをして咳き込んだ。話しながらお酒を飲んでいるからだ。一頻り、気管に入った液体を吐くとなんでもない様に「あのね」と言った。それで今あったことをナシにしたらしい。自分ルール全開なのも、お姉さんの特徴だ。


「君は友達、本当は欲しくないんでしょ?」


 どうだろう、と僕は思った。ガラスの向こう側では陽炎が立ち込めて、とっても暑そうだ。お姉さんはそんな暑さが嫌いらしいけど、僕は案外、夏の暑さが嫌いじゃない。


 人がいない道路とか、見ていて気持ちがいい。


 そうなると僕は、一人が好きなのかもしれない。


「一人は、好きです。多分」


 僕は月刊誌に目を落しながら言った。そのページにでは、主人公が仲間と一緒に闘っていた。こういうのはちょっと憧れる。


「そういう人は案外、友達が結構いたりするのよねぇ」


「そうなんですか?」


「私の同級生に一匹狼みたいにつっぱってた女の子がいたけど、高校卒業してすぐに結婚したわ。今は三児の母。私と同い年よ? 信じられる?」


「はあ……」


 二〇代前半だろうか。お姉さんの年齢が分からないので、判断しかねる。それに話題は少し、ずれている様な気がした。


「だから君も、本当は友達いっぱいかもよ?」


「僕は学校じゃ一言も話しませんけど」


「バカね。友達なんてあけっぴろに言ってるやつは友達じゃないのよ。本当の友達は、君と同じ様な人の事を言うの」


「ディスコミュニケーションですか?」


「そういうのを『コミュ障』って言うの」


 分かったような、分からないような。9対1理解できていないけど。

 お姉さんはお酒が空になったのか、缶をゆらゆら揺らしながら手に持って、僕に『捨ててこい』と目線で訴えて来た。僕はお姉さんの手から缶を受け取る。「ありがと」こういう時だけ、すっごくいい笑顔だから、お姉さんは中々嫌いになれない。


「君と同じ人は、いっぱいいるわよ」


 お姉さんはそう言った。僕はゴミを捨てるために自動ドアに向かっていたから、お姉さんがどういう顔をしていたのか分からないけれど、真面目な顔はやっぱり考えられなかった。


「人ってみんな、超能力者じゃないから。ポンポン人の心読んで生活してたら、腐っちゃうわよ。人間も、まあ君自身もね。そういうの、顔とか仕草とかで代用してんの。見極めなさい、そこらへん」


 分かった?、とお姉さんは言った。僕は分かりました、と心の中で言った。


「よろしい。友達、出来るといいわね」


 お姉さんのその言葉を最後に、僕はアスファルトが灼熱の鉄板へと変貌した世界へと足を進める。缶をゴミ箱に捨てると、ガラスからお姉さんの顔が見えた。さっきまで僕が見ていた月刊誌を見ているのだろうか。ここからじゃ分からないけれど、まあ僕には関係の無い事だ。


 僕は家に帰ることにした。サボっていた学校も、明日からは少しだけ、行こうと思う。


『君と同じ人はいっぱいいる』お姉さんが言うのなら、間違いないはずだ。


 僕は、お姉さんに少しの感謝をしながら帰路についた。







 ふと振り向いたガラスの向こう。


 人の心が読めるお姉さんは月刊誌をクシャクシャにして笑っていた。






 おわり 

 適当に書き連ねました。意味は殆どありませんが、僕が明日学校に行くと決心する話だと思ってくれればいいです。でも実を言うと、このお姉さん。リアルにモデルになるお姉さんがいるんですよね。コンビニ行くといつもいます。『黒〇の〇〇〇』をいつもにやにやして見ています。こちらはぶっ飛んでいるより腐っているの方が正しいですね。まあそんな感じです。

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