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こんにちは、彼のご家族

さていよいよ実家に到着します。

新キャラが多いですが、ついてきてくださいね。

 鮫島さんの実家は緑の多い、のどかな町にあるらしい。田畑が住宅よりもたくさんあるように見える。


「あと十分ぐらいで着くから」


 その言葉に緊張しまくる。もし、『お前みたいな小娘、うちの息子の嫁にはふさわしくない!』とか『金目当てだろう!』とか言われたらどうしよう。菜月さんはよくしてくれたけど、ご両親がどう思ってるかが気になる。


「……ナ、ラナ!」


 考え込みすぎて呼びかけられていることに気づかなかった。慌てて鮫島さんを見ると不思議そうな顔をされた。


「どうした?」

「えっと、き、緊張しちゃって。鮫島さんのご家族に受け入れてもらえるか、心配で……」


 正直にそう言うとフッと笑みを返された。そしてわたしを安心させるかのように軽く頭をポンポンと叩かれた。


「大丈夫。そんなに厳しい親じゃないし、ラナなら絶対気に入られる。たとえそうじゃなくても、離す気はないから安心して」


 その言葉に安堵する。よかった。

 しかし言ってることは甘々だな。確か喧嘩中だったはず。


「ラナはいつも通りでいればいいよ。ただ、名前だけは気をつけてね」


 意地悪そうな彼の顔に反射的にムッとした。やっぱりか!


「もう! わかってますよ!」


 鮫島さんの実家に到着した。すごく広い土地と大きな木造の家。車から降りて、全体を見渡す。


「大きな家ですね」

「田舎だからね。広いだけだよ」


 市街地じゃ考えられない広さですね。うちよりかなりデカい。


「さぁ、行こうか」


 手を差し出されて、その手をギュッと掴んだ。


「はい。……し、慎也さん」


 素面で初めて呼んだ彼の名前。それを聞いてニッコリ笑った鮫島さん、もとい慎也さんとともに玄関へと向かった。






「ただいま」


 彼が玄関を入ったところで声をかけると、奥から女性がやって来た。その姿を見つけ、ペコリと頭を下げた。


「あらあら、いらっしゃい。ようこそ」

「俺の母親」


 お義母サマ! 一番の難関!?


「はじめまして。樫本ラナと申します。突然お伺いして申し訳ありません!」


 再び頭を下げるとお義母サマはニッコリ笑って迎えてくれた。その笑みにホッとした。でもまだまだ第一段階だというのに、安心しちゃ駄目かも。


「さ、上がってちょうだい。菜月から連絡貰っていたから大丈夫よ。いつ噂のラナちゃんを連れてきてくれるのかと、ずっと待っていたの」


 また噂!? 鮫島家ではわたしはどう言われてるんですか? 慎也さん、あなた一体わたしのことをどんな風に語ったんですか!?


 居間に案内される。どうやら和室の多い日本家屋のようだった。味わいのあるおうちですね。まったりできます。いや、とてもじゃないけどまったりできる状況ではありませんが。


 そこには一家勢揃いともいえる人数が揃っていた。正面におられるお方がお義父サマでしょう。その隣がお義母サマ。そして多分お義兄さん夫婦、反対側に菜月さん家族だ。

 緊張しながら促されるままに正座して初めてのご対面の始まりだ。


「彼女が前に話した俺の恋人」


 慎也さんの言葉に続き、自己紹介する。が、緊張しすぎて噛みそう。


「はじめまして。樫本ラナと申します。不束者ではごじゃりますがよろしくお願いします」


 やべっ、本当に噛んだ。もういいや。


 そのまま頭を下げると机に額を強打した。ゴツンと大きな音が居間に響き渡った。シーンと静まり返るその場。


 や、やっちまった――――!! 噛んだ挙句の額ゴツンなんてコントかよ!


 全身が真っ赤に染まる。あまりの静かさに呆れているんだろうな、と思ったら急にその場の全員が大笑いし始めた。顔をあげてキョトンとしていると、皆さんが笑いながら口々に話し始めた。


「慎也、お前の言う通りの楽しい子じゃないか」

「本当に。愉快だわ」


 お義父サマとお義母サマの一言。次はお義兄さん夫婦。


「かなり年下って聞いたからどんな子かと思ったけど、安心した」

「ええ。気取らなくて、今どきの子とは思えないわ」


 最後に菜月さん家族。


「やっぱりラナちゃん、かわいい~!」

「お義兄さん、いい人見つけましたね」

「ラナ、かっこわる~」

「かっこわる~」


 ヤバイ。笑われ過ぎて居たたまれない。穴掘って埋まりたい。

 慎也さんは泣き笑いしながらもわたしの額をうかがう。


「大丈夫? あ、少し赤くなっているね」


 そんな泣くほど笑ってるんなら、心配なんてしないでくださいよ! 


 慎也さんの笑いのルーツは確実に遺伝だね。お義父サマもお義母サマもこんなに大爆笑するような人に見えないもん。血とは恐ろしい。

 恥ずかしかったけど、この一件で皆さんに受け入れられたみたい。不幸中の幸いってやつ? 


