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実家はライバルだらけ!? その2

一日目、後半です。

 日が暮れて、ようやくラナが帰って来た。日焼けだろうか? 真っ赤な顔をして汗だくだった。たくさん動いた分、夕食をたくさん食べていた。母親も楓も、彼女の食べっぷりが気に入ったようだ。

 

 食後、何を思ったか、陸と塁が「ラナ、いっしょにおふろ入ろう」と言った。さすがに腹が立った。いくら子供でもそれは許されない。あの身体を見ていい男は俺だけだ。有無を言わせずに二人を抱えて風呂へ向かった。散々ラナを譲ってやったんだから、風呂は俺で我慢しろ!


 風呂から出ると今度は彼女が風呂へ向かった。俺は和室で彼女がやって来るのを待っていた。もう駄目だ。ラナに触れたい。ラナが足りない。

 ようやく戻って来た。肌の手入れをしている最中に後ろから抱き締めた。その柔らかさが心地よく、彼女から香るせっけんの匂いが堪らない。幸福感を味わっていると、ラナが不思議そうに尋ねてくる。


「慎也さん? どうしたんですか?」


 俺は彼女の耳元で小さく囁く。


「ラナが俺を放置する……」


 子供みたいなことを言っている自覚はある。でも我慢できない。かまって欲しくて、触れたくて、俺のことだけ考えて欲しい。

 すると俺の腕をギュッと握って、返事をする。


「ごめんなさい」


 その言葉に俺は彼女の身体を自分の方に向けた。顔を近づけると目を閉じるので、『ああ、ラナも俺を欲しがってくれている』と嬉しさがこみ上げる。もう少しで唇が触れ合うというとき、ドタバタと廊下を走る音がしてふすまがサッと開く。


「ラナ! 本よんで!」

「よんで!」


 陸と塁だ。また邪魔しに来たか。彼女は困ったように俺を見る。俺はため息をついて「行っておいで」と言った。だから帰って来たくなかったんだ、と心の中で悪態をついていると、部屋を出ようとした彼女が振り返った。


「戻るまで、待っててくれますか?」


 その言葉に笑みを浮かべ頷いた。こんなことを言うのは珍しい。陸に塁、いい子はさっさと寝ろよ。


 しかし三十分経っても戻ってこない。嫌な予感がして、一階の菜月家族が泊まる部屋に様子を見に行った。予感的中。彼女は二人と共に眠りについていた。

 やっぱりか……。俺は心底ガッカリした。肩を落としていると、ちょうど菜月と太一君がやって来た。


「あれ? お兄ちゃん、どうしたの?」


 二人は部屋を覗き込み、笑った。


「ごめんね、お兄ちゃん。この子たち、相当ラナちゃんが気に入ったみたい」

「すみません、お義兄さん」

「いや、眠ったものは仕方ない。俺がここに来るからお前たちが上に行きなさい」


 そう言うと二人は顔を見合わせてはにかむ。


「そう? じゃあお言葉に甘えちゃおっかな。二人がいると太一くんとゆっくりできないし……」

「そうだね。ありがとうございます」


 ああ、思う存分二人の時間を過ごすがいいさ。


 まだ夜の八時というのに、ラナが寝てしまって暇を持て余した俺は、多田が言っていた集まりに行くことにした。車じゃないと距離的に厳しい場所にある店だが、今は飲みたい気分だった。すると兄貴が楓に一緒に行くように勧めた。


