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実家はライバルだらけ!? その3

二日目突入。

 朝、目覚めると部屋には誰もいなかった。起き上がり、時計を見ると八時だった。実家に帰ってくると、どうもだらけてしまう。

 部屋を出て居間に行くと、そこには母親がいた。


「おはよう」


 挨拶をすると母親は少し怒っていた。


「慎也、実家だからって怠けているんじゃないの?」

「八時だろう? 休みの日なら普通だ」

「何言っているの。ラナちゃんは五時に起きて来たわよ」


 五時!? そんなに早く起きたことないだろう。やはり昨日早く寝てしまったことが原因だろうか。


「で、ラナは今どこ?」

「ラナちゃんは朝ご飯作りを手伝ってくれて、朝食後に陸と塁と一緒にラジオ体操に行ったわ。今は畑で草むしり」


 元気だな。大自然を満喫しているのか。楽しんでいるならいいが、こうも放置されるのは面白くない。


 朝食を取り、着替えた頃、ラナが帰って来た。俺の顔を見て、申し訳なさそうな顔だ。


「おはようございます、慎也さん。昨日はごめんなさい!」


 俺は微妙な顔で頷いた。彼女に悪気があったわけではない。しかし彼氏の実家をここまで楽しむのも変わっている。そして彼氏である俺を放置するのもいただけない。


 この後も彼女は甥っ子と予定が詰まっていた。あいつらは子供の無邪気さで、何をしても許されると思っている節がある。ラナを気に入っているのはいいが俺を無視するな。悔しいから虫取りについて行くことにした。彼女はそれに驚いたようだ。


「慎也さんが一緒に来るとは思いませんでした」

「……虫取りって聞いて懐かしかったから」


 本当はラナと一緒にいたいから。もちろん甥っ子達と触れ合うのもあるが。


 近くの森に入って虫を探す。どうやら陸は学校の宿題で絵日記を書くため、「ぜったい虫つかまえるんだ!」と意気込んでいた。

 しばらく探していると陸が虫を見つけたようだ。それをラナにしか知らせないところがまた腹が立つ。陸が指差すところを見るとかなり上の方にいて、陸では到底届かない。仕方ない。俺は陸を肩車した。


「これなら届くだろ? 早く捕まえろ」


 陸はそっと手を伸ばして見事カブトムシを捕まえた。大喜びする甥っ子達。すると今度は塁も肩車してほしいとねだってきた。こういう素直なところはやはりかわいい。

 そんな俺を見て彼女はしみじみ呟く。


「慎也さんって、いいお父さんになりそうですね」


 すこしからかってやろう。笑顔で返した。


「ラナはいろいろと心配な母親になりそうだ」


 その言葉に不満そうだった。むくれる彼女もかわいらしい。それからもたくさんの虫を取り、満足した甥っ子達。


 昼だから家に戻ると昼食が用意されていた。ラナは相当空腹だったのか、食欲旺盛だ。周りもたくさん食べる彼女を微笑ましく見ている。キョトンとして首をかしげる。わかっていないみたいだ。うちの家族は食べっぷりのいい光景を見るのが好きだ。こういう面も気に入られる要因だろう。


 昼食が済み、ラナは縁側に座ってのんびりしている。今がチャンスだ。彼女の横に座り、寝そべって彼女の膝に頭を乗せる。うん、この膝枕は高さもちょうどいい。

 ラナは突然の俺の行動に赤面し、慌てる。


「ししし、慎也さん! いきなり何ですか!」

「……ラナが足りない」


 俺はブスッとしながら小さな声で呟いた。散々俺を放置してきたんだから、今ぐらいラナを独り占めしてもいいだろう?


 この光景に周囲は言いたい放題で、彼女は何度もどくように抗議してきたが、全部無視した。縁側に入ってくる心地よい風にうとうとし、俺はそのまま眠ってしまった。


 次に目を開けると、ラナは真っ赤な顔のまま、俺を睨んでいた。時計を見ると三十分ほどしかたっていなかったものの、この間彼女は必死に羞恥と戦っていたようだ。まだまだ足りないところだが、素直に彼女を解放した。


