表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
94/99

クリスマスにリベンジ 前編

時期外れのクリスマスネタ

 もうすぐ十二月。慎也さんは昨年と同様、クリスマス近くまで多忙らしい。だけど今年は平日でも彼の家に行っているので、寂しくなんてないのさ。


 わたしもバイト三昧だぁ~と思っていると、彼から提案があった。


「クリスマスさ、旅行に行こうか」

「旅行?」

「そう。バレンタインに行ったあそこにもう一度行こう。実はもう予約、入れてあるんだ」


 そこには苦い思い出しかない。彼を拒絶して、傷つけたんだもん。できれば触れたくなかった。


「でも……」


 口ごもると、彼はわたしの頬を両手で包み込んで、視線を合わせてきた。


「前に言ったよね? つらい思い出を、ラナとの楽しい思い出で塗り替えたいって。だからラナとの苦しい思い出も、同じように塗り替えないか?」

「いいんですか? 仕事は……」

「大丈夫だよ。有給がたまり過ぎて、消化しろって総務に言われたばかりだから。そのかわり、年末は馬車馬のように働かなきゃいけないけど」


 迷ったけど、きっとわたしのためだよね……。ここで過去の失態から目をそむけちゃいけない。


「はい、行きます」


 わたしの返事に彼はとても嬉しそうだった。

 






 そしてこの旅行のために、一つの難関が待っている。


「ということなんで、イブとクリスマスは休みをください!」

「本当かい!? 困ったなぁ……」


 店長、お願いしますよ! 一生のお願い!


 バイト先のカフェ。休みを申請すれば、頭を抱えて困り顔の店長。そばにいた野口くんが意外だと言わんばかりの顔をした。


「ラナさん、とうとうクリスマスにデートっすか。やったじゃないっすか!」


 社員になった野口くんは先日、サヤカちゃんと入籍しました。結婚式は出産後にするんだって。彼女はすでにバイトを辞めた後だ。寂しいけど、ママになるんだからしょうがないよね。


「ふふふ、そうなのだ。だから店長、お願いします!」


 神様、仏様、店長様! お願い!

 拝んで、必死に頼み込むけど……無理か!?


 しかしここで天の声が。


「ちわーっす。遊びに来ましたぁ!」

「サヤカちゃん! 久しぶり~!」


 少しお腹が目立ってきたサヤカちゃんだった。場の雰囲気に、不思議そうに首をかしげた。


「ん? どうしたんすか?」


 状況を説明すれば、サヤカちゃんが臨時バイトに入ってもいいって言ってくれた。


「え、いいの? だって身体、つらくない?」

「へーきっす。それにしょーちゃんも通し勤務っすから、一人で家にいてもつまんないし。重労働は無理ですけど」

「もちろん無茶なことはさせないよ。サヤカちゃんが来てくれるなら助かる。ラナちゃん、クリスマス、楽しんでおいで」

「はい! ありがとうございます! サヤカちゃん、ありがと~! 今度何か奢るね」

「二人分なんで、覚悟してくださいね~」


 こうして無事休みも取れて、あとはクリスマスを待つのみ!







 クリスマスイブです。駅で慎也さんと待ち合わせ。これは以前と同じ。でもあのときとはテンションが違い過ぎる。今は浮かれすぎてルンルン!


 迎えに来てくれた彼の車に乗って、いざ目的地へ。一日目は前と同じところに行くんだって。ということは、まずはそば打ちですね。


「前はうどんみたくなりましたけど、今度はちゃんとそばを作りますから」


 自信満々なわたしに、彼は運転しながら笑った。


「楽しみだな」


 高速を三時間ほど走ると、視界に広がる光景は十ヶ月前とほとんど変わっていない。

 また来たんだな……。今度はきっと楽しい思い出ばかりですね。


 さて、そば打ち道場に到着。腕まくりをして、準備万端! 

 料理教室でそばを打ったことはないけど、手際は格段によくなっているはず。自分もそばを打ちながら横目でこちらを見た彼は、驚きの声を上げた。


「へぇ、上手になったね」

「本当ですか? えへへ」


 嬉しくなって、より真心を込めて手に力を込める。お互い作ったそばを半分ずつ食べることになっているので、張り切っちゃいますよ。味も褒めて欲しいもんね。材料は同じだけど。


 完成したそばを仲良く食べる。やはり彼の作ったものは、店で出しても通用するレベル。とてもじゃないけど敵わない。だけどわたしのそばを食べた彼が、感嘆の声を上げた。


「……おいしい。腕、上げたね」

「嬉しいです」


 自分でも食べてみる。以前と違って、ちゃんとそばの細さになるように慎重に切ったし、ゆで加減も完璧だと思う。成長したじゃん。やったね、わたし!






