3、フライングしちゃった侍女さんのターン
「ここが、噴水広場です。正式には中央公園なのですが、みんな噴水広場って呼んでます」
「ほ~ん、広いねぇ~」
「建国記念日には祭りが開かれます」
「それは楽しみ」
ノンキな声を上げたのは、最近宮廷魔術師としてやってきた、卯月さんだ。そういえばまだ城下をゆっくり見たことがないから、と案内を頼まれたのはついさっきのこと。ちと急すぎやしませんか。仕事がまだあるんですが。とは思ったが、魔法で私の分身を作ってそれに私の代わりをさせておく、と言われたので、最終的に了承した。休みが取れたと考えれば、少し得した気分だし。
隣で卯月さんがもの珍しそうにあたりを見回していた。何となく見上げていると、彼は視線に気づいたのか、首をかしげた。黒髪がさらりと揺れる。
「どうかした?」
「いえ、何でもありません」
首を振ると、彼の興味はすぐに別のものに移ったようだった。
そういえば、今の卯月さんは彼だが、初めて言葉を話した時、彼は彼女だった。
半月子ど前の庭園。たまたま通りかかったそこに、彼女はいた。
蔦に絡まれて。
「え?」
思わず洗濯物を取り落してしまった私だったが、すぐに我に返り、蔦に駆け寄った。息をしていることを確認し、剪定ばさみで蔦から彼女を開放する、という動作を必死に終わらせた私は、目を覚ました彼女の言葉に固まった。
「せっかくよく寝てたのに…なんで起こしたの」
「ま、紛らわしいわーっ!!」
叫んでしまったのは、仕方がないことだと思う。
何はともあれ、この出来事があってから、私と卯月さんには交流ができた。目の前で叫んでしまったので、いまさら猫かぶっても…。ということで、私は卯月さんに様付けはしないし、表情もあまりとりつくろわないことにした。
「じゃあ、卯月さん。次はあっちに行きましょう」