7、路線を変更して武器は己の体。なデスメイドを目指す侍女兼勇者の娘のターン
周囲に人気がないことを確認しつつ、私は目的地を目指す。迷路のように曲がりくねったバラの垣根。気分はいつしか親父さんが聞かせてくれた「不思議の国のアリス」だ。先ほど噂に聞いたことのある「王妃の庭園(★★★)」(★の数は危険度を示しているらしい)で失いかけた右こぶしを握り締める。
迷子。
その言葉が脳内でくるくると踊る。
そう、迷子。確かに私は迷子だ。しかし、こんな状況に陥ったのは奴のせいだ。
数分前のやり取りを思い出す。
「あ、猫だ~。待て~。待て待て~」
「え、ちょ、卯月さ…消えた!?魔法使いやがった!?」
魔力のまの字さえ持ち合わせていない私には、彼の追跡など、不可能だった。
夕方になれば、外出が周囲にばれないように仕事に復帰させてくれる、という約束で城下を案内してやったのだが、奴はきっと忘れている。絶対に忘れている。もう、それはすごい勢いで忘れているに違いない。
かくして宮廷魔術師殿の補助を失った私は、自力で場内に侵入し、周囲に気づかれぬように、今なお仕事をしている私の分身と入れ替わることを余儀なくされたのである。ハードルたけぇ!
そのうち殴る。男の姿をしているときに。
決意を固めていると、ふと背後に人の気配を感じた。
ここまで近づかれるまで気づかないとは。そう思い、舌打ちしたい気分になった。顔を見られると面倒だ。周囲には他に人の気配はない。
一瞬で決める。
とりあえず手刀で意識と記憶を飛ばしておこうという結論に至った私は、180度半回転し、そして動きを止めた。いや、止められた。
「ふう、怖かった~。いきなり殺気立つんだもんね~…」
そう言って汗を拭くしぐさをして見せたのは、奴だった。
「って、アレ、なんか殺気増してない?とりあえず納めない?」
どうやら、この体の硬直は卯月さんの魔術によるものだったらしい。渋々殺気をしまうと、体が解放された。
「人を放置するほど猫好きな卯月さん、約束は覚えていますよね?」
「あ、根に持つね~。大丈夫、思い出したからこうして探しに来たんだよ」
…少々引っ掛かりを覚える単語を聞いたのは気のせいということにすると、約束はきちんと守る人だと、少しだけ卯月さんを見る目が変わった。
「ま。あの分身は集中力切れて消し…消えちゃったからすでに城内大混乱なんだけどね」
…前言撤回だ。
補足説明?
元々この小説は姫、侍女、魔術師、勇者の娘、の四人でやる予定だったもので、
この話を書くときに勇者の娘役の人が辞退。侍女役の人が勇者の娘も兼ねることになったのです。