狂気にのまれた夜
前半に無理矢理描写あり&けっこう病んでます。
苦手な方は閲覧注意です。
自己判断でお願いします。
彼女の言葉を一切無視して、どんどん歩みを進める。店から十五分ほどのところにあるラブホテルに連れ込んだ。こういうところに連れて来たことはなかった。しかし今の俺には場所なんて関係なかった。とにかくどこでもよかった。彼女は自分のものだと、ただ実感したかったのだ。そこに入るのを躊躇した彼女を無理矢理引きずり込む。
部屋に入るなり乱暴に彼女をベッドに放り投げる。倒れ込んだ彼女に伸し掛かる。俺を押しのけようとする両手を片手で抑え込み、頭上で一纏めにする。それからもう一方の手でネクタイを外して、彼女の両手首を縛り上げて拘束する。
俺を見上げる彼女は真っ青な顔をして小さく震えていた。その大きな瞳には恐怖が滲み出ている。どうしてそんな顔をする。いつもみたいに笑顔を向けて欲しいだけなのに。
「し、んや、さ……やめ……」
震える声で懇願する彼女をまるで獲物を捕らえる獣のように見る。キスしようとすれば顔を背けて俺を避ける。あの男には許したくせに……。それが腹立たしくて顎を掴み、強引に口づけた。彼女は尚も嫌がる素振りをし、ジタバタと暴れる。どうして拒む。こんなに好きなのに、愛しているのに。
普段なら彼女の気持ちを一番に考えている。多少無茶なことをしたとしても本気で嫌がることは絶対にしない。だけどこのときの俺はあの男の出現に影響され、真っ黒な嫉妬という闇に支配されていた。理性なんてものはとっくにない。ただあるのは彼女を自分だけのものにしたいという狂気だけ。
「やっ……」
否定の言葉なんて聞きたくない。何か言いたげな彼女に呼吸もままならないほど何度も何度も強引に深く口づける。舌を絡め取り、歯列をなぞり、唾液を注ぎ込む。彼女は息苦しいのかボロボロと涙を流し、うまく飲み込めない唾液を口の端から垂れ流した。解放すれば、荒い呼吸でうつろな目をして視線をさまよわせる。
ストールを剥ぎ取り、露わになった首筋から鎖骨に顔を埋め、強く吸いつき、舐める。すると再び彼女が暴れはじめた。
「離して! 怖い!」
悲鳴に似た声に怒りが増大する。あの男には唇を許しておきながら俺を拒絶するの?
彼女の首元に手を掛け、ぐっと力を入れた。涙を溜めた目を見開き、苦しそうに顔を赤くしていく。少しずつ力を加えれば酸素を求めて喘ぐ。その様子を冷ややかな視線で見下ろした。そして自分でも驚くほど低く、冷たい声で言い放った。
「俺を……拒むな」
首から手を外せば、ゴホゴホとむせて荒い呼吸で酸素を求め、ぐったりと身体から力が抜けた。その隙に彼女から衣服を剥ぎ取り、再び組み敷く。あまりの恐怖からか身体を震わせて啜り泣くものの、それからは抵抗らしい抵抗を一切しなくなった。
もっと泣けばいい、俺を感じればいい。その濡れた瞳に俺だけを映し、俺に堕ちればいい。狂ってしまえばいい。俺がいなければ生きていけないほどに……。
自分の欲望のまま彼女を貪り尽くす。はじめはただ泣くだけだった彼女が、次第に甘い喘ぎを上げ始める。恐らく正気を保ってはいないが、それでもよかった。俺の下で恍惚の表情を浮かべ、淫らに快感に震えている。その様子に仄暗い笑みが浮かぶ。
――――堕ちた。
歓喜に沸きあがる身勝手な欲望。でもまだ満足できない。
「ラナ……俺の名前を呼んで?」
俺の声が届いていないのか、虚ろな目で喘いでいる。首筋に顔を近づけ、思い切り歯を立てて噛みついた。痛みで微かに正気を取り戻した彼女に、もう一度言った。
「名前、呼んで?」
「し……ん、や……」
無理矢理呼ばせた名前にどこか興奮を覚え、再び彼女の唇を貪る。彼女の全身に快感を植え付け、どんどん追い込む。そして何度か絶頂に達した彼女の中に、ようやく自身をねじ込んだ。その中はとても気持ちがいい。吐き出したい欲を何度も歯を食いしばって耐え、彼女の口から淫らにねだる様に仕向けた。
この日初めて、何の隔たりもなく彼女と繋がった。“避妊”なんて言葉がこのときの俺の中に存在しなかった。孕んでしまえばいいとすら思った。それで彼女を自分だけのものにできるのなら何度だって注いでやる。
再び攻め立てて何度か彼女が達した後、ようやく自分の欲を吐き出した。意識を飛ばしてぐったり横たわる彼女から自身を抜けば、その下肢を穢したものが目に入る。その淫靡な光景に黒い笑みが浮かぶ。