 お昼ご飯のそばに大満足した後は、例の展望台だ。前はあそこでテンションガタ落ちしたけど、今回はハイテンションのままですよ。


「うわー、何度見ても綺麗!」


 少し寒いけど、澄んだ空気が心地いい。この絶景、たまらないね。

 柵から身を乗り出して下を見る。高っ! 高所は平気だけど、さすがに怖いかも。


「こら、危ない」


 後ろから彼の腕が腰に回って引き寄せられた。斜め後ろを見れば、すぐそばに彼の端正な顔。そのまま抱きしめられる。


「平気ですよ。そこまでドジじゃありません」

「どうだか。ラナは危なっかしいからね」


 むぅ、また子供扱い。ムッとしているのが顔に出ているのか、彼はなだめるようにすり寄ってきて、頬にキスしてきた。それにびっくりして慌てる。


「慎也さん、人がいますから!」


 前は誰もいなかったからよかったけど、今日はいるんですから。恥ずかしいじゃないですか。ジロジロ見られてますよ!


「……見せつけてやればいい」


 なんちゅーことを! 羞恥心、どっかに捨ててきちゃったんですか!?


 ここ最近、以前より人前でのスキンシップが激しくなってきている気がする。ところ構わず抱きしめてくるし、甘えてくるし、ちょっと放置しただけで拗ねるし。子供か!

 でもそんなところもかわいいなって思ってしまう、わたしは病気です。





 展望台を後にし、お宿へ。チェックインのとき、お世話になった初老の男性の従業員さんが出迎えてくれた。


「いらっしゃいませ。ようこそおいでくださいました」

「お世話になります」


 ここも変わってない。でも案内された部屋は以前とは違っていた。部屋は二間の和室。それは前と同じ。でも……。

 あわわ、部屋に露天風呂がついてる!!


「あの……ここ、高いんじゃないんですか??」


 だって露天風呂だよ。そこから見える景色も絶景。部屋のランクが上がりまくってる。


「そこは訊かないのがルールでしょ?」


 いやいや、全額慎也さん持ちだもん。悪いよ。


「いいから。頑張ったご褒美はちゃんと貰うから」


 ニヤッと笑うその表情に、寒気がしたのは言うまでもない。


 ご飯まで時間があるので、先に大浴場に入ることにした。部屋のお風呂で十分だと渋る彼に、駄々をこねた。

 だって前に来たときは大きなお風呂を満喫できなかったし、混浴なんてしたらまたご飯抜きになるよ。豪勢なここのご飯を、わたしがどれだけ楽しみにしていると思ってるんですか!


 一時間後に待ち合わせをして大浴場へ。まだ早い時間だったために貸切状態。


「ふぅ~、いい湯だな~」


 独り言だってへっちゃらさ。ちょっとだけ泳いじゃうぞー(よい子は真似しないでね)。

 思う存分満喫してお風呂から出たら、彼はもう出てきていた。


「慎也さん、お待たせしました」


 彼に駆け寄る。

 うーん、やっぱり浴衣姿はイイ。フェロモン倍増。クラクラしちゃう。

 彼はわたしが雑に乾かした髪の毛をくしゃっと触って、顔をしかめる。


「まだ生乾きじゃないか。風邪をひいても知らないよ」

「大丈夫ですよ。外に出なきゃ平気です」


 だって館内は暖房ガンガンだもん。そのうち乾くよ、きっと。


 館内をぶらぶら散歩していると、温泉といえば……な代物に遭遇した。


「慎也さん、卓球ですよ、卓球」

「やりたいの?」

「はい!」


 ということで卓球対決です。十点先に取ったほうが勝ち。


「負けた方が勝った方の言うことを聞くってことで、いいですか?」

「……いいよ」


 ニヤリと笑った彼に背筋がゾクリ。ヤバイ、絶対勝たないと、きっとまずいことになる!

 ラケットを彼に突き出して、必勝予告。


「ぜーったい負けませんからね!」




 そして十分後、床に崩れ落ちてうなだれるわたしがいました、とさ。


「卑怯ですよ。あんな角度に打ち込んでくるなんて……」

「卑怯だなんて人聞きの悪い。これも戦略だよ」


 しかも台の端すれすれに打って来るんだよ。絶対アウトだって思ったもん。

 駄目だ、このままでは……。わたしは多少汚い手を使うことにする。


「い、今の勝負は無効です。だって慎也さんは元テニス部ですもん。ハンデがいります」

「テニスと卓球は違うと思うけど?」

「ラケットで球を打つんだから一緒ですよ。ハンデつけてもう一度!」


 しかし……。


「ハンデつけても俺の勝ち。今度は文句、ないよね?」

「……はい」


 くっ、悔しい――――! 卓球の神様、どうしてわたしを見捨てたの――――!?


 台にうつぶせでもたれかかって地団駄を踏んでいると、手にしていたラケットを取り上げた彼が顔を近づける。


「じゃあ俺の言うこと、聞いてね?」


 ニッコリ笑うその顔、もう恐怖しか感じません!


 一体わたし、何させられるの――――!?




次回、あまっあま。

多分過去最高に(自分比)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