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実家はライバルだらけ!? その1

鮫島視点開始です。

 盆休みに入ってラナと甘い時間を過ごせると思っていたのに予定が全部狂ってしまった。


 ショッピングモールにペットショップが入っていると知り、どうしても犬が見たくてラナを連れて行ったのだが、仔犬と戯れている間にいなくなってしまった。慌てて探しに行けば店員にナンパされかかっている。一体この店は店員にどういう教育をしているんだ。案の定、そいつは俺の姿を見るなり尻尾を巻いて逃げて行った。


 店員はさることながらラナにも腹が立った。ナンパされていることにも気づかず、自分がどうなのかを全く理解していない。俺と付き合い始めてからどんどん綺麗になっているのに、自分はモテないと思い込み、隙があり過ぎる。そう指摘するも全く取り合おうとしない。


 そんな彼女にここは家ではないのに迫ってしまうほど、俺は嫉妬に駆られていた。彼女といるといつ箍が外れてしまってもおかしくない自分がいた。もうショッピングなんてどうでもいいから、すぐに家に戻ってその身体を堪能したい。一歩も外に出さずに俺の腕の中から離したくなかった。

 しかし予想通り彼女は拒否した。『時間を考えろ、獣臭がする俺は嫌だ』と。獣臭って……。そんなに臭うか? 


 そこからは無言の攻防。早く帰りたいのにラナはどんどん歩いて行く。仕方なくついていくと電気屋でまたもや災難が俺を襲う。妹の菜月にばったり出くわした。この妹はズバズバものを言う性格で、正月に実家に帰ったときにしたラナの話に食いついてきた筆頭だった。


 彼女を見た途端抱きつき、何を思ったか『これから実家へ行こう』などと言い出した。冗談じゃない。実家に戻ったら家族全員が彼女を取り合うに決まっている。ラナも俺を放置するだろう。せっかくの休みなのに彼女を独占できなくなる。

 しかし彼女も菜月の提案に乗ってしまった。おい、どういうつもりだ。

 しかも菜月達の買い物中には陸と塁に構ってばかりだ。俺を忘れていないか? 


 実家へ向かう道中、文句を言うとこう切り返された。


「せっかくのご厚意は甘んじて受け入れないと。それとも鮫島さんはわたしを家族に紹介したくないんですか?」


 確かにそうだった。ここで彼女が断れば家族に心証が悪くなる。それに実家に連れて行かないということは結婚する気がないと取られてもおかしくない。もちろんラナはきちんと紹介したい彼女だ。彼女の言いたいことはわかっている。でも俺の予定はどうしてくれるんだ?


 本音をぶつけるとラナは呆れたように俺を見る。その態度に苛立ち、ついいじめてしまった。下の名前で呼ぶように強要したのだ。これまで行為の最中にしか呼ばれていない。これはいい機会だと思った。『写真屋さん』と呼ばれたときは呆れたものの、実家に着いてからは頑張って名前で呼んでくれるようになった。


 実家には両親、兄夫婦とその息子の五人暮らし。近所に妹家族が住んでいて、頻繁に里帰りをしているようだ。俺は長期の休みにしか帰らない。前回帰ったのは正月だった。盆は帰らないつもりだったので、そのときにラナのことを話していた。

 これまでの女関係が家族にばれてはいない(多分)ものの、彩と正反対のタイプであるラナのことを話すと皆驚いたようだ。それでも俺が気に入った子なら、と応援してくれるみたいだった。両親は俺の結婚はとうに諦めていたようだし、喜んでくれたなら嬉しい。


 ラナは緊張していたようだが全員と対面する頃には普段と変わらないように見えた。兄夫婦の息子の拓也を除く家族に彼女を紹介する。


「彼女が前に話した俺の恋人」

「はじめまして。樫本ラナと申します。不束者ではごじゃりますがよろしくお願いします」


 緊張は全く解けていなかった。噛んだ挙句に頭を下げた拍子に額を机に強打した。シーンと静まり返るその場。その後プッと噴き出した。皆も同じらしく、一瞬にして場は大笑いで和んだ。口々に彼女に声をかけていく様子から、どうやら気に入られたみたいで安堵する。

 ラナは顔を真っ赤にして恥ずかしそうだったが気取らないところも彼女のいいところだ。まだ笑いが止まらないものの心配する。額を見ると赤くなっていた。


「大丈夫? あ、少し赤くなっているね」


 そう言うと泣き笑いしている俺を睨みつける姿も、ただ『かわいいな』と思うだけだった。


 それからはかわるがわるラナへの質問攻めが始まった。俺が話そうとしないものだから躍起になっている。揃いも揃って興味津々のようだ。あまり話すのはやめて欲しいのが本音だ。


