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トラブルメーカー参上

ラナ視点開始です。


 ある日、慎也さんから高級フランス料理店での食事に誘われた。これまでオシャレなお店での食事は何度かあったものの、流行に疎いわたしですら聞いたことのある高級店の名前だったので驚いた。


 た、高いですよ!? コースだと一人あたり一万円以上する店ですよ!? 何かの記念日? ……いや、去年の今頃はまだ出会ってすらいなかった。彼の誕生日はもう過ぎたし、わたしの誕生日はまだ一ヶ月以上先だ。

 考えても、どうしてこんな高級店へ誘われるのかがわからない。と、思っていたら取引先の関係で安くしてもらえるんだって。そういうことなら納得。高級料理をお安く食べられるなんてお得だもんね。


 しかし困った。そんな高級店、行ったことがない。いや、見合いのときの店も十分高級店だったのだが、あれは昼間だったからわりと緩いかも。でも今度は夜。一体何を着ていけばいいのだろう。

 考えるだけ無駄なので、たまたま家にいた姉に訊いてみた。


「あら。あの店、ドレスコードが厳しいわよ」

「行ったこと、あるの?」

「仕事でね。カップルばかりだから場違いで居心地悪かったわ」


 仕事であの店を使うなんて、さすが外資系。リッチだなぁ。


「そんな服、持ってないよ」

「貸そうか?」


 そう言われてもね。身長が違うし、体型も違い過ぎるよ。同じ遺伝子を持って、なぜこうも違うのだろう。神様って意地悪。

 わたしがいじけてる間に、姉はどこかから一着のワンピースを持ってきた。胸から下しかない露出度の高いものだった。


「これね、衝動買いした福袋に入っていたものなの。わたしには合わないけど、ラナなら着られるかも」


 促されるままにそれを着てみた。奇跡的にピッタリ。でも……。


「肩、丸見えで恥ずかしいよ」

「何言っているの。せっかくのデートなのよ。おめかししなきゃ。よく似合っているわよ」

「そ、そうかな……」

「でも夜なら少し肌寒いかも。ストールでも羽織っていくといいわ。あ、お化粧も変えなきゃね。その服に合った、大人の女性にみせるような」


 やけにニコニコ顔の姉の協力で、何とか洋服問題も解決。とうとうそのときを迎えた。






 待ち合わせ場所でしばらく待っていると、いつもよりも高そうなスーツに身を包んだ慎也さんが駆け寄って来た。


「ごめん。待たせたね。少し遅れたかな?」

「大丈夫ですよ。来たばかりですから」

「一度家に戻って着替えてきたから」


 ほほう。やはりドレスコードの厳しさゆえなのか。恐るべし、高級フレンチ!

 しかし見慣れている彼でも、やはりいつもとは雰囲気が違う。それが高そうなスーツのせいか、これから高級店に行く雰囲気のせいなのか、まったくわからない。ただ言えること、それは『いつも以上にかっこよすぎて、鼻血吹くかもしれない』ってこと。色気ダダ漏れ。


 店へ向かおうとして、彼が腕を差し出してきた。いつもなら手を繋ぐところがだ、お互いに華やかな格好をしているからなのか? 戸惑いながら彼の腕に手を添えた。

 歩き始めてから、一応訊いてみた。


「どうですか、慎也さん。ちょっと張り切っちゃいました!」


 普段こんな格好したことないから、どう思われているかドキドキ。でも甘い答えは返って来なかった。


「ストールは取らないでね」

 

 ……左様ですか。こういうところは変わりませんね。でも納得。


「ああ、風邪ひいたら困りますもんね」


 まだ夏といっていいけど、さすがに夜は肌寒いもんね。


 店につくと、どうやら予約してあったらしく、すぐに席に案内された。やはりコース料理らしい。ひょえ――っ。いくらお安くしてもらえたとしても一万円以上。これはなかなか味わえるものではない。食前酒のワインですら高そうで緊張しっぱなし。恐る恐る一口。……なんか渋い。で、でも、高いワインってそういうものだって聞いたことあるしっ(どこ情報かは忘れたけど)。


 キョロキョロ周囲を見回すと、姉の言っていたようにカップルだらけ。しかもほぼ満席。このド平日に商売繁盛ですな。


「カップルばかりですね」

「みたいだね。なかなか予約、取れないらしいよ」


 その予約をいとも簡単に取っちゃう慎也さん、あなた何者!?


 待ちに待った料理はどれもおいしかった。いつものお店もおいしいんだけど、“高級店”っていう肩書きがおいしさを押し上げているのかもしれない。

 さらにいえばこのロマンチックな雰囲気。彼がわたしに優しく微笑みかけている。そう、まるでドラマで見た、彼氏が彼女にプロポーズをするような……。

 ってわたしたちにはまだまだそんな展開、早いだろうけどね~!


 コース料理の大半を平らげ、残すはデザートのみ。甘いものが得意ではない彼の分も、ありがたく頂く。う~ん、美味。この柔らかシフォンケーキにとろける生クリームが堪りません! シンプルなのに、こだわっていますって感じ。

 上機嫌でケーキを頬張って、ふととある方向に目を留めた。そこには会いたくない人物の姿があった。


 ゲゲッ、直樹くん!?


