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手料理殺人未遂(?)事件

タイトル詐欺なんでご安心ください。

鮫島視点で進みます。

さて、鮫島さん、試練です(笑)

 ホワイトデーを機に、俺とラナの関係は大きく変わった。


 バレンタインのお返しにクッキーと指輪を渡した。指輪はクリスマスのときに渡したかったが、サイズがわからない上に交際一ヶ月で指輪を渡すのは時期尚早に感じられた。俺の勝手な独占欲で彼女を縛りつけるみたいに思えたからだ。

 それでもホワイトデーの時点でそんなことを考える余裕もなくなった。他の男が近寄らないように、ラナが俺のものだと見せつけるような証しが欲しかった。


 それから部屋の合鍵も渡した。これで仕事から帰ったらラナが出迎えてくれる、なんてこともあるかもしれない。実際、彼女は週末のバイト終わりによくうちに来るようになった。そのまま泊まって一晩共に過ごすというのが最近の定番だ。 


 ずっと気になっていた深夜までのバイトも辞めさせた。そこまで口を出すのはどうかとも思ったが、夜道や夜のバイクの運転も危ない。本当ならバイクの運転もやめさせたいところだが、これ以上束縛しては嫌がるだろう。それに『お父さんみたい』という言葉が未だに俺の胸に残っている。あの一言は年齢の差を感じさせて嫌で仕方ない。

 


 ラナと身体の関係になってからというもの、これまで我慢してきたからか、たまに自分が止められなくなる。抱き締めるその身体は予想していた以上に柔らかくて心地よかった。つい夢中になり過ぎて彼女に無理させてしまう。


 いい年をしてガキみたいだなと反省しつつも、ついいじめてしまう。顔を赤くしながら戸惑い、泣きそうになりながらも俺に縋り付いてくる様が愛しくてかわいくて堪らない。俺しか男を知らないラナ。全てのことが初めてで恥ずかしさでいっぱいであろうが俺の期待に応えようといつも一生懸命だ。無理せずに、ゆっくり進んでいけばいい。


 これまでラナが欲しくて、欲しくて堪らなかった。でも手に入れてもその欲求は収まることがない。何度抱いても飽きることがない。どんどん彼女に対する愛情が増えていく気がした。





 話は変わるが、最近やたらと料理を作りたがる。この前は夕飯のための買い出しに行こうとしていた彼女を部屋に連れ戻したが、あからさま過ぎて機嫌を損ねてしまった。

 正直ラナの手料理を食べるのが怖い。この時は何とか機嫌を取ったが、手料理を食べる約束をしてしまった。その約束が今日だった。


 ラナは鼻歌を歌いながらキッチンで料理をしている。手つきは相変わらず危なっかしい。何を作っているのかは全くわからない。ただ言えることは『頼むから怪我をすることなく、食べられるものを作ってくれ』。それだけは願いたい。

 昼食にもかかわらず、完成したのは午後二時。三時間近くも料理していたことになる。


「お待たせしました。さぁ、じゃんじゃん食べてください!」


 自信満々に披露されたテーブルには、辛うじて料理名がわかるような代物が並んでいた。恐る恐る訊いてみる。


「これって中華、だよね?」

「はい。中華オンパレードです。結構上手にできました」


 チャーハン、酢豚、エビチリ、餃子……。偏り過ぎのメニューだ。ほぼ肉料理ばかりだ。それに二人分のはずなのに、そうとは思えないほど大量の料理だった。

 すべての皿には大量の油が浮いていた。これは油の量を間違えたかきちんと油を切っていないか……。もう胃がむかついてきた。この年になると油っこいものがだんだん受け付けなくなるというのに。


