二度目(?)のデート その3
いつもありがとうございます!
ころころ視点が変わります。
ようやく甘さの片鱗が見え隠れします(長かった、うん)。
由理ちゃんが眠ってしまうと、その場の雰囲気が大人の世界になる。わたしにはまだ早い感じがする。
「あの人見知りの由理がこんなに懐くなんて、ラナちゃんはただ者じゃないね」
設楽さん、買い被りですから。麻理さんも頷いた。
「本当に。子供の扱いが上手だわ。由理も大はしゃぎ」
「すみません。わたしも大人気なく、はしゃぎ過ぎました」
ぺこりと頭を下げた。わたしの精神年齢が由理ちゃんと大差ないのかもしれませんね。
なぜか鮫島さんが一言もしゃべらない。機嫌が悪くなるようなことしてしまったのだろうか。
ちょっと睡魔がひどくなってきた。やはり子供なのかな、わたし。うとうとしているとようやく鮫島さんが口を開いた。
「どうした。眠いのか」
「はい。満腹で睡魔が……」
すると鮫島さんがわたしの肩をぐいっとつかんで、頭を彼の肩に乗せた。鮫島さんに寄りかかる状態になる。
「少し寝なさい。三十分経ったら起こすから」
気が引けるが、午後に備えてお言葉に甘えることにする。やはり睡眠不足のせいか、わたしはすぐに夢の中へ入っていった。
* * *
すやすやと眠りについたラナを見て、設楽がニヤニヤして鮫島を見る。
「これまでの女とずいぶん毛色が違うな。どこで知り合ったんだ」
「……見合い」
「お前いつの間に見合いなんてしてたんだよ」
「一週間前」
「知り合ったばかりかよ」
質問攻めの雰囲気を醸し出す設楽に、麻理も乗っかる。
「ずいぶん若そうですけど、いくつなんですか? ラナちゃん」
「二十三」
「うわっ、一回りも年下かよ。……でもよかったよ。お前が恋人を作る気になってさ」
設楽の言葉に少々場がしんみりする。それを払拭しようと麻理が気を利かせる。
「先輩がデートで遊園地に来るとは思わなかったです。もっと大人なデートをしそう」
「ああ。彼女が『来たい』って言ったから。遊園地なんて大学以来だ」
肩に乗っているラナの顔を見て微笑む鮫島を目にした設楽と麻理は顔を見合わせた。
* * *
よだれが垂れる気配がしてパッと目が覚めた。口を拭うけど、よだれはついていなかった。セーフ。
「おはよう」
鮫島さんが声をかけてきたので「おはようございます」と返す。
設楽さんと麻理さんが温かい目線で見てくる。何だろう?
「すみません、もう大丈夫です」
「そうか」
それからしばらく他愛もない話をしていると携帯が鳴り、鮫島さんが「仕事の電話だ」と席を外した。
鮫島さんの姿が見えなくなった途端、設楽さんがわたしに質問を投げかけてきた。
「鮫島との出会いは見合いらしいね」
「はい。といっても見合いの相手は元々わたしの姉だったんです。でも事情があって見合いできなくなって、謝りに行ったら『君でいい』と言われて見合いしたんです。てっきり断ると思ったのに、昨日交際を申し込まれました」
二人とも驚いたようだ。そりゃそうですよね。わたしですら驚いたもん。
「じゃあ今日は付き合い始め一日目なのね」
「そういうことになります」
設楽さんが何かひらめいた顔をしてニヤリと笑った。何する気だ?
「あいつ、昔は本当に遊びまくっててさ。見た目だけが取り柄の女が放っておいても寄ってくるせいか、とっかえひっかえしていたな。で、結婚したらしたで仕事、仕事で奥さんを放置しててさ、挙句浮気されて離婚」
「ちょっと! 何を言い出すのよ!!」
麻理さんが設楽さんを非難するように止めた。でも動じない。
「でしょうね」
「知っていたのかい?」
「何となく想像はつきます。放っておいても女が寄り付くでしょうね。だから不思議なんです。どうしてわたしと付き合おうと思ったのか」
「どうしてそう思うの?」
どうしてって……。もう何回も自問自答した疑問ですよ、これは。
「だって鮫島さんなら選り取り見取りじゃないですか。きっと会社の上司が言い出した見合いだから、気をつかっているんじゃないかと思うんです」
「ちなみにその上司の名前を聞いても?」
「竹田のおじちゃんです」
「……竹田専務か」
「気をつかわなくてもいいんですよ。こっちがぶち壊したものだし、おじちゃんは優しいから断っても文句なんて言わないですよ」
わたしの言葉に二人は顔を見合わせた。ん? 変なこと言いました?
