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春の訪れ

ようやく季節が追いつきました(多分)

 春です。新生活を迎える季節ですね。いかがお過ごしでしょうか? わたしにもこれまでと変わったことがあります。


 まず和食料理店のバイトを辞めました。体力的にバイトの掛け持ちがきつくなってきました。それに最近やたらと父よりも口うるさくなった鮫島さんに『夜道、危険』と会うたびに言われることが苦痛になったのも大きな原因。心配し過ぎですよ、本当に。


 フリーター生活を始めると同時に働き出したバイト先を去るのは少し寂しいもの。しかし求人を出すにもちょうどいい時期だし、すっぱり辞めることにした。引き留められたけど、わたしの気持ちは変わらなかった。そう思ってくれただけで、必要とされていたんだと実感できて何だか誇らしかった。


 ということでバイトはカフェ一本になった。カフェも就職するバイト仲間が辞めていったけど、わたしが掛け持ちをやめたことで入れる時間が増えて、店長は大喜びだった。


 あと変わったことといえば……。


「ラナさん。その薬指の指輪、あのカレシさんからのプレゼントっすかぁ~?」


 野口くんからの質問に口元が緩む。


「ま、まぁね」


 そう。今、わたしの左手の薬指にはシンプルな指輪がはめられている。それを見るたびについつい顔がにやけてしまうのだ。






 その指輪をもらったのは、ホワイトデーだった。知恵熱を出して横になったわたし。目を覚ますとお昼をとっくに過ぎていた。起きた姿を見て、鮫島さんが近づいて額に手を当てた。


「熱は下がったみたいだね。食欲はある?」

「はい。もう大丈夫です。心配かけてごめんなさい」


 ダイニングで昼食をいただき、食後にソファーでまったりしていると、鮫島さんが箱を二つ手にしてわたしの隣に座った。


「今日はホワイトデーだから。はい」


 差し出された二つの箱。一つは有名洋菓子店のクッキー。これ、おいしいんだよねぇ。でも、結構値が張りますよ? こんなにお高いもの、いただいてもいいんですかね?

 もう一つの箱は小さな箱。開けるとそれはシンプルなデザインの指輪だった。


「指輪……?」


 まさかのプレゼントにびっくりしすぎて呆然とする。鮫島さんはわたしから指輪を取り上げて、わたしの左手の薬指にそれをはめた。サイズがピッタリだった。


「どうしてサイズがわかったんですか?」

「ラナが寝ている間に測ったんだよ。クリスマスの時」


 あんな前に!? 何と用意周到なんですか。さすが大人ですね。抜かりないその手腕はあっぱれですよ。やはり経験値の差、……ここで経験値を持ち出すとムカつく。やめよう。


「あの……ありがとう、ございます」


 お礼とともに鮫島さんを下の名前で呼ぼうと頑張ったけど、結局呼べなかった。

 彼は微笑みながらわたしの左手を握る。


「ずっと着けていてね、それ。男除けだから」


 あ――っ、もう。激甘ですよ! 甘やかし過ぎです。


「わたしに男除けなんて本当は必要ないですよ。むしろ必要なのは鮫島さんに女除けなんですから!」


 わたしは非モテで、あなたはモテまくりでしょ? そう言うと苦笑された。


「俺は自分で対処できるでしょ。でもラナは流されやすいから心配なんだよ」


 それって浮気の心配ですか?? ありえないですよ。モテませんから。


「心配無用です。鮫島さん以外の男に指一本触れさせませんから!」


 強い口調で言い切ると極上の笑みを浮かべて彼はわたしを抱き寄せた。


「そんなかわいいこと、言わないの。我慢できないでしょ?」


 ぬぅおお――! また知恵熱出ますから!!


「それから俺以外の前でそういうかわいいこと言うのも禁止ね」


 うぎゃあ――!! 恐るべき独占欲。一線を越えたからなの? そうなの?


 それからもう一つ、プレゼントがあった。


「あとこれ。いつでも来てくれてもいいから」


 それは鮫島さんの家の合鍵だった。……何と。これはいわゆる“通い妻”の始まり……。“妻”だって。ちょっと先走り過ぎですよ、わたしの脳内妄想よ!


 こうしてホワイトデーを境にわたし達の関係も少し変化したのだった。






「指輪ですかぁ~。いいっすねぇ。サヤカも欲しいな~」


 わたしの指輪を見てサヤカちゃんが野口くんにおねだりをする。野口くんは「前にもやっただろうが」と不愛想に返事を返した。そんなに貰ってるものなの? 指輪って。


 今日は土曜日だった。最近の週末は鮫島さんの家にお泊りすることが多くなった。外にデートも行くