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VS元嫁

さぁ、バトル開始です。

 街で偶然、慎也さんの元嫁・彩さんに出会った。できれば一生会いたくなかったのに。

 しかも元嫁の隣には男の人。同じ指輪をしているから、恐らく再婚相手。ってことはさぁ……。


「……ご無沙汰しております。鮫島さん」


 男の人は気まずそうに畏まって彼に挨拶をした。

 やっぱり元嫁の浮気相手!? うわっ、これってもしかして、かなりの修羅場ってやつ? というか二人、面識あったんだ! 他人事なら楽しいのに、彼がからんでいるとなると面白がってなんていられない。


「ご無沙汰しております、中原さん」


 慎也さんは普段どおりの様子で挨拶を交わした。

 再婚相手は中原さんと言うらしい。元嫁、もとい彩さんはわたしに視線を移した。


「……こちらの方は?」

 

 彼女の問いに彼は答えた。


「俺の婚約者」


 そう言われたら自己紹介しないわけにはいかない。


「はじめまして。樫本ラナです」

「はじめまして。彩です。こっちは中原克典。わたしの今の旦那様」


 彩さんの言葉に、中原さんはペコリと頭を下げた。この人、尻に敷かれていそう。


 しかしこの元嫁、すっごい美人だな。背も高いし、華奢だし、メイクもバッチリ。見た目儚げで、お人形さんみたい。やっぱ慎也さん面食いかも。

 何でわたし、彼と婚約までいけたんだろう。もしかしてどこかのネジ二、三本落とした? ……って自分で言ってて悲し過ぎる。

 ぼんやりそんなことを考えているわたしをよそに、彼は彼女と話していた。


「久しぶりね。離婚以来かしら」

「ああ。元気そうだな。まだ仕事続けているのか?」

「ええ。あなたは順調に出世してるみたいね。周囲が聞かなくても教えてくれるわ」

「そうか」


 至って普通だな。わだかまりがあったとは到底思えない。なんか仲良さそう。ちょっとジェラシー。

 チラリと中原さんに視線を向ける。するとやっぱり気まずそうに小さくなっている。そりゃそうか。だってある意味略奪愛だもん。慎也さんに負い目があるのかも。


「ねぇ、もうお昼ご飯食べた? まだなら一緒にどう?」


 突然彩さんが言い出した。ちょっと待ってよ。すっごく嫌なんだけど。それに中原さんのこと考えてやれよ、元嫁ぇぇ!

 しかしやはり似たもの同士なのか、彼はその申し出を了承してしまった。わたしは驚愕して、彼を見上げた。


「ただし、すぐそこの中華の店な」


 その店へ向かう道中で、彼に小声で抗議してみる。


「何で話に乗っちゃうんですかっ」

「だって中華のオーダーバイキング行きたかったんでしょ? 人数がいればそれだけ色々な種類食べられる」


 そりゃそうだけどさ、元嫁と食卓囲むぐらいならラーメンのほうがいいのに……。それぐらいわかってくださいよ、大人なんですから。わたしに元嫁の話が鬼門なら、元嫁自身は鬼門中の鬼門ですよ。

 なんでこうなってしまったんだろう。中原さんも断ってくれればいいのに……って無理かな。無理そうだよなぁ、見た目からして。


 このオーダーバイキングの中華の店は、夜は高級な感じの店だけど、昼はお手頃価格でおいしい中華が食べられると大人気。幸か不幸か、完全なる個室に案内された。


 うわぁ、気まずい。すっごく気まずい。でも一番居心地が悪いのは中原さんなんだから、わたしが愚痴っちゃいけないよね、うん。


 食べることに集中しよう。オーダーバイキングは二時間。こうなったら満腹以上に食べまくってやる。ドレスが着れるかどうかは、この際関係ない!

 慎也さんがわたしに注文を任せると言ったので、本当に食べたいものを全部注文してやろうとどんどん頼む。するとあまりに多すぎたのか途中で止められた。


「ものには限度があるでしょ。食べ終えてから次の注文にしなさい」


 ごもっともなその言葉も、今はイラつく原因にしかならない。


「全部食べられると思って注文してるんです。それから皆さんも完食に協力してくださいね。だって注文をわたしに丸投げしたのは皆さんですから」


 そう言って注文を続けた。彩さんがボソッと「わたしそんなにも食べられないわ」と呟いたのは聞かなかったことにする。彼は呆れたようにわたしを見た。その視線、今は本当にイラつきますから!


 品物が届くまでしばし待つ。でもわたしはただ黙っていた。ぶっちゃけ話すことなんてないし、こっちから話をふるつもりもない。口を開いたらイヤミっぽいことを言ってしまいそうだし。無言を貫いておくのが無難でしょう。

 わたしの様子を気にすることなく、彼は彩さんと話している。当然、中原さんもわたしとおなじで無言。お互い気まずいよね、本当に。ある意味仲間!?


 まもなく続々と運ばれてくる料理の数々。もう自棄食いするしかない。気分は急降下。もともと不機嫌なのにさらに不機嫌になっちゃうよ。

 だってすっごいにこやかに話してるんだよ、慎也さんと元嫁。盛り上がりすぎて二人の世界築いてるんだもん。とても入って行けないよ。中原さんもわたしと同じ。黙々と食事している。


 慎也さんって大人の中の大人って感じなのに、こういう気遣いはできないかね? むしろ元嫁に『もう話すことは何もない』とか言って欲しいぐらいだよ。


 そうです、今わたし元嫁に嫉妬してます。かなり嫉妬中。犬のとき以上にムカつく。

 だって元嫁、慎也さんとあんなことやこんなことしてたんだよ。わたしよりも付き合いは長いし。わたしが知らない慎也さんをいっぱい知っているんだ……。


 テンションがた落ちのときに食べる料理って、あまりおいしく感じられないな。ここの料理はおいしいって評判なのに。

 それでも食べることしかできないから、ひたすら食べる。慎也さんと元嫁は食べることより話すことに熱心だ。中原さんは無言で普通に食べ進めている。でも大半の料理はわたしが平らげている。

 あぁ、本当にドレス着られなくなるかも。そうなったら全部慎也さんのせいですよ。婚約者を暴飲暴食に走らせるほど不安にしたんですから。


 食べ始めて一時間ほど経った頃、わたしは休憩がてらトイレに向かった。

 スッキリして個室から出てくると、洗面台の前に元嫁がいた。


 うわっ、なぜ同じタイミングでトイレに来るわけ!? 本当にありえない。気まずいだろうがぁ!


 彼女はわたしをじーっと見つめてきた。その視線、すっごく嫌な感じ。


「あなた、一体どんな手を使ったの?」


 その言葉の意味が、一瞬わからなかった。でもすぐに理解する。要するに、どんな手を使って慎也さんの婚約者の座についたのかって聞きたいわけだ。


 イライラッ。この人、見た目儚そうで大人しそうなのに、中身はとんでもないな。性格、絶対悪いよ。慎也さん、女の趣味悪いよ。ってことはわたしも似たり寄ったり!? いやーっ、一緒にしないでーっ!!


「……どういう意味でしょうか?」


 わたしは努めて冷静に訊いてみた。彼女は笑って答えた。


「そのままの意味だけど?」


 イライライラッ。ムカつくーっ! わたしみたいなちんちくりんで、平凡な小娘が似合わないって言いたいんだろう。


「特に何も」


 短く返答すると、元嫁は小さく呟いた。


「魔が差したのかしら……」


 しっつれーなっ! わたしに対する侮辱がひどすぎる。想像していた元嫁像がガラガラと崩れていく。いい女イメージだったのに! ガッカリだよ。

 わたしはニッコリ笑って言ってやった。


「直接慎也さんに訊いてみたらどうですか?」


 そしたらあの人、人前だろうが甘アマな言葉を並べるだろうから。ビックリするがいい!

 その言葉に彼女は「そうするわ」と頷いた。

 手を洗うわたしをたたずんで見ている。鏡越しに目があった。


「わたしたちの離婚の原因、知っている?」

「……はい」


 正直に答える。この人、何が言いたいんだろう?


「きっと同じことを繰り返すわよ、彼」


 そう言い残して出て行った。しばらくそのまま動けなかった。


 ……なんなの、あの人。人の恋愛に波風立てて楽しい? 今のあの人、幸せじゃないのかな? だから元旦那を幸せにしたくない……とか?