しかし鮫島さん、遅いな。
「日曜なのに仕事の電話なんてかかってくるんですか?」
「ああ。あいつ、企画の責任者だから」
「偉い人なんですか?」
「課長だからね。知らなかった?」
課長かぁ。へぇ。初耳。
「知りません。わたしが知っているのは年齢と勤務先、バツイチってことと、コーヒーはブラック派ぐらいです」
「そっか。釣書とか読まなかったの?」
「はい。あと知っていることといえば、意外によく笑うことですかね」
「えぇっ! 先輩、笑ったの?」
何かすごく驚いている。そこまでですか??
「はい。『女をとっかえひっかえした挙句仕事で放置する』とか『だから嫁に逃げられた』とか言ったら大爆笑されました。『パーソナルデータは全く知らないのに、バツイチってことだけ知っているなんて』って」
すると二人とも笑い出した。何で??
「すごいわラナちゃん。先輩に初対面でそこまで言えるなんて」
「なんだか鮫島が君と付き合おうと思ったか、わかる気がする」
わけがわからない。最近やたらと笑われていないか、わたし。
話を変えてしまおう。
「ところでお二人は職場結婚なんですよね? なれ初めを聞かせてください」
二人は少し照れくさそうにほほ笑んだ。
「えーっ。そんなに大したものじゃないわよ」
「いいじゃないですか。教えて下さいよ」
根掘り葉掘り聞きだそうと躍起になっていると、鮫島さんが戻ってきた。
「何を盛り上がっているんだ」
「今、お二人のなれ初めを聞こうと頑張ってます」
わたしの追及をかわそうとしていた二人は、由理ちゃんが目を覚ましたことをいいことに、うやむやにしてしまった。ちえっ。
これ以上デートの邪魔をしてはいけないと言われて、三人とはそこで別れることになった。由理ちゃんが嫌だと駄々をこねた。そこまで懐かれ、もう感激です!
「今度二人でうちに遊びにおいで」
設楽さんがそう言ってくれた。由理ちゃんに「絶対に行くね」と約束して別れた。
わたしが後ろ髪をひかれた想いで去っていく三人を眺めていると、ちょっと不機嫌そうな鮫島さんがわたしの手を取り、反対の方向へ引っ張っていった。
しばらく引きずられて気づいた。
手っ、手、繋いでんじゃん。しかも指を絡める、いわばカップル繋ぎ~~!
何だか本当にデートっぽい。いや、デートなんだけどさ…。本気で何を考えているのかわからないんですけど、鮫島さん!!
* * *
二人と別れた設楽と麻理は、さっきまでの出来事を思い出して驚いていた。
「本当にびっくりしたよな。あの鮫島があんな顔するなんてな」
設楽の言葉に麻理も頷く。
「ええ。営業スマイルじゃない笑顔なんて見た事ないもの」
「それに初対面で爆笑したんだろう? そこまで打ち解けるなんて、いい出会いしたよな、あいつ」
「ラナちゃんは裏表なさそうだしね。しかもあの竹田専務を『おじちゃん』呼ばわりだし、『優しい』ですって。“鬼の竹田”で有名なこと、知らないのね」
「でも彼女に接するあいつを見ていたら、竹田専務からの話だから付き合ったってわけでもなさそうだ」
「今度はうまくいくといいわね」
「そうだな」
はしゃぐ由理を微笑ましく眺めながら、二人は歩いて行った。
ようやく鮫島がどんな男かを知る人物が登場しました。
もしかしたらこれからキャラ崩壊の危険が…。
デート編もあと2回です。