12、親父さん登場!な侍女さんのターン
結論。姫様はド天然でした。まる。それから卯月さんはお城の精霊さんでした。かっこ笑い。
後で卯月さんに出すコーヒーに塩とタバスコのどちらを入れるか考えながら、こちらを上目づかいでチラ見してくる姫様を見つめる。
昔、寝物語に、と親父さんが語ってくれた、『ノンフィクション、うちの国のお姫様』を思い出した。
二人の王子が誕生した後、数年の間をおいて誕生したメルネステル王国第三子。第一王女である彼女の誕生は、国民全員が手放しに喜び、特に、現国王陛下は王子たちの比ではないほどに娘の誕生を喜んでいたらしい。そして、今まで『獅子はわが子を千尋の谷に突き落とす』が教育方針だったものが豹変。過保護親バカに変貌を遂げたそうな。そしてある日、自分の腕に抱かれた姫様を見ていた陛下は思った。親父さん曰く
「このまま育ったら絶対超絶美女になるよこの子。周囲が黙ってないって。…はっ、隣国のブスどもがねたんでソフィを暗殺に出るかもしれないうん、今のうちに潰しておくか」
とりあえずその暴走は親父さんが頭はたいて止めたそうだが、必要以上に姫の暗殺を案じはじめた親バカは、侵入不可能な塔の最上階に姫を住まわせた。そして塔を取り囲むようにバラの迷宮を。今思い返せば、先日私がさまよっていたのはそのバラ庭園だったのだろう。
「あの…トリシャさん?どうかなさいました?」
どうやら少し考え込んでしまっていたらしい。気づけば、不安げに眉根を寄せた姫様がこちらを見つめていた。
「いえ、なんでもございません。…それよりも、その城の精霊のことを、ほかの方には?」
「いえ…」
きっと、陛下の耳に入れば卯月さんはすぐに特定され、ただでは済まないだろう。…恩を売っておくのも悪くはない。
「姫様。彼女のことは、このままほかの方には言わずにいてほしいのです」
「まあ、なぜ?」
「彼女は元来、人に存在を意識されることを良しとしない存在なのです。ですが彼女はとても優しい心根を持っています。友を切望するあなた様を放っておくことができず、姿を見せたのでしょう」
「まあ、そうだったのね」
自分のことのように悲しむ姫様に、最後の一押しとばかりに私は言い放った。
「そうなのです。彼女の意思を、どうか、汲んでくださいませ」
「承知しましたわ。私、決して他言いたしません!」
私の手を取り、何度もうなずく姫様に、思わずチョロイなとほくそ笑んだ矢先。私は部屋に響いた声に体を硬直させた。
「まあ、残念ながら、俺が陛下にチクるんだけどね」
聞きなれたその声の方向にギギギ…と時間をかけて振り返れば、そこにいたのは穏やかに微笑むメルネステル国宰相。いや、私の実の親父さん。アキラ・エヴァンズだった。