 すると小さい悪魔達がまたもや彼女をさらって行った。はなの散歩だと。お前らいい加減飽きろよ。もう家へ帰れ。近いんだから。




 居間で麦茶を飲んでいると母親と兄貴がやって来た。麦茶をコップに入れて手渡す。話題は自然とラナのことになった。


「ラナちゃんはいい子ね。陸や塁の相手や草むしり、料理まで手伝ってくれて」


 母親の言葉に苦笑する。彼女はきっと気に入られようとしてやっているわけではない。


「多分それ、ただ田舎を満喫しているだけだと思う。陸や塁のことは懐かれて嬉しいから」

「だからすごいんだって。彼氏の実家なのに緊張していたのって、多分初めだけだろう? あの“噛んで額ゴツン”」

「……それは忘れてやって」

「しかし本当に彩さんと真逆だな」


 兄貴の言葉に顔をしかめる。


「兄貴、彩の話は……」

「わかってるって。ラナちゃんの前ではしない」


 それならいいが。昨日は笑顔でスルーしたが今度はどうなるかわからない。

 彩の名前が出ると、母親が口を開いた。


「彩さんもラナちゃんの半分でもいいから打ち解けて欲しかったわね。本当に大人しくて人形みたいな人だったわよね。食も細くて、料理の作り甲斐がなかったわ」


 母親は彩のことになると少し棘のある物言いになる。俺に原因があるとはいえ、自分の息子を裏切ったことにわだかまりを感じているのだろう。もう母親と彩が会うことはないからいいのだが。


「ラナちゃんは見ていて気持ちがいいほど食べるよな。それもおいしそうに」

「何でもおいしく食べる子なんだよ」


 自分の作った魔の手料理すら『イケる』と言ってモリモリ食べたぐらいだからな。あのときのことは一生忘れないだろう。


 母親が席をはずした後、兄貴が小声で尋ねる。


「お前がバツイチってことで、ラナちゃんと揉めたりしなかったか?」

「揉めた……というか、すれ違ったと言った方が正しいかな。まだ彩に未練があるって勘違いされた」

「ああ、お前、肝心なこと言わないからな。見た目は彩さんの方が綺麗だったけど、これから家族として付き合うならラナちゃんの方がいいかもな。俺の個人的感想だけど」

「そうか。ラナを気に入ってくれたならいいよ」


 少しだけ彩のことを考えるとやりきれない気持ちになるが、終わったことと片付けるしかない。もう彩と会うこともないだろうし、ラナが家族に受け入れられる方が大切だ。


 その後、兄貴と近況を話していると、親父がやって来て「畑仕事を手伝え」と言われ、渋々腰を上げた。できれば逃れたかった。自然に囲まれるのはいいが、畑仕事は腰にくる。

 草むしりをしながら親父は俺に訊いた。


「ラナちゃんのご両親にはもう会ったのか?」

「ああ。お世話になっているよ」

「離婚のことは……」

「それを承知で認めてもらっているから」

「ならいいんだが」


 親父はあまり俺のすることに口出ししないのに珍しい。この年になっても親に心配されるとは、俺もまだまだだな。

 それからしばらくお互いに無言で草をむしり続けた。ふと顔を上げた親父が俺を見たので手を止める。


「ラナちゃんをちゃんと大切にしてあげなさい」


 その真剣な眼差しに俺も真剣に答える。


「わかっているよ」


 俺の返事に満足した親父は作業に戻った。俺も手を動かした。





 日が暮れて家に戻るとラナは拓也に勉強を教えているとのことだった。どうやら拓也の志望校が彼女の母校だったらしく、楓が彼女に頼んだらしい。


 夕飯でラナと顔を合わせたときに声をかけた。


「拓也が悪かったね。勉強どう?」

「拓也くんは優秀ですよ。諦めなければ」


 彼女は笑顔でそう言い切った。どうやら夕飯の後も勉強を教えるらしい。今度は拓也か。まったくこの家の人間は揃いも揃って……。


 夕食後、すぐに風呂に入ったラナが濡れた髪を適当に乾かして、クリップでひとまとめにし、足早に拓也の部屋に入って行った。

 少しいじけて居間でテレビを見る。ふと拓也の様子が変わった気がする。あれほど頑なだった拓也の態度が軟化している。彩のときでは考えられないことだった。もしかしたら彼女に気がある……? いや、考え過ぎか。





 風呂に入り、冷蔵庫からビールを取り出してごくごく飲む。時刻は十一時過ぎ。予想だが、そろそろラナは夢の中かもしれない。

 そう思って俺は拓也の部屋に向かった。ノックをして部屋に入る。するとやはり彼女は机に突っ伏して眠っていた。拓也は彼女から視線をそらした。


「勉強中悪いが、また明日にしてやってくれ」


 そう声をかけると拓也は頷いた。

 ラナの髪からクリップが外され、髪の毛が顔にかかっている。それを払って顔を覗き込み、声をかける。


「ラナ、寝るなら布団で寝なさい」


 すると彼女はうっすら目を開けて「うーん」と唸り、眠そうな声で言った。


「……起きてますよぉ。寝てません……」


 いや、寝ているだろう。ため息をつき、彼女の身体を抱き上げて拓也に声をかけた。


「じゃあ連れて行くから。あんまり無理するなよ」

「うん……」


 その返事を聞き、俺は拓也の部屋を後にした。





次回、いよいよ疑惑(?)の回です。

次回で実家編は終了です。


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