10、二週間ためてた侍女さんのターン
珍しく自分の仕事を全うしているとき、女性の声に私は呼び止められた。
「トリシャ・エヴァンズさんですね?神隠しにあった、という」
「…はい、そうですが」
またか。
内心、重いっきり顔をしかめる。
あの事件以来、仕事を押しつ…頼みにくる方に加えて、興味津々という様子な知りたがりお嬢様も大勢押し掛けてきて、以前にもまして自分の仕事に手がつかない状態なのだ。そろそろ給料が心配なのだが。
手短になアピールも兼ねて殺気を放出すると、相手は一瞬たじろいで、口早に言い放った。
「姫様があなたに会いたいとおっしゃっています。案内しますのでついて来てください」
緊張のあまり手が震えそうになるのを気合いでこらえて、私はティーカップを差し出した。礼を言われたので軽く頭を下げて相手に向かいあうようにいそいそとソファーに腰を下ろす。気が動転しているからとはいえ、何も言われていないのに座るなんて姫様相手にしてはいけない無礼なのだが、人が払われたこの空間には睨みつけてくる王道侍女さまはいなかった。
なんとなく姫様から視線をそらして、風に揺れるカーテン目を止める。上品なレースをあしらった純白のカーテン。デザインはシンプルだが、見るからに上司るな素材を使用した高級品だ。カーテンだけでなく、タンスや机などの調度品も同じように、豪華ではないが上質なものばかり。私の座っているソファーは、かなりすわり心地がよい。ちょー沈む。素直に、趣味のよい部屋だと思った。かなり私好みだ。
なんていう現実逃避も、そう長くは続かず。真っ直ぐに私を見つめるスカイブルーの瞳に現実に引き戻された。美しい人形を眺めている気にさせる、リアリティのないその容姿の中、強い意志の宿った、そのスカイブルーに思わずたじろいだ。
「急に呼び出してしまって申し訳ありません。早速ですが、本題に入らせていただきますね」
小鳥の囀ったような美声に、この人、本当に人間なんだろうかと疑問を持ちながらも、次に続く言葉が何なのか、予想を立てる。私を迎えに来た侍女様は、「神隠しにあったトリシャ・エヴァンズ」と言っていたので、そこら辺の質問なんだろうと確信する。根掘り葉掘り質問攻めされるのだろうか。とりあえず卯月さんと打ち合わせた言葉をそのまま伝えれば大体は大丈夫だろう。姫様の前髪を凝視することにして、言葉を待っていると、ヘニャリ。急に姫様の雰囲気が変わった。なんだか、クリーム色から淡い桃色になったイメージだ。頬を紅潮させ、目を輝かせた姫様はなんだか、普通の女の子だった。
「ユ、ユノさんとどういう関係なんですかっ!?」
「…ユノさん?」
あれ、神隠しの話じゃないのか?