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わたし以外にデレないで!

新章開始(?)と言いながらも、今回もバカップル…

 突然ですがもうすぐ鮫島さんの誕生日です。今かなり悩んでいます。彼に何を贈ったらいいのか、全くわかりません。


 必要なものはもう持ってるだろうし、わたしの収入では大したものは買えない。バレンタインのとき、よくライターを思いついたものだ。服とかは趣味もあるし、わたしにはセンスがない。

 こういうとき男の人っていいよね。女の人にはとりあえず装飾品を贈っておけば間違いないもん。ちぇっ。


 いろんな人に手当たり次第に相談したら『彼氏の趣味とか欲しいものをリサーチすべき』と言われた。なるほどね。よし、さっそく実行!


 もう巷ではお盆休みに入っています。今日も鮫島さんの家にお泊り。

 しかし家に直行せず、とあるところに行きたいとお願いした。少し離れたところにある巨大ショッピングモールだ。そこに行けば彼の欲しがっているものがわかるのではないかと考えたのだ。


 駅で着替えの入ったバッグを手に迎えが来るのを待つ。さあ、今日はいろんな店に引っ張りまわしてリサーチしまくりますから覚悟してくださいね!


 少し待つと鮫島さんの車がやって来た。停車するのを待って助手席に乗り込む。彼はすまなそうな顔だ。


「ごめん、遅くなったね」

「いえ、待つのも楽しいもんです」


 上機嫌で答える。ここで『遅いですよ!』と怒りでもしたらこの後の計画に差し障りが出る。それはいかん。

 鮫島さんはホッとして車を発進させた。






 地理的に車でなければ行くのが難しいショッピングモールは午前中とあってまだすいていた。これが午後になると大変な混雑になるだろう。


「で、何が欲しいの?」


 おっと、どうしよう。『ショッピングモールに行きたいです』と言ったはいいが、欲しいものは特にない。あくまで鮫島さんの欲しいものリサーチなのだ。どう言い訳すればいいのだろう。うーん……。


「えっと、まず鮫島さんが欲しいものを見たいです。いろいろ欲しいんですけど、いっぱいあり過ぎてどれから買おうか迷っちゃって。鮫島さんの買い物中に何を買うか決めます」


 結局、馬鹿正直に言っちゃったよ。もっと上手に誤魔化せよ、わたし。若干落ち込む。そんなわたしの様子に構わず鮫島さんは頷いた。


「じゃあ行きたいところがあるから」


 そう言ってわたしの手を引き、歩き出した。






「……ここですか?」

「そう、ここ。買うわけじゃないけどね」


 鮫島さんが行きたかった場所はわたしの予想を大きく裏切った。てっきり服とか靴とかかばんとかファッション系、もしくは本屋とかだと思っていた。


 わたしの耳には動物の鳴き声が入ってくる。目の前に広がるのは犬、猫、鳥、魚などなど。そこはペットショップだった。彼は迷うことなく仔犬のいるゲージの前にわたしを引きずっていき、そこから動かなくなった。


「犬、好きなんですか?」

「ああ。実家で飼っているんだ。本当は今も飼いたいんだけど、あいにくマンションがペット禁止だから」


 仔犬に目線を向けたまま、そう話す彼。満面の笑みを浮かべてゲージに指を突っ込んで、仔犬を触ろうとする。仔犬はその指をペロペロ舐めた。


「こら、くすぐったいだろう」


 そう言いながら、とても嬉しそう。


 すると女性店員さんが近づいてきて「よろしければ抱っこしますか?」と声をかけてきた。鮫島さんはパッと店員さんの方を向いて「いいですか?」と見惚れる笑顔を向けた。

 店員さんはそれに顔を赤くして「お待ちください!」とゲージから仔犬を出して彼に渡した。仔犬は彼の顔をペロペロと舐めている。


 周囲の女性の視線は鮫島さんに釘付け。極上男が犬と戯れているのだ。

 でもわたしは違う。見惚れてなんてやるものか。ゴーッと嫉妬の炎が炎上中ですよ。まさか犬に嫉妬する日が来るとは思いもしなかった。

 煮る? 焼く? 犬っておいしいのかな。おっと、いかん。それは行き過ぎだ。


 もうわたしなんて放置ですよ。鮫島さんは仔犬と二人(?)の世界を築いちゃってる。

 もしもーし、あなたの彼女がここで一人寂しがっていますよぉー。くそぅ、見向きもしない。


 わたしは携帯を取り出してカメラを起動させる。そして仔犬と戯れる鮫島さんの写真を何枚か撮影した。それからムービーに変えて、その光景を収める。どう使えるかはわからないけど一応、ね。


 犬が嫌いになりそうだ。あ、ちなみに動物は好きなんだけどね。家でも昔、犬飼ってたし。

 普段なら広い心で『鮫島さん、犬と戯れちゃって、かわいい~』とかキュンってするんだろうな。おのれ、勝てる気がしない。動物になんて敵うはずがない。あのピュアな天然ラブリーには完敗です。


 もう浮気現場は見ていたくありません! わたしはフラフラと店内を歩いた。こうなったら、わたしも浮気してやろう。目の前にはカメレオン。爬虫類かぁ。

 じーっとカメレオンを眺めていると、男の店員さんが声をかけてきた。


「かわいいでしょう。今、人気なんですよ。触ってみます?」


 かわいい、かな? どんな肌触り何だろう。お願いして触らせてもらう。すごいデコボコしてる。目がデカいなぁ~。撫でるとカメレオンがうっとりしているように見える。何だかかわいくなってきた。


