お料理上手への道
久々に新キャラ登場!
やはりあくの強いお方です。
今日はみちると久しぶりに一緒にランチをしている。散々心配かけてしまったから今日はわたしの奢りだ。
一応電話では状況を報告済みだったけど、会って話したいこともたくさんあった。本当はもっと早く会って話したかったけど、みちるの仕事が忙しい時期に入ってしまい、こんなに遅くなってしまった。
「いろいろとご心配かけました」
「ほーんとに。泣いてうちに来たときはどうしようかと思ったわ。でもよかったわね。誤解も解けて絆も深まったんじゃない?」
みちるはニヤリと笑う。何を想像してるのさ! 案の定その手の質問がやって来た。
「で、どうよ? 色気ムンムンの大人の男は。優しい? 激しい?」
うっ、そんなこと聞く? 思わず思い出しちゃったじゃないか!
しどろもどろになりながらも小声で答える。
「……優しいと思う。でも、激しいときも……」
って何を言わせるの! 真っ赤になるのを自覚する。こんな昼間からエロ話はやめてぇぇ。みちるはニヤニヤしながら面白がっている。くそぅ……。
そうそう、こんな話している場合じゃないよ。相談したいことがあったんだから。
「ねぇ、みちる。どこかにいい料理教室、知らない?」
「料理教室? 行くの? あんたが?」
すごく驚かれた。まぁね、わたしと料理は結びつかないでしょうよ。母に習うことももちろん考えたけど、やはり身内は甘さが出てしまうからね。基礎はプロに習ってそれから母におふくろの味を教えてもらうことにする。
もろもろの事情を説明すると、みちるは悲壮感漂う表情になる。
「かわいそうだわ、あんたの彼氏。まさか彼女に殺されそうになるとは……」
「し、失礼な! 人を暗殺者みたいに言わないでよ。真剣に相談してるのに。料理が上手くならなきゃ、鮫島さんと結婚できないんだよ!」
「ごめん、ごめん。そうねぇ、知らないこともないけど」
妙に歯切れの悪い物言いだ。みちるにしては珍しい。
「その料理教室、マンツーマンなの。料金はそれなりに高いけど、かなり上達するって評判なの。うちのお客さんからもよく聞くから信憑性は高いわ」
ほう、マンツーマンはありがたいかも。大勢だとへたくそ具合が露呈して落ち込みそうだし。でもみちるの様子が引っ掛かる。
「そんな評判なのにどうして歯切れ悪いの?」
「……そこね、試験があるの。それにパスしなきゃ駄目で、その面接と実技試験が厳しくて受かるのが難しいらしいの。でもあんたなら大丈夫かも……」
料理教室に面接? 実技試験? 聞いたことないよ。でも料理上手になるならチャレンジしたい。
「わたし絶対受かる。だからその料理教室、教えて」
後日その料理教室に向かうことにした。かなり隠れ家的な場所。というより普通のマンションの一室。ホームページなどの広告宣伝は一切していないらしく、全て口コミで広まっているらしい。その先生は個人で教室を開いているそうだ。名前は板倉ひろみ。若い先生らしい。確か三十歳前後だったかな。
メールで申し込んだところ、午後一時に面接だって。どんなこと聞かれるんだろう。面接なんて久しぶりでドキドキ。
部屋番号を押すと一言「どうぞ」とオートロックを開けてくれた。ハスキーな声の人みたい。ドアの前で改めてチャイムを押すと出迎えたのは男の人。わぁ、男前。ま、鮫島さんには劣るけど。誰だろう?
「ようこそ。お待ちしていました」
「こんにちは。樫本です。お邪魔します」
リビングに連れられてソファーに腰かける。男の人はお茶を入れているみたい。これは弟子とか助手さんかな?
お茶を勧められて口をつける。するとその男の人が紙を持ってわたしの前に座った。
「では面接を行います」
あれ? この人が面接するの? 先生では?
「あのう、板倉先生が面接をするのでは?」
わたしの問いにムッとした男の人。
「板倉は私です」
……はい? この人が板倉ひろみ先生?