 見つかりませんように、と念じながら顔を隠す様に俯いた。表情が強張るのを抑えられない。


「どうかした?」


 怪訝そうに尋ねる彼に返事できない。地獄耳のあいつに気づかれたら終わりだ。


 どっか行け、どっか行け……。


 だけどやっぱり神様って意地悪。テーブルのそばに影ができた。耳に入って来た声で、願いは儚く散った。


「久しぶりだな、ラナ」


 その言葉に、慎也さんが訊いてきた。


「知り合い?」

「他人です」

「つれないなぁ」


 冷たく即答すれば、クスクス笑われる。知らない振りしてくれればいいのに、どうして声をかけてくるのかな。隣には美人さんがいるんだから、こんな取るに足りない小娘のことなど放って置いてくれればいいのに。

 居座る気なのか、直樹くんは美人さんを先に席に向かわせた。そして慎也さんに視線を向ける。


「彼氏?」

「そうよ。あんたみたいに毎日相手が違うなんて最低な奴と真逆の、素敵な彼氏よ!」


 だから邪魔すんな、と思ってテレパシーを送ってみるも、通じない(当たり前だ、わたしにそんな力はない)。


「へぇ、お前に彼氏ね……。奇特な男がいたもんだ」


 馬鹿にされた!! むっかつく――――っ!!! わたしのことはまだしも、慎也さんを馬鹿にしないでよ!


「うるさい。用事がないならとっととどっか行って! 彼女、待ってるんでしょ? まぁ、どうせ遊びの女なんだろうけど」

「相変わらずだな」


 ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべるこの男。昔はこんな風じゃなかったのに。多少はマシだったのに。

 奴はすっと表情を変えて、今度は慎也さんに視線を移す。


「デート中にお邪魔して申し訳ありません。私は柏原と申します」


 微笑んで軽く会釈する。でもね、今さら取り繕ったって、もう遅いっつーの。しかしこの外面で何人の女をたぶらかしてきたんだろう。それに騙されちゃうのもどうかと思うけど。

 社会人としてできたお人である慎也さんは自己紹介してしまった。まずいですよ、その男に名前を知られると、どえらい目に遭いますよ!


「鮫島さん、また今度ゆっくりとお話ししましょう」


 そう言って頭を下げて立ち去ろうとした。さっさと行ってしまえと心の中で悪態をつく。しかし立ち止まって振り返ったかと思ったら、とんでもない爆弾を落としていった。


「そうそう。この間、ラナのご両親にも言ったけど、俺まだお前のことを諦めたわけじゃないから」


 なんじゃ、そのセリフ! 意味深なこと言うな――――!! 慎也さんに勘違いされるだろうがぁ――――!!!


 言うだけ言って後始末しないつもりか。冗談じゃない!


「ちょっと! 待ちなさいよ!!」


 怒ったわたしは直樹くんの後を追った。店の奥で捕まえる。


「どういうつもり? 彼の前であんな勘違いされそうなこと、言わないでよ」


 あの言葉だと、わたしと直樹くんの間に何かあるんじゃないかと思ってもおかしくない。


「お前が悪いんだろ? 俺の話を無視するから」

「あの話なら何度も断ってるでしょ。しつこいんだってば」

「諦められるか!」


 何年経てば諦めてくれるんだろう。はじめにあの話をされたのは大学三年の頃だから、もう三年だ。本当にしつこい。


「あんたの世話にはなりたくない。わたしのことは放っておいてよ」

「駄目だ。俺にはお前が必要なんだ。頼むよ……」


 らしくない必死な懇願で少々戸惑っていると腕を引かれて抱き締められる。すると耳元でボソッと呟かれる。


「……俺の要求を呑まなければ、お前らの仲ぶっ壊してやる」


 何だとコラ。結局脅迫かよっ。


 そう思っているといきなり顎を掴まれて、唇をギリギリ避けるようにキスされた。嫌がらせにもほどがあるぞ! 直樹くんの身体を押しのけて、思い切りビンタした。本当はグーパンチしたかったけど、平手で我慢してやるわ!


「だからあんたなんて大嫌いよ! 何でも思い通りになるなんて思わないことね」


 この俺様が! わたしはあんたの言いなりになんかならないんだから。

 直樹くんは頬をさすりながらも、ペロリと唇を舐めた。……きもっ。


「俺は欲しいものは必ず手に入れる。たとえどんな手段を使っても、な。絶対諦めない」


 なんでそんな言い方するわけ? 


 一つの疑問をわたしに抱かせて、嵐の様に去っていった。呆然としていれば冷ややかな慎也さんの声が耳に入って来た。


「彼とはどういう関係?」


 まさかそこにいるとは思わなくてビクついてしまう。振り返れば恐ろしい表情の彼が立っていた。


「あ……慎也さ……見て……」


 この状況、ヤバくない!? だって抱きしめられたし、唇ではなかったにしろキスされたし……。慎也さん、めちゃめちゃ怒ってるよ。


「誰? 言えないの?」


 静まり返ったこの空間に、その低い声が恐ろしさを増大させている。


「あ、あの、ただの……」

「ただの……、何?」


 取るに足らない関係ですよ。でも、知られたくない。この事実を知ってしまったら慎也さんは変わってしまうかもしれない……わたしに対する態度を。


「……知り合いです」

「そのわりにはずいぶん親しそうだね。両親公認の仲ってわけ?」


 確かに両親は知っていますよ、わたしと直樹くんの関係。でも彼の問いには答えられなかった。


「彼、随分ラナにご執心みたいだけど」

「それは違います。あいつは昔から女をとっかえひっかえしてて……」


 それで迷惑被ったんですよ。ええ、本当に。


「へぇ、そんな前からの知り合いなんだ。で、俺には言えないの? 彼との関係。唇を許せる間柄なんだろう?」

「それは……」


 決して許してないんですけど。口ごもっていると乱暴に手を掴まれ、テーブルまで戻った。彼がわたしのかばんを掴み取り、店を出た。


「慎也さん!?」


 声をかけても無視される。彼の怒気がひしひしと伝わって、思わず身震いしてしまう。

 これはマズイ、マズイぞ。頭の中で警報音が響いている。 


 誰か、助けてください!!


 



楽観視していたラナでした。

まさに天国から地獄……

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