 昼食を取っているとき、拓也が帰って来た。半年ぶりだが、また大きくなったような気がする。早速声をかける。


「おかえり」

「あれ、叔父さん来てたんだ。そっちは……?」


 どうやら知らない人間に警戒しているようだ。


「俺の彼女」

「はじめまして。樫本ラナです」


 ラナが挨拶をすると何やら品定めをするように視線を動かし、ボソッと一言。


「……前の人の方がきれいだね」


 その言葉に食卓は物音ひとつせず、シーンと静まり返る。和やかな空気が一変してピリピリする。

 おい! 彩のことに触れるな! ラナにその話は鬼門なんだぞ。

 空気が読めない甥に苛立ち、無言な彼女の様子が心配になる。

 しかし予想を裏切ってラナは笑顔になる。


「いやぁ、すみません。十人並みの顔で」


 その言葉にあからさまに大きく息を吐いて安堵した。よかった。不機嫌になったら大変だ。


 それから兄貴に尻を叩かれて渋々挨拶する拓也。こいつ、もしかしてラナに嫉妬している? こいつは俺によく懐いていた。以前、彩を連れて来たときも決して話そうとせずに睨みつけていたな、そういえば。


 その後「二泊ぐらい泊まっていって」と両親が言い出す。やっぱりか。挨拶だけで終わるとは思っていなかったが、またしばらくお預け状態だ。せっかくの休みなのに……。


 ラナが家に電話をしている間、俺は荷物を二階の和室に運んだ。兄貴の嫁で幼馴染の楓に「もちろん同じ部屋でいいよね?」と確認される。頷いたものの、これから二晩も我慢を強いられるのかと思うとげんなりする。いっそ別の部屋にしてくれた方がいいかもしれない。


 それからすぐにラナを菜月に取られ、いじけて柴犬のはなとじゃれていた。やはり犬はいい。ペットが飼える家に引っ越そうか……。


 彼女が帰ってくるとほんの少しの会話ののち、すぐに親父に取られる。明日の午前中は甥っ子達に取られることが決定してしまった。やっぱり帰って来るんじゃなかった。


「慎也! することないならあんたも畑に行って手伝ってきなさい!」


 母親に怒られるが行きたくない。休みに畑とか疲れることはしたくないのが事実。畑にはさっき陸と塁が向かったようだし、俺に勝ち目はない。

 家にいても仕方がないのでその辺をブラブラすることにした。玄関で靴を履いていると楓が駆け寄って来た。


「あ、慎也くん。出かけるなら味噌買ってきて」


 楓は母親になってから変わった。昔はおっとりしていたのに、随分逞しくなった。母は強し、なのだろう。ラナもいずれはこうなるのだろうか?


 味噌を買うために小さなスーパーに向かった。そこで懐かしい顔に再会した。


「おう! 慎也じゃねぇか。帰って来てたのか」


 幼馴染の多田だった。


「お前こそ」

「まぁな。そうだ、楓には言ってあるんだが、今夜いつもの居酒屋で同級生の集まりがあるんだ。お前も来ないか?」

「今夜?」


 行きたい気もするが、夜ぐらいはラナと一緒に過ごしたい。


「悪いが、今彼女も一緒に来ているから」


 そう言うと多田は驚いたようだ。


「マジで!? お前、彼女できたのか? いいじゃねぇか、連れてこいよ」


 うわ、会わせたくない。大体ただでさえ緊張しっぱなしの恋人の実家なのに、その上友達と会うなどラナの負担が大きすぎる。


「どうかな。聞いてみないとわからない。それに俺も行けるかどうか……」

「じゃあ彼女がいいって言ったら連れてこいよ。駄目ならお前だけでも来い。大沢もお前に会いたいと思うぞ?」


 大沢か。そういえば最近会っていないな。

 多田には「行けたらな」と曖昧に返事をし、味噌を買って帰宅した。

 帰ってすぐに楓に集まりのことを聞いてみた。


「ああ、あれね。わたしは行かないつもりだけど、慎也くんは行くの?」

「いや、ラナがいるし迷っている。ラナも連れて来いって多田は言うけど」


 その言葉に楓は顔を曇らせた。


「ラナちゃんはやめた方がいいと思う。慎也くんが来るかもって聞いたら女性参加者が増えるわ。特に道場さんとか宇野さんとかと会ったらややこしいわよ」


 道場に宇野ね……。そういえば俺がまだ結婚していたときもベタベタすり寄ってきたな。離婚してからはそれはもう酷かった。特に道場。お前は既婚者だろう!?


「そうか……。ならやめておく」


 無意味にラナを傷つける必要はないしな。






拗ねてるフェロモン大王でした

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