手首を拘束していたネクタイを解けば、くっきりとついた赤い痕。そんな痛々しい傷ですら、自分が彼女に刻み付けたものだと思うと歓喜が込み上げる。手首を手に取り、微かに滲んだ血をペロリと舐め取る。それすら甘く感じてしまう自分は、もはや狂っているのだろう。力の抜けたその小さな身体を抱き寄せて、力強く抱きしめる。
「誰にも渡さない……俺のラナ……」
狂気に飲まれた俺は決して彼女を離すことなく、力ないその身体を抱き締めたまま眠りについた。
翌日、目を覚ました俺は、自分の犯した事の重大さを理解し、罪悪感に虫食まれていた。
俺の腕の中でピクリとも動かずに深く眠り続ける彼女。頬には涙の痕、唇は赤く腫れ、首筋には歯型とうっすらとついた指の痕。全身に所有印、手首にはネクタイで縛ったときについた痛々しい傷。そして下肢を穢す自分の浅ましい欲。
何てことをしてしまったのだろう。一晩経ったことで頭は冷静に働く。だからこそ自分がいかに傲慢で無体なことを大切な彼女に働いてしまったかを痛感した。
犯罪者だな、俺は……。最低だ。もう二度と泣かせない、悲しませないと決めたはずなのに、あっさりと破ってしまった自分を心底呪った。
「ごめん……ラナ、ごめん……」
眠り続ける彼女の頭を、壊れ物に触れるかのように優しく撫でる。すると微かに身じろぎ、彼女がうっすらと目を開けた。しばらくは状況が理解できないようで視線を彷徨わせていたが、俺と視線を合わせた途端、表情を強張らせた。彼女の泣きはらした瞳は恐怖の色を浮かべていた。
「昨日は……ごめん」
再び頭を撫でようと手を伸ばせば、びくっと身体が震える。グサッと心臓が抉られるように痛みが走るも、自業自得だな、と伸ばしかけた手を引っ込める。
「あ……」
俺の様子に彼女は傷ついた表情になる。あの花が咲いたような笑顔、もう俺に見せてはくれないだろう。当たり前か……。
彼女から少し離れ、言った。
「ラナ、今から病院へ行こう。今ならまだ、間に合うから」
今ならまだ、妊娠は防げる、そう思って言った。その言葉に、自分がどんな状況なのかを初めて理解したらしく、涙を浮かべてカタカタ震えだした。抱き締めたかったが、そんなことをすれば余計に怖がらせるので黙って見ていた。しばらくして彼女は言葉に詰まりながら、俺を見ることなく言った。
「あ、あの……大丈夫です。病院、行かなくても……。ピル、飲んでるんで……」
そんなこと、全く知らなかった。その事実に安堵する反面、そこまで信用されていなかったのか、何だか拒まれているように感じて悲しかった。でも仕方ない。嫉妬に駆られて、あんなひどいことをする男、誰が信じられるものか。
とにかく今日は平日だ。俺は会社、彼女もバイトがある。でも休むつもりだ。彼女はきっと動けないだろうし、ここに放置するわけにはいかない。許してもらえるとは思っていないが、出来ることはしてあげたい。
「俺に触れられるのは嫌かもしれないけど、お風呂に入って身体を綺麗にしよう? 気持ち悪いだろう?」
「えっ……あの、平気です……。慎也さん、今日会社ですよね? 時間が……」
「会社なんてどうでもいい」
そう言い放つ俺に、彼女は激怒した。
「駄目です! 管理職が何言ってるんですか! わたしは一人で平気ですから、会社、行ってください」
「でも……」
「早く!」
あまりの剣幕に負けたが、このままここに放置はできない。
「……わかった。でもこのまま、ここには置いておけない。だから俺の家に一緒に行こう。一度着替えに戻らなきゃいけないし、ラナも着替えがいるよね。気が済むまで休んでくれて構わないから」
彼女は頷いた。全く動けない彼女の身体をきれいに拭き、服を着せて抱き上げた。俺に触れられたその身体はずっと硬直している。その様子に悲しさが込み上げる。
それからタクシーで俺の家へ向かった。家に到着し、再び抱き上げてベッドにそっと下した。風呂に入れようとしたが、それは拒否された。仕方なく一人でシャワーを浴び、着替えた俺は寝室で横になる彼女に声をかけた。
「……じゃあ行ってくるから。もし何かあったらすぐに連絡して。いいね?」
そう念を押せばこくりと頷く。それを確認して家を出た。
一日中ラナのことが気になって仕方がなかったが、何とかいつも通り仕事を終え、帰宅した。もしかしたらいつものように笑顔で出迎えてくれるのではないかと期待したが、家は真っ暗で、彼女の姿はどこにもなかった。居るはずがない。当たり前だ。電気もつけずにソファーに座り、前かがみにうなだれた。
もう、どうしたらいいのかわからない。俺はこのまま彼女を失ってしまうのだろうか……。
暗すぎてごめんなさい。
これってR15でセーフ……? だといいな。
アウトだったらどうしよう!!




