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1、トップバッターという事実にびくびくしてる人が中に入った侍女さんのターン

侍女室に広がる上品な紅茶の香りに、目の前の娘はうっとりと顔を綻ばせた。

カートを出してきて、アフタヌーンティーに必要なもの準備をする。

「本当に、いい香りのお紅茶。姫様もお喜びになられるわ」

礼も言わずにルンルンとカートを押していく彼女を見送ると、私は床の雑巾がけを再開した。


私、トリシャ・エヴァンズは、王宮付の侍女である。

といえば聞こえはいいが実際は、姫様や王妃様の給仕などの、これぞ侍女!という仕事を任されることはまずない。

どちらかと言えば、そういう身分の方とは会うことすらできないような下っ端の下っ端で、仕事内容も、掃除、掃除、掃除と、最早侍女というよりは清掃員と言った方がいいような地位にいるのだ。

そんな私が何故姫様のアフタヌーンティーの準備をしていたか。それをいろいろ省いて説明すると、家事スキルのない侍女さんがちょいちょいいるからだ。

少し長くなるが、もう少し詳しく説明しようとすると、まずは王宮の侍女の仕組みから説明することになる。

王宮の侍女に選ばれるのは、よほどのことがない限り、貴族の御嬢さん方だけだ。

それも、国の有力貴族のご令嬢率が高い。

しかし、血筋がいい貴族令嬢さんは基本的に、蝶よ花よと育てられてきた、インザボックスガールズなわけで、当然家事能力など皆無なわけで…。

とはいっても、それは少し昔のはなしらしく、さすがに最近では、作法などと共にそういう教育をきちんと施されて育った人がほとんどだが、それでもいまだに王宮にはそういう人がいる。

そんな彼女たちの考えは、大体この一つにまとまるのだ。

「屋敷にいたときのように、自分より身分の低いものにやらせればいい」


ところで私は、公侯伯子男の、男爵家の出だったりする。

しかも、家系的なものではなく、親父さんがなんやかんやして男位をいただいた、所謂「成り上がり貴族」なのだ。

つまり、貴族は貴族でも、身分は最底辺に位置する貴族。

更に、私は物心ついた時からずっと、母親の実家である宿屋の手伝いをしながら育ってきたために、大体の家事はお手の物だ。

「身分が低い」+「家事ができる」=「彼女たちのかっこうの的」

悲しいことに、公式が成り立ってしまう。

思わずため息をつくと、急に肩に手が置かれた。

ああ、この状況に慣れてしまっている自分も悲しい。

「こんなところにいらしたのね。探しましてよ?」

ゆっくりと振り返れば、そこには満面の笑みと、バックに花を浮かせた侍女仲間が立っていた。

「手伝っていただきたいことがありますの」

「大変申し訳ありませんが、私只今手が空いておらず…」

営業スマイルで抵抗を試みると、その場の空気が急に不穏なものになった。

「あら、ご冗談を。トリシャさんは優しいかたですもの。ご自分の用事なんかよりも、私の頼みを優先してくださるわ。

 …そうでしょう?」

最後のドスの利いた一言で、彼女のバックに浮いていた花は凍って砕け散り、私は負けた。

「私などでよろしければ、微力ながらもお役にたてるよう、誠意を尽くさせていただきます」

自分の性別を棚に上げ、私は思うのだった。

…女は、コワイ。


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