「いいの? 智也。こういうのにわたしが行くの、嫌がるでしょう?」


 楓の問いに兄貴はビールを飲みながら笑った。


「慎也が一緒なら安心だろう。それにラナちゃんのために、慎也を寄ってくる女から守ってやれ」


 どうやら兄貴は楓が同窓会に行くのが心配らしい。いつまでたっても熱い夫婦だな。


 楓は酒を飲まないから車を出してもらうことにした。兄貴の言葉に甘えて、楓と居酒屋に向かった。

 居酒屋には結構な人数が揃っていた。友人を見つけた楓と別れた後、俺に多田が声をかけてきた。


「慎也! こっちこいよ」


 多田の方へ行くと、そこには大沢とその嫁の田中(旧姓)がいた。


「慎也、久しぶりだな。元気だったか?」


 大沢の問いに頷く。多田は俺が一人であることに首をかしげた。


「あれ、彼女は一緒じゃないのか?」

「ああ。もう寝たよ」

「もう? 早くないか?」

「はじめて実家に連れて来たんだから緊張で疲れたんだろう」


 そう思いたい。決してはしゃぎ疲れて眠ったのではないと。


「慎也くん、恋人できたんだ。どんな子?」


 田中の問いに多田も大沢も興味津々のようだ。


「かわいい子。一緒にいて退屈しない」


 俺の言葉に驚いたようだ。大沢がしみじみ言った。


「いやぁ、恋とは人を変えるんだな。あの慎也がこんなことを言うなんてな」 


 しばらく最近の近況を話していると、きつい香水のにおいを纏った女たちが近寄って来た。


「「鮫島く~ん! 久しぶり~」」


 宇野と道場だ。俺はこの二人が苦手で仕方ない。思わず顔が引きつる。


「……久しぶり」


 二人は俺の両隣に割り込んできて腰かけた。そしてべったりくっついてくる。


「鮫島くんが来るって聞いて、急いで来たのぉ~」


 宇野が猫なで声ですり寄る。そして道場が腕に胸を押し付けてきた。


「ねぇ鮫島くん。この後二人でどこか行きましょう?」

「……道場、君は既婚者だろう?」


 そう釘を刺すも道場は動じない。


「いいのよ。旦那より鮫島くんの方がいい」


 帰りたい。やっぱり来るんじゃなかった。ラナの寝顔を見ていた方がよかった。すり寄られて鳥肌が立つ。ここははっきり言ってしまおう。


「悪いけど今、恋人と実家に来ているから」


 その言葉に二人は目を見開いている。これで引いてくれないかと願う。


「その子、いくつ?」

「二十三」


 一回りも年下ということに嫉妬を覚えたのか、二人の顔に怒りが見える。その一方で、多田たちは盛り上がっていた。


「慎也の彼女、一回りも年下だってよ。すげぇな」

「これは溺愛にもなるわね」

「まったくだ。見たいなぁ、その彼女」


 見せるか、もったいない。


 なんだか疲れてしまった。友人との再会は楽しいものの、興味もない女に迫られるのは苦痛以外の何物でもない。

 そんなことを考えていると携帯を持った楓が声をかけてきた。


「慎也くん、ちょっといい?」

「ああ。何?」


 楓は言いづらそうに口を開いた。


「あのね、ラナちゃんが……」

「ラナがどうした?」

「起きたんだけど、慎也くんがいないって、ちょっとパニックになっているみたいでね……」


 その言葉にサッと立ち上がり、財布から金を出してテーブルの上に置いた。


「慎也、どうした?」

「悪いな。帰る。また今度な」


 楓を促し、俺は家へ急いだ。家へ着くなり俺はラナが寝ている部屋へ向かおうとする。

 が、その前に居間で酒を飲んで、すでに出来上がっている兄貴と菜月、太一君が俺を見て笑っている光景に遭遇した。


「あ、お兄ちゃん早~い! もう帰って来たっ」

「お義兄さんもラナちゃんのことになったら行動早いですねぇ」

「楓、うまくいったな」


 酔いどれ三人の言葉に眉をひそめる。楓に視線を送るとサッと逸らされた。


「楓……。どういうことだ」

「お兄ちゃん、楓ちゃんを怒んないでよ。お兄ちゃんだって好きでもない女から逃げられてよかったでしょ?」

「じゃあラナがパニックを起こしているっていうのは……」

「「「嘘~~~」」」


 大笑いする酔っぱらいの上機嫌に腹が立ってきた。俺は楓を睨む。


「楓、お前まで酔っぱらいの戯言を真に受けるな」

「でも慎也くんが困っていたのは本当でしょう。助けて欲しそうだったし。ね?」


 それはそうだがラナをダシにするなよ……。呆れてものも言えないが、こんなことに騙されてしまう俺も大概だ。


 怒る気が失せてシャワーを浴びることにする。香水のにおいがこびりついているように感じる。これではラナの隣で眠れない。

 シャワーを浴びて居間を通り過ぎるともう誰もいなかった。酔っぱらいはさっさと寝てしまえ。


 そっと襖を開けるとラナは甥っ子達とぐっすり夢の中だった。その寝顔を見つめる。

 ああ、やっぱりこのかわいい寝顔を眺めている方がよほど落ち着く。

 俺はしばらく彼女の髪を撫でた。シャンプーの香りがそそるがぐっと堪える。本当は抱きしめて眠りたいところだが、隣で眠ることで我慢するか……。

 俺は目を瞑った。




一日目終了!

ちなみにロングが道場、ショートが宇野です。

さて、おまけ小話をどうぞ。 

 ☆おまけ小話 「鮫島救出大作戦」


 楓は思う。慎也が困っている。好きでもない女にべたべたされて顔が引きつっている。どうするべきだろうか。携帯電話を取り出して義妹に電話をかける。


『はい、楓ちゃん? どうしたの?』


「あのね、慎也くんが女の人にべたべたされて困っているみたいなの」


『ああ……。いつもの光景ね』


「ええ、いつもの光景なの。でもちょっとかわいそうだから何とかしてあげようと思って」


 電話の向こうでは菜月が何やら話している。どうやら夫や義弟と相談しているようだ。しばらくの沈黙の後、菜月が話し始めた。


『じゃあさっさと家に帰って来させればいいんだよ』


「でもどうやって?」


『ラナちゃんが寂しがっているとか泣いているとか言えば、すっ飛んで帰ってくるよ』


「いいのかなぁ、嘘ついて」


『いいの。帰るきっかけを作ってあげるんだから、感謝されても恨まれることはないでしょう』


 散々迷った末、楓は慎也に嘘を告げた。すると菜月が言った通りに慎也はすぐに家へ戻った。

 家では夫たちが酔っぱらいながらニヤニヤしていた。慎也に睨まれて少し小言を食らったものの、慎也はかわいい恋人に夢中なのだと再認識した楓であった。

 



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