 イライライライラッ。ありえない。どれだけ性格ブスだよ!


 さらに怒りが沸いた。このまま帰ってしまいたい。もうあの人と同じテーブルで食事を取る気も起きない。あの人とにこやかに話す彼を見たくない。

 どんどん下がるテンションの中、重い足取りで戻る。部屋に入るなり、彼が声を掛けてきた。


「遅かったね」

「はぁ……」


 元嫁のせいですよ。あの人がわたしの魂が抜けかけるようなこと言ったからですよ。あぁ、苛立つ。


 チラリと彼女を見ると、さっきあんなことを言った人だとは思えないぐらい、すました顔で食事していた。なんだよ、猫かぶりかよ。ありえない。

 中原さん、一体彼女のどこが気に入ったんだろうか? まさか騙されてる? ううっ、かわいそう。涙が出そうだよ。


 帰れないなら耳を遮断し、料理に焦点を合わせてひたすら食べるしかない。麻婆豆腐、ロックオン!

 ガツガツ食べていると、耳にありえない言葉が入ってきた。


「ねぇ、慎也。覚えている? 大学の頃、一緒に中華街に行ったこと」

「ああ、覚えている」


 ちょいと待ったぁーっ! ここで学生の頃の話、する? 二人しかわからない話、するなよ! とはいえ、これまで話していたこともよくわからないけど。

 すっごい疎外感。わたしもだけど、中原さんも聞いてて気分よくないよね。『二人だけのヒミツ』みたいな感じ、するもんね。

 元嫁、何考えているんだろう。意味わからん。


「そういえば、まだ夫婦だったときも行ったわね。北京ダックが食べたいって」


 はぁあ!? 結婚してたときの話はタブーだろうよ! 駄目だ、もう我慢の限界……。


 わたしは無言ですっと立ち上がった。突然のわたしの行動に、三人とも注目する。


「ラナ、どうした?」


 どうした、じゃないですよ! わかんないんですか? この鈍感!


「……帰ります」


 わたしは財布から三千円を取り出して、テーブルの上に置いた。


「帰るって、いきなりどうしたの? 体調悪いのか?」

「体調はすこぶる万全ですが、気分は最悪です」


 はっきり言ってしまうのも大人げない気もするけど、人間、堪忍袋の緒が切れたらとんでもないことをしでかすんですよ!


「気分悪いの? だったら俺も帰るよ。送るから。それにこのお金はしまいなさい。ラナに払わせるわけにはいかない」


今さらフェミニストぶっても遅いんですよ!


「送らなくていいです。お金も。今の慎也さんに奢られたくありません」


 きっぱり言い切って、ペコリと頭を下げて個室を出た。


 出口へ向かって歩いて行くと、後ろからバタバタと駆け寄る音がした。


「あのっ、待ってください!」


 振り替えれば中原さんだった。立ち止まって彼を待てば、わたしのそばに来て、勢いよく頭を下げてきた。


「本当にすみません! 彩のせいで気分を害したんですよね」


 そうですね。気分を害したのは九割元嫁のせいです。でも一割は慎也さんのせい。


「彩のやつ、ああいうところがあるけど、根はいいやつなんです。だから許してやってください」


 いろいろと間違ってないか? なぜ中原さんが謝りに来るわけ? なぜ中原さんが追いかけてくるわけ? おかしいよね、これ。

 ブチッと、何かが切れた。


「ちっが――――う!」


 突然わたしが叫んだので、中原さんはビクッと身体を震わせた。


「あ、あの……」

「中原さん、よく考えてくださいよ。いろいろ間違ってると思いませんか?」

「えっ!?」


 わかってないのか、この人も。


「確かに彩さんのことで気分を害してます。でもなぜあなたが謝るんですか。そして気を使って追いかけていただいたのは嬉しいのですが、なぜあなたが追いかけてくるんですか」


 わたしの言葉に中原さんが目を丸くして、そして俯いた。


 個室の方向を見ても、人がやって来る気配が全くない。


 きちゃったよ、プッツンきちゃったよ。


「……文句言ってやる!」


 わたしは個室の方向へ戻って行った。




あぁ、また鮫島の高感度が落ちそう(汗)

次回、そんなヒーロー視点。

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