「意外にかわいいかも」


 そう言うと店員さんはニッコリ笑った。


「そうでしょう? 俺、爬虫類好きなんですけど、なかなか理解してもらえなくて。かわいいって言ってくれる女性、珍しくて……」


 それからその店員さんからたくさんカメレオンの話を聞いた。どうやらカメレオンを飼っているらしい。自分のカメレオンがいかにかわいいかを熱弁された。わかるよ、自分のペットは馬鹿でもかわいいもんね。


 しばらく談笑していると、後ろから冷ややかな空気が流れてきた。振り向くと怖いぐらいの笑みを浮かべた鮫島さんが立っていた。


「何してるの?」


 その恐ろしさに怯えた店員さんはカメレオンとともにどこかへ行ってしまった。いつもならここで怯んでしまうわたしだけど、今日は負ける気がしない。


「もういいんですか? 愛しの仔犬ちゃんは」


 厭味を含んだ口調で言った。鮫島さんは笑みを崩さずに返事する。


「勝手に歩かないでくれる? 探したでしょ」

「あら、お邪魔かと思って気を利かせたんですよ。わたしもここでカメレオンと楽しくしてたんですから、邪魔しないでくださいよ」 

「カメレオン、ね。何もわかってないね。その薬指の指輪だけじゃ効果がないみたいだ」

「何のことですか? わたしはカメレオンと浮気してたんですよ! 指輪とか効果とか意味がわかりません! そっちだって仔犬といちゃこらしてたじゃないですか。鮫島さんにわたしを責める権利なんてありません!」


 そう言い切ると鮫島さんはわたしの手を掴み、歩き始めた。歩数が合わなくて小走りになる。

 もう、何なのさ!?


 無理矢理手を引かれて連れて行かれたのは、ショッピングモールの奥まった、人の気配が全くない通路だった。壁に背中を押し付けられ、顔の横に手を置かれて逃げられない。わたしは鮫島さんを睨みつけた。


「……何のつもりですか?」

「わからない? あれはナンパだよ」

「……は?」

「あの店員、動物の話をだしにしてラナをナンパしていたんだよ」


 そんなはずはない。だってペットのカメレオンの話をしていただけだ。


「ありえません。カメレオンの話しかしてないです」

「甘いよ。こう言わなかった? 『興味があるなら相談に乗りますよ』みたいなこと」


 ……言われた。確かに。


「でも、ペットショップの店員さんなら相談に乗ることなんておかしいことじゃ……」

「携帯出さなかった? その男」


 ……出した。てっきりカメレオンの写真を見せてくれるんだと……。って違うの??


「携帯の番号を聞き出そうとしていたんだよ。だから俺の姿を見て、すぐいなくなっただろう? 少し目を離すとこれだから、安心できない」


 わたしがナンパ? ありえないよ。いや、本当に。そんなはずがない。


「鮫島さん、おかしいですよ。仔犬ちゃんにデレデレしておかしくなったんじゃないですか?」

「おかしい? おかしいのはラナだろ? どうしてそんなに無防備なんだ。もっと自分をきちんと理解したら?」


 その言葉、聞き捨てならないですよ! 自分のことは自分が一番知ってますよ!


「理解してますよ! 一体何が言いたいんですかっ!」


 そう言うと彼はわたしから視線を外して呟いた。


「ラナはかわいいから……。男が放っておかないぐらい、魅力的だから……」


 その言葉に身体が赤く染まっていく。突然何を言ってるんですか! 正気ですか?

 鮫島さんはわたしの首筋に顔を埋めてペロッと舐めた。その行為に身体がゾクッとする。それから彼はわたしの耳元に言葉を落とす。


「ちょっと目を離した隙に他の男にとられそうで、心配なんだ」


 顔を上げてわたしの顔を覗き込み、口づけを落とす。


 ちちち、ちょっと! ここ、家じゃありませんから! そういうのは家にしてください! 


 その願いも虚しく、鮫島さんはキスをやめてくれない。それどころか深くなっているんですけど。彼の身体を押しやってもビクともしない。


「ん……。だ、めで……す」


 キスの合間に何とか言葉を紡ぐ。しかし鮫島さんはお構いなしだ。舌まで入れてきて、わたしの抵抗力を奪っていく。身体に力が入らなくて、鮫島さんが唇を離した途端、ズルズルと床にへたり込む。

 壁に身体を預けて荒い呼吸をするわたしに鮫島さんがしゃがんでわたしを抱き寄せた。


「……もう帰ろうか? 今すぐラナを抱きたい」


 はぁああ!? 今、何時だと思ってるんですか? まだお昼前ですよ。わたしは彼の身体を押しやって睨みつけた。


「嫌です。まだお昼前ですよ。それにこんなところでこんなことして、恥ずかしくないんですか?」

「恥ずかしくない。いつもラナが欲しいと思ってる」


 どストレートな発言にもうタジタジ。陥落しそうになるけど、負けちゃいけない。わたしはまだ、ここへ来た目的を達成していない。


「獣臭がする今の鮫島さんとは嫌ですっ」


 抱き締められたときにあの仔犬の匂いがした。浮気相手の移り香って最悪じゃないですか。

 それによくよく考えたら、仔犬が鮫島さんの顔をペロペロ舐めてたじゃないですか。当然唇も許してるでしょ? 信じられない!


 動物に本気で嫉妬するわたしもどうかと思いますけど、許せません! わたし以外にデレデレしないでくださいよ!






ある意味初めての喧嘩勃発です。

さて、どうなることやら…

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