 手料理を食べると言った手前、逃げることなど許されない。観念して箸を手に取った。


「いただきます」


 まずは丸焦げの餃子から。噛むとガリッと音がして口の中に苦みが広がる。とりあえず中の餡に火が通っていることに安堵する。焦げた部分は苦いが食べられないこともない。


 次に普通の数倍ほど真っ赤なエビチリだ。豆板醤の入れ過ぎみたいだ。唐辛子も入っているかもしれない。油もかなり浮いている。もしかしてラー油も入っている? 辛いものは得意なのだが果たして……。う、想像以上に辛い。涙目になりそうなのをぐっと堪える。さらにエビが油っこい。カラッと揚がらずにべたついている。きちんと油を切って、豆板醤の量を控えれば大分マシになるだろう。それとエビチリに不要なものも省くといい。


 酢豚の見た目はよかった。しかし箸でつまむと酢の香りがツーンとする。一体どれだけの酢を入れたのだろう。口に入れると酸味がきつい。しかし作り方は適当なのにどうして律儀にパイナップルを入れようと思ったのだろうか。俺は酢豚のパイナップルが許せない。しかしそれを知らないラナに文句は言えない。とにかく肉に火が通っているだけよしとしよう。


 最後にチャーハンに挑む。チャーハンといえばご飯がパラパラだが案の定ベチャベチャ。これまた油まみれだ。もう胃がむかむかしていて危険だが、覚悟を決めて口に入れた。……この味は何だ? 一体何を入れたらこんな言い表せない味になるんだ。前に作ったカレーがどれほどおいしかったことか。


 カレーは市販のルウを使っていたのに、中華は自力で作ったようだ。どうして今回も市販の素を使わなかったんだ。そうすれば味だけは何とかなったのに。


 ずっと無言で食べていた俺をじっと見て、ラナはワクワクしているようだ。


「どうですか? おいしいですか?」


 本音が言いたい。でも言ったら絶対に落ち込む。彼女の悲しい顔はもう見たくない。


「……お、おいしい」


 無理矢理声を押し出す。俺の言葉にぱぁっと笑顔の華が咲く。


「よかったぁ。じゃあわたしも食べよっと。鮫島さんもどんどん食べて下さいね!」


 彼女は平気な顔で食べ進める。「うん、いける」などまんざらでもない言葉を発する。一体どういう味覚と胃袋をしているんだ。どうしたらこの油まみれの料理をそうバクバク食べられるんだ。その光景に参ってしまう。


 やはり全部は食べられなかった。もうかなり胃がやばい。むかつきどころか吐き気すら覚える。脂汗が噴き出して体調の異変を認めざるを得ない。


「鮫島さん、どうかしましたか?」


 俺の様子がおかしいのに気づいたみたいだ。その瞬間こみ上げる胃の内容物。俺はトイレに駆け込み、全て吐き出してしまった。ああ、気持ち悪い。それでも吐いたことで少しすっきりした。

 トイレを出て洗面所でうがいをしてリビングに戻ると、心配そうなラナの顔があった。


「大丈夫ですか? 顔色が悪いですよ?」

「ちょっと体調が悪いみたいだ。せっかく作ってくれたのに、ごめん」


 謝ると首を横に振って、俺を寝室に押しやる。


「いいんです。ちょっと横になってください。……そう、薬! 風邪薬かな……」

「いや、薬はいい。寝ていればじきに治るよ」


 俺はベッドに横になって目を閉じた。


 しかしすごいパンチ力だ、あの料理。毎日あのレベルの料理が食卓に並んだら、俺は果たして長生きできるのだろうか?






続きます!


☆おまけ説明


 ラナのお料理作りは自分の中の見た目イメージと野生の勘で作っていきます。


餃子…中身がミンチで皮に包まれているもの。こんがり焼く。(実際はまる焦げ)


エビチリ…辛い、赤い、エビを揚げている。(だから手当たり次第赤いものと辛い物を投入)


酢豚…豚肉、野菜。酢が入っている。パイナップルは標準装備。(鮫島が酢豚のパイナップルが許せないことはもちろん知らない)


チャーハン…米を炒める。(味付けは適当)


なぜか今回は市販の素に頼らず作りたくなったそうな。

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