16、上司踏んじゃった魔術師のターン
忘れないうちに
「ユノさん!トリシャさんを助けないと!!」
その言葉に私は適当に頷く。
「うん、うん。そうだね。でもね、手を力いっぱい握られてたら、僕どこにも行けないよ?」
はっとした顔をして姫様は手を放した。それから、取りつくろうようにもう一度言った。
「早く!!トリシャさんのところへ!!」
いやいやいや、行けと言われても家知らないし。とか言ったらまためんどくさそうだな。
「ああ、行ってくるよ」
といって自室にとんだ。本当姫さんは、人を疑うことを知らないなぁ。そんなことを考えながら次の瞬間には床に着地―したはずだった。
「きゃっ!」
女性の短い悲鳴。ドゴッ。何か固いものがぶつかる音。ぎゅむ。なにか床ではなく、柔らかいものを踏んだ感触。…ん?不思議に思い下を見ると、床に倒れ伏した女性がいた。
「何やってるんですか?リリアスさん」
長いブルネットの髪。琥珀色の目。細身の銀縁メガネをかけたその人は、名をリリアス・リルフィリアといい、私をこの国に読んだ張本人である。
「ん、いやー部屋の前で待ってようと思ったんだけど、暇で。えへっ」
ようするに、こんなんが上司である。
「…はぁー」
「え、何そのリアクション。まあいいや。はいこれ」
と差し出されたのが妙に分厚い書類…。
「何ですか?これ…」
「ん?まあ、読めばわかるって!じゃ、あんまり問題起こさないようにねー」
そう言って彼女は少し風を起こし消えた。
で、その書類。「メルネステル魔導院院長を務めるにあたり」
…ん?ん゛ん゛ん゛!?