「お、男の人なんですか? あ、すみません。てっきり女性の先生かと……」
正直に言うとそれ以上機嫌が悪くなることもなかった。
「慣れているから、気にしないで。では気を取り直して始めます。まず料理教室に通おうと思ったわけを教えてください」
恥ずかしいが、正直に言うことにした。誤魔化しても嘘がすぐばれちゃうしね。
「わたしの料理を食べて体調を崩した人がいたからです」
「なるほど。で、料理が上手くなりたい、と」
「そうです」
「ふーん。あなた私のこと、どう思う?」
何その質問。料理に関係なくない? 首をかしげるも、答える。
「かっこいいと思いますけど……」
「不合格」
ちょっと待った! 褒めたのに、何で不合格なの。
「納得いきません。褒めたのに。わたし、どうしても料理が上手くなりたいんです!」
切実に訴えるも、効果がないみたい。
「ミーハー心むき出しで私の前をうろちょろされると迷惑なの。本当に女ってやつは、こっちが下手に出れば調子に乗ってつけあがる。彼女気取りでベタベタすり寄ってくる。私はそんな女が大嫌いなのよ」
おいおい、女嫌いかよ。ここははっきりと言っておかなければ。
「わたしはあなたに男としての魅力なんて、これっぽっちも感じませんよ!」
そう言っても取り合おうとしない目の前の男。
「女は必ずそう言うのよね。でもその通りだった試しなんてないの。女なんてそういう生き物なのよ! ああ、嫌。本当に嫌。こっちは女になんて全く興味ないのよ!」
何かこの人、ただの女嫌いっていうよりも……。話し方も独特……。
頭に浮かんだ疑念を口にした。
「あのもしかして……、おかまさん……?」
その言葉に声を荒げて反論する。
「違うわよ! おネエよ、お・ネ・エ」
「おネエ?」
おかまと何が違うんですか? 初めて見たよ、そういう人。
「そうよ。だから男として私のことを見ても無駄だから」
「だから見ませんって。わたしには大好きな彼氏がいるんです! その彼氏に手料理食べさせたら、まず過ぎて全部吐いて寝込んじゃったんです。で、親から料理が上手くなるまで料理禁止を言い渡された上に結婚認めないって。だからあなたが男でもおネエでもそんなことはどうでもいいんです。ただ、わたしを料理上手にしてくれれば。お願いです。わたしに料理を教えてください!」
言いたいこと全部言い切った。黙って聞いていたおネエはプイッと視線をそらして言った。
「……いいわ。じゃあ作ってみなさいよ。そのまず過ぎて寝込む料理とやらを」
これって面接合格!? 実技試験にうつるってこと?
「はい!」
元気に返事をして、わたしは勢いよく立ちあがった。
課題料理は卵焼き。……って馬鹿にするのも大概にしろよ! 卵料理はまあまあ得意だっつーの。
キッチンに立つ。先生はそばでわたしの料理を見守るみたい。見ておれ、おネエ!
ボールに卵を二つ割り入れる。グシャ……。勢いつけすぎて黄身が潰れた上に卵の殻が入ってしまった。くっ、なかなか取れない。ようやく取れたところで味付け。わたしの好きな卵焼きの味は甘辛いものだ。砂糖と塩を入れよう。……分量がわからない。うん、適当だ。で、味見。…………。ま、いいでしょう。
さあ焼きに入りましょう。火をつけて、卵焼き器に油をドバっと入れて卵を半分ぐらい流し入れる。ジューっていう音がするはずなんだけど音はない。まぁいいや。なかなか固まらない。火が弱いかな? 強火にしちゃえ。ようやく固まってきたからフライ返しでくるくる巻いていく。ゲッ、焦げた。やっぱり火が強いかな? 残りの卵を流し入れて同じことを繰り返す。
焼きあがったところでまな板に置いて一口ぐらいに切っていく。よし、完成!
「できました!」
その光景を見ていた先生は静かに一言。
「全然駄目。基礎がなってない。正直食べる前からまずいのがわかるわ」
ヒドイ! せめて食べてから言ってよ。
渋々一口食べた先生。噛んでいくにつれて顔が歪んでいく。ティッシュを取って口の中の物を吐き出した。
「まっずい。あんたこれをよく自信満々で人様に出してきたわね。ある意味尊敬するわよ、その神経」
結構言いますね……。落ち込みますよ。
その後先生は無言で料理をし始めた。どうやら卵焼きを作っているみたい。
手早く作り終えて箸を手渡された。食べろってこと? 勧められるままに一口。
……う、うまい! ふんわりしている卵、口に入れたらとろけて美味。味も完璧。
この先生、性格に難ありだが料理の腕は確かなようだ。
「……おいしいです」
悔しいけど事実だ。そう言うとニヤリと笑う先生。
「でしょ? 私、料理も上手いのよ」
自慢ですか!? くそぅ……。わたしの出会う男はこんなキャラの男ばかりかよ。鮫島さんと出会ったときのやり取りと似てる。
ここで気になることを聞いてみた。
「あの、わたしは合格ですか……?」
「私がこれまで見てきた中であんたは一、二を争うほど料理が下手だわ。……面倒だけど、あんたを料理上手にできたら私の料理家人生に箔がつくわね」
「ということは……」
先生はこのときはじめてわたしに笑いかけた。
「合格よ。でも私の指導はスパルタよ。覚悟なさい!」
その笑顔に一瞬気を取られてしまったが、すぐ我に返った。
「はい! ありがとうございます。よろしくお願いします!」
わたしは勢いよく頭を下げた。
こうしてわたしのお料理修業はこの男前なおネエとともに始まった。
新キャラのひろみ先生、いかがだったでしょうか?
一度おネエキャラを登場させたかったのです。




