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霊感少年オルカ

作者: 9BO


「オルカー。オルカったら!ねえ!聞いてます?」


 頭上から聞こえる能天気な声に、オルカは聞こえていない様子を貫く。

(空耳だ空耳だ。俺は何も聞こえてないぞ。)



「ねえ、オルカ!」



「オルカったら~!!」



 あくまでも無反応なオルカに業を煮やした声の主は、無理矢理オルカの視界のなかへと入り込んだ。

「もう、オルカったら無視なんてヒドイです!」

 散々無視してきた声の主が、ぷっくりと頬を膨らませて文句をつけてくるのに、オルカは諦めとともに溜め息をもらす。

「……ビュート。どいてくれ。テキストが見えない。」

 教材に重なりながら目の前に浮遊している声の主は、ここ半年ほどオルカにつきまとっている幽霊のビュートだ。

「オルカが無視するから悪いんです!守護霊である私にたいしてあんまりな行動だと思いませんか!?」

「思わないよ。普通の人には守護霊なんて見えないんだから、無視されるのが普通だろ。」

「オルカは私がみえるじゃないですか!それなのに無視するなんてヒドイです!」

 そう。

 本来人の目には映らないはずの幽霊が、オルカには見える。

 けれどオルカは平穏を求める性質であり、出来ることなら見たくはないし、関わりたくもないのだ。

「俺は進級試験の勉強中なの!いちいちビュートにつきあってたら留年しちゃうだろっ。」

「大丈夫です。留年したって、私はずとオルカのそばにいますから。ほんの数年の学院なんかより、死んでも一緒の私を優先するべきだと思います。勉強なんかしてないで、私に構ってください。ねっ?ねっ?ねっ?」

「俺は進級したいの!守護霊だっていうなら、俺の都合も考えてくれよ!」

 オルカの主張に、ビュートはしょんぼりと肩を落とす。

「……わかりました。」

 ビュートの肯定の言葉に、ほっと胸を撫で下ろしたオルカだが、自称守護霊ーー元悪霊のビュートは性質が悪かった。

「オルカがそこまで留年を気にするなら、今から学院をたたってきます。学院なんか……学院なんかこの世からなくしてやるぅー!!」

 禍々しい気を放って踵をかえすビュートに、慌てて待ったをかける。

「待て待て待てー!!」

 冗談ではなく本気で言っているとわかってしまうからこそ、放置できない。

(結局こうなるのか……)

 ここ半年、似たようなやりとりを何度したか……もうやけくそになるしかない。

「わかった!かまってやるから学院をたたるな!」

「わあぁい♪オルカ大好きですー!」

 禍々しい気配から一転、にこにこと愉しげに声を弾ませるビュートに、オルカは脱力する。

 ここで知らんぷりを決められない自らの良心が、恨めしい。

「……で?今日は何がしたいんだ?」

「最近噂の貞子さんを見に行きましょう♪」

「貞子さん?」

「あれ?もしかしてオルカ、知らないんですか?最近最もホットな怪談ですよ?何でも、学院の北端にある古井戸に女のひとの悪霊が出るらしいです。」

「…………また心霊スポットに行くのか。」

 オルカとしてはこれ以上幽霊になど関わりたくなどないのだが、ビュートは心霊スポットの噂を聞いては、そこへオルカをつれまわすのだ。

「その悪霊が出るようになってから付近の魔物が活発化しているそうですから、原因である悪霊を退治すれば、世のため人のためですよ♪」

「たたってやるとか言ってた奴が、世のため人のためとか言うのかよ……。」

「……新参者のくせに私よりも話題になるなんて許せません。」

「そっちが本音か。」

「さあ、オルカ!古井戸の悪霊退治にGOですよ!」

「……ハイハイ。」


*



 学院の北端。旧校舎の裏手へと来たわけだが……

「急に暗くなったな。まだ昼間なのに。風も妙に生暖かいし……。」

「邪気が渦巻いてますね。どうやらデマではなく、噂の悪霊は実在しそうですね。」

「ううっ……本当にいるのか。」

 単なる噂であればよかったのだが、霊感の高いオルカには「いる」ことがわかってしまう。

 学院関連の怪談話にはデマも多いから、少しはそれを期待していたのだが……

「それでこそ来た甲斐があるというものです♪先輩幽霊として、物申してきます。」

 オルカとは逆に上機嫌のビュートが古井戸へと向かい、中を覗き込む。

「貞子さん、貞子さーん。」

「……『貞子』は噂上のついた名前で、本名じゃないと思うぞ。」

「貞子さん。貞子さーん。」

「……聞いちゃいないな。」

 

 その時だった。

 一人井戸の中へ呼び掛け続けるビュートの背後で、禍々しい気配が蠢きだしたのは。

 徐々に悪霊の姿が浮かび上がってくるが、愉しげに井戸の中へと呼び掛け続けるビュートは、気がつかない。

「おい、ビュート。後ろ……」

「何ですか、オルカ。どうかしま……」

 オルカの言葉に振り返ったビュートは、ようやく背後の悪霊に気付き……

 次の瞬間、絶叫した。



「ぎゃあぁーーーっ!!お化けーー!!」

「……おまえもな。」



「何のんびりしているんです!?助けてください!!」

「いや、先輩として物申すんだろ?」

「あんなの貞子さんじゃありません!貞子さんと言ったら、髪が長くて白い服を着た女の人で!!あんな……大して有名でもなさそうな醜いだけの悪霊なんて、私の子分に相応しくありません!!」

「……目的変わってないか?」

「せっかくかの有名な貞子さんを子分にして、私も一躍有名人ならぬ有名霊になれると思ったのにぃー!!」

「……真の狙いはそれだったのか。」

「私のささやかな野望を打ち砕いた罪は重いです!ゴーストバスター・オルカが貴方をやっつけます!覚悟なさい!!」

「いやいやいや。勝手に決めるなよ。そもそも俺はゴーストバスターなんかじゃ……」

 オルカの反論に、ビュートは血走った目で睨み付けた。

「……学校、たたって欲しいんですか?」

「!!わ、わかったよ。やればいいんだろ!やれば!?」

 見えるだけじゃなく、徐霊だってできないわけではない。

 ビュートくらい強力な霊では手に余るが、気配からして目の前の悪霊程度ならばなんとかできそうだ。

「それでこそオルカです♪」

 一見すれば無邪気な笑顔を浮かべているビュートであるが、守護霊どころかオルカにとっては疫病神だ。



「くっそー!ビュートの方が悪霊だー!」



 霊感少年オルカの受難の日々は、ビュートが傍にいる限りまだまだ続きそうである。



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