ケジメ
お待たせしました。
あまあま強化期間のはじまり~♪
高階さんに彼の家まで送ってもらった。中に入るなり、彼は玄関でズルズルとへたり込んでしまった。
「大丈夫ですか!?」
ギョッとして彼の顔を覗き込むと、髪をくしゃっと掻き上げた彼は心底安堵したようだった。
「……緊張した」
「お疲れ様です」
その顔がかわいくて、ギュッと抱きつき、軽くキスする。すると上目づかいでわたしを見上げてきた。その眼差しに心が鷲掴みされる。
「……足りない」
彼の子供みたいなおねだりにほんわかと心が温かくなって、言われるままに啄むようなキスを繰り返す。玄関で何をやっているんだか。
満足するまでそんなことをしてから、一緒にお風呂に入っていちゃいちゃ。お風呂を出てからもいちゃいちゃ。二人そろって箍が外れたみたいに、いちゃいちゃ、ちゅっちゅ、です。えへへ~。
身も心も大満足してから彼の腕の中で微睡んでいると、掠れた声で彼が言った。
「明日、ラナの家へ一緒に行くよ。いろいろ心配かけたそのお詫びと、挨拶もしたいし」
「……う、ん……」
ドロドロに溶けきっているので、言っていることはわかるのに上手く反応が返せない。
「挨拶が済んだらちゃんとプロポーズするから、もう少し待ってて」
順番逆のような気もするけど……。ま、いっか。
愛おしげに髪をなでる彼の手の温もりが心地よくて、そのまま幸せな眠りに落ちた。
翌日の昼過ぎ、二人そろって家に帰る。出迎えた姉に思わず抱きついた。
「おかえりなさい、ラナ。鮫島さんも、いらっしゃいませ」
「こんにちは」
「ただいま、姉ちゃーん! ありがとうー!」
お腹を圧迫させないように気を付けながらね。甥っ子か姪っ子がいるし。
リビングに入ると家族勢揃い。わたしは報告した。
「じーちゃんとばーちゃんにちゃんと挨拶して、認めてもらいました!」
その言葉に母は満面の笑みだ。
「さすがわたしの娘ね。もし駄目だったら海外逃亡させるつもりだったのよ?」
逃亡って……。犯罪者じゃあるまいし。それにわたしは、一生パスポートは作らん! 骨は日本に埋めると言っておろうが!
「ラナ、よかったわね」
「うん。美羅ちゃん、みちると一緒になっていろいろしてくれたみたいだね。……ありがとう」
「いいのよ。かわいい妹のためよ」
美羅ちゃんと話していると、父が黙って立ち上がった。
「……鮫島君、ちょっといいか?」
そう言って、二人で和室に消えた。五分も経たないうちに、父だけが出てきてわたしに言った。
「ラナ、父さんはお前が幸せなら構わない。鮫島君と仲良くな」
「お父さん……」
ちょっと涙ぐんでしまった。父はさっさとソファーに座って、何事もなかったように新聞を読み始めた。
しかし、いつまでたっても彼が出てこない。
疑問に思って和室を覗くと、彼が壁にもたれて座り込んでいた。顔色がちょっと悪い。
「慎也さん!? どうしたんですか!?」
慌てて駆け寄れば、彼は苦しそうに首を振る。
「……大丈夫、だから……」
「どこがですか! ……父ですか? 父が何かしたんですか?」
「いや……何でも、ないから……」
しきりにお腹を押さえているので、強引にシャツをめくると赤くなっていた。内出血になっている部分もある。
「これ……」
百発百中で父が殴ったんだ……。空手有段者である父の拳は凶器なのに!!
「ごめんなさい……」
服を直してから、彼は力なく首を横に振る。
「いや、これがけじめだから。多分手加減してくれたし。むしろこれで俺のしたことが許されるなら、それでいい……」
それって……。
「父は知っていたんですか?」
彼は何も言わない。本当のところはどうなのかわからない。たとえ知らなかったとしても、顔に出やすいわたしを見ていれば、彼と何かあったことはすぐにわかるはずだ。
こんな目に遭わせてしまった負い目から、また涙ぐんでしまう。ボロボロと涙が流れるのでゴシゴシとこすって拭えば、その手を彼に捉まれる。
「赤くなるからやめなさい」
「だって……」
「いいんだ。ちゃんとお義父さんも認めてくれたから」
その大きな手でわたしの涙を拭い、彼は背広のポケットから細長い箱を取り出した。
「開けてみて」
箱の中身は誕生石のトパーズのネックレス。それを手に取った彼が、以前くれたネックレスを外してからそれをつけてくれた。わたしの頬をそっと撫でて、微笑みかけた。
「誕生日、おめでとう」
そういえば、今日はわたしの二十四歳の誕生日だ。いろいろありすぎて、自分でも忘れていたよ。まさか彼がプレゼントを用意してくれていたとは驚きだ。
「覚えててくれたんですか?」
「当たり前でしょ」
「ありがとうございます」
もっと泣きそうだ。
でもそれだけじゃなかった。
「それからこれも」
差し出されたのは小さな正方形の箱。指輪だった。リングの中央にダイヤモンドが埋め込まれている。
「これ……」
言葉が出ない。まさかこんなに早くこれをもらえるとは、思ってもいなかった。
「これを嵌めて“鮫島羅那”になる気はある? ――――ま、“YES”しか受け取らないけど」
「慎也さん……」
彼は力強い視線でわたしを見つめた。
「俺と結婚してください」
胸がいっぱいで、これが幸せっていうことなのかな? 一度はあきらめた純白のウエディングドレス、わたしも着られるのかな? 着ていいのかな? 歓喜が込み上げる。
わたしは泣きながら笑った。
「……はい。一緒に幸せになってください」
「ああ。幸せになろう」
彼は優しい笑みを浮かべて、わたしに指輪を嵌めた後、ギュッと抱き寄せた。わたしも彼の首にしがみつく。
「嬉しいよ、ラナ」
「わたしも……」
少し身体を離した彼は、指でわたしの涙をぬぐってから、コツンと額と額を重ねる。その甘いしぐさが、なんだかくすぐったい。
「好き」
「俺も」
「大好きっ」
「うん」
「大大大好きっ」
言葉では言い表せないほど、彼に対する愛情が膨れ上がっていく。
しかし、彼はそれ以上にわたしを幸せで包み込んだ。わたしの耳元に唇を寄せて、掠れた甘い声で囁いた。
「……愛してるよ」
うぎゃぁ――――!! エロス! エロボイス! もう悶絶して死にそう……。
照れて赤くなると彼はふっと笑って、優しいキスをくれました。
もう幸せで、幸せで、このまま時が止まってもいいです。つらかった日々はすっかり消え去りました。
慎也さん、もう絶対離れませんからね。わたしはしつこいですよ? 覚悟してくださいね。
「――――ゴホン。……あー、お取込み中に失礼。おふたりさん、そろそろ出てこないかしら」
二人の世界を満喫していると、閉められたドアの向こうで気まずそうな美羅ちゃんの声がした。
ヤバイ……聞かれてた!?
慌てて彼から離れて手で頬を覆う。早く熱、下がれぇ!!
赤みが引いた頃、和室を出た。彼と二人、床に正座をする。彼が両親を見据えて口を開いた。
「お義父さん、お義母さん。ラナさんを私にいただけないでしょうか」
彼が頭を下げるので、わたしもそれに倣う。
しばしの沈黙の後、同じように床に正座した両親から言葉が掛けられた。
「鮫島君、娘をよろしく頼みます」
「手のかかる娘ですけど、よろしくお願いしますね」
「はい、必ず幸せにします」
「お父さん、お母さん。ありがとう」
駄目だ。もう涙腺が馬鹿になっているよ。
感涙の涙を浮かべていると、姉二人も声を掛けてくれた。
「よかったわね」
「うん」
「鮫島さん、今度という今度は泣かせないでくださいね。次は本っ当に病院送りにしますから」
「……はい」
美羅ちゃんの言葉に慎也さん、ちょっと青くなっている。さっき父に殴られたばかりだから余計に。
「美羅ちゃん、慎也さんを脅さないで」
「脅しじゃないわよ、本気」
だったら自分のろくでなし彼氏をしばき倒しておいでよ……。
隣にいる彼がギュッと手を握ってきたので、視線を移すとそこには優しい顔。
ああ、やっぱり隣にいられるっていいな……。
そんなことを思いながら、繋いだ手に力を込めた。
こうしてわたしたち、結婚することになりました!
無事まとまりました。
次回もまだまだ甘いっす。