 それからいろいろ質問された。出会ったときのこととか、わたしのこと、うちの家族の話とか。あらためて話すと恥ずかしい。慎也さんが苦い顔をしている。


 お義父サマは昔すごくモテただろうな、と感じさせる人。今も日に焼けてとても若く見える(年齢を聞いて驚いたぐらい)。お義母サマは表情が柔らかくて優しい人だった。慎也さんはどちらかといえばお義父サマ似かな。


 お義兄さんは慎也さんとよく似ている。彼がもう少し年を重ねたらこうなるのかな、と想像が膨らむ。お義姉さんは驚くことに慎也さんと同い年の幼馴染だった。こんなにかわいらしい人なのに、今年大学受験を控える高校生の母親らしい。ということは十八歳で子供を産んだことになる。ひぇええ~! 若い! ちなみにその息子さんは補習で学校らしい。帰ってきたら紹介してくれるって。


 菜月さんはお義母サマ似。多分この家族の中の影の権力者だと思う。太一さんは眼鏡の優しそうな人。多分菜月さんの尻に敷かれている(あくまでわたしの予想だが)。陸くんはわんぱく坊主で、塁くんはお兄ちゃん子。


 ちなみに慎也さんから見てお義兄さんと菜月さんとはそれぞれ五歳離れているらしい。ザ・美形一家。


 それからお義母サマとお義姉さんが用意してくれた昼ご飯をいただく。ほう、これが慎也さんのおふくろの味ですね。


「いただきます」


 では煮物を一口。……ウマッ! この絶妙な味付け。素晴らしい!


「とてもおいしいです」


 そう言うとお義母サマとお義姉さんは笑みを返してくれて、たくさん食べるように勧められた。もりもり食べていると、例の高校生の甥っ子さんが帰って来た。


「おかえり」

「あれ、叔父さん来てたんだ。そっちは……?」

「俺の彼女」

「はじめまして。樫本ラナです」


 挨拶をすると何やら全身ジロジロ見られました。それからボソッと一言。


「……前の人の方がきれいだね」


 その言葉に食卓は物音ひとつせず、シーンと静まり返る。和やかな空気が一変してピリピリする。お義兄さんとお義姉さんが「コラッ!」とか「何てこと言うの!」と怒った。慎也さんは無言なわたしの様子を恐る恐るうかがっている。元嫁関係は鬼門だとわかっているかのように。


 でもね、わたしだって成長するんですよ。こんなの、バイトでのクレーム以下ですよ。こう見えても接客業は長いんですっ。

 わたしはヘラッと笑って言った。


「いやぁ、すみません。十人並みの顔で」


 ここは大人の余裕ですよ。子供の言うことを真に受けない、というね。その言葉に慎也さんはあからさまに大きく息を吐いて安堵した。他の皆さんも安心したみたい。

 お義兄さんが謝りながら彼を紹介してくれた。


「ごめんね、ラナちゃん。躾がなってなくて。こいつ、息子の拓也。拓也、挨拶!」


 お義兄さんに言われて拓也君は渋々挨拶を返した。ああ、彼には嫌われているのかも。視線が敵意に満ちています。ちょっとへこむ。


 その後ご両親に「二泊ぐらい泊まっていって」と言っていただき、お言葉に甘えることにした。幸いにも二、三日分の着替えは持っていた(本当は慎也さんの家に置いておくやつだったんだけど)。

 一応家に報告せねば。携帯で家に電話をかける。電話口に出た母に事情を説明する。するとやたらとテンションの上がった母。


『あらまあ! いい、ラナ、しっかりやるのよ。もう嫁と姑の戦争は火蓋を切っているの。ここが勝負よ。きっちり味方を作りなさい』

「何言ってんの? 皆さん、とてもよくしてくださって……」

『甘い! 初めはそうでも後からじわじわ来るのよ。怖いわよ~、女って』


 でも記憶では母は父方の祖父母と仲が良かった気がする。


「それって何の情報? お母さん、じいちゃんやばあちゃんと仲良かったよね?」

『情報源は昼ドラよ』


 開いた口がふさがらない。実話じゃないんかい!


『ところで、鮫島さんのお母様と話したいの。電話代わって』


 何を言うつもり!? 心配だったけど言い出したら聞かない母。お義母サマに説明し、携帯を渡した。しばらく話し込み、携帯が戻って来た。


「お母さん! 一体何話したの?」

『あら、『娘がお世話になります。不束な娘ですがよろしくお願いします』って言っただけよ』


 それにしては長く話し込んでいた気がする。でも母はそれ以上言おうとしない。


『とにかく、頑張りなさい!』


 そう言い残して母は電話を切った。それから恐る恐るお義母サマに母と何を話したかを聞いてみたけど「母親同士の秘密よ。でもいいお母様ね」と微笑まれた。とりあえず、失礼なことは言ってないみたいでホッとした。






さて次回から本格的に交流が始まります。

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