二度目(?)のデート その4
ようやく甘さ登場。いやぁ、長かった。
しかしながら短いです。
1話ごとの長さの調節って難しいですね…
手を繋がれたことで、思いきりドキドキしてしまったわたし。口数が少なくなっていると、そんなわたしを不思議に思ったのか、立ち止まって振り向いた鮫島さん。
「どうした?」
鮫島さんの顔を見た途端、挙動不審に陥った。鮫島さんはそれを見てクスクス笑い出し、繋いだ手をギュッと強く握りしめた。
「次はどこへ行く?」
くそー。余裕綽々かよ。経験値の差ってやつですか。
「つ、次はこの遊園地の名物ですよ!」
そう言ってやって来たのは“恐怖の館”。この遊園地、名物中の名物。“恐ろしさ満点、カップルで入ればラブラブになること間違いなし”との触れ込み。
別に鮫島さんとラブラブになりたいってわけじゃない。この澄ました顔を崩して、できることなら恐怖に貶めたいだけ。この余裕、崩したい。
というのもわたし、以前このお化け屋敷でバイト経験アリなのです。ここは人間がお化けをするのでめちゃくちゃ怖い。でもどこに何が出るのか知っているわたしは無敵。恐怖はゼロ。
名物とあって人気らしくすごい行列。わたしたちもその列に並ぶ。
この余裕そうな顔、いつまで続くのかしらん! 楽しみ!
並んでいるときも館の中から悲鳴が聞こえる。三十分後、ついに順番が回ってきた。うしししし、わめけ、叫べ~。
真っ暗な墓地を歩いていく。火の玉が浮かび上がり、やたら不気味な音が聞こえる。そろそろ来るぞ~。
「う~ら~め~し~や~~」
来た――――! 白装束の女――――!!
ちらりと鮫島さんを見上げる。全く動じていない。くそう。でも、まだまだこれから。歩き進めると廃墟が現れた。……あれ、廃墟なんてあったっけ??
――――――嘘でしょ! もしかして変わった?? いや、もしかしなくても変わったよ。
そう確信した瞬間から一気に恐怖が押し寄せる。本当に怖いんだよ、ここ……。
わたしは無意識に鮫島さんの腕に縋り付く。そろそろ何か出てきそう。すると後ろから足音がする。だんだん近くなってきて恐る恐る振り向くと――――――
「ギャ―――、落ち武者――――――!!」
思わず鮫島さんの腕を引っ張り、走り出した。前を見ずに走っていると誰かにぶつかった。前を歩いている人かなと思って謝る。――――が、
「すみま……いやあああああっ!!」
ぶつかったのは血まみれのゾンビだった。あまりの恐怖にもう限界。泣きながら鮫島さんに抱きついた。ガタガタ震えて、鮫島さんの胸に顔を押しつけて号泣した。
その後ものそのそと歩いてはお化けに遭遇し、そのたびに絶叫しながら彼に助けを求めた。鮫島さんはギュッと抱き締めてくれて、「大丈夫だから」と優しく頭を撫でてくれた。その心地よさに少しだけ落ち着くことが出来た。
お化け屋敷を出るころには涙で顔がぐちゃぐちゃだった。ああ、びびらせるつもりだったのに、こっちがびびってしまった。……情けない。
がっちり抱きついたままだったことを思い出して、すごく恥ずかしくなった。慌てて離れると、彼は優しい顔でわたしの顔の涙を指で拭った。
ヤバイ。何この恋愛フラグが立ちそうな雰囲気。居たたまれなくなって「トイレに行ってきます」と言ってその場から逃げた。
すげぇな、恐怖の館。なめてたぜ。甘い関係ではないわたしたちを甘い雰囲気にさせるとは……。触れ込みは真実だった。
トイレで鏡を見るとメイクが落ちかけていた。こんな顔を鮫島さんに晒してしまったのか。最悪。落ち込みながらメイクを直した。
……ん? 考えが乙女モードになってる。どうしたわたし! これも館効果なのか?
鮫島さんと顔を合わせづらくなって、逃げ出したい衝動に駆られる。でもそんなことができるはずもない。ため息をついて鮫島さんのもとへ戻ると爽やかに迎えてくれる。
「大丈夫? 落ち着いた?」
「はい。お恥ずかしいところをお見せしました」
俯きながら顔が真っ赤になるのを自覚する。結局、彼はあのお化け屋敷で顔色一つ変えることはなかった。この人がビビることはないのだろうか。
「時間的にそろそろ最後かな。何乗りたい?」
「最後ですか……。じゃあアレ」
指差すその先には観覧車。正直緊張するけど、これまで落ち着いて話せなかったからちょうどいい。でも鮫島さんはすごく嫌そう。
「君、私が高所恐怖症だって知っていて言ってる?」
「大丈夫ですよ、下見えないですし。……話したいこともあるから」
わたしの意図を理解してくれたようで「わかった」と頷いてくれた。
互いに無言で乗り場へ向かった。順番が来て観覧車に乗り込むまでその沈黙は続いた。
次回、デート編ラストです。
観覧車で二人は何を語るのか…
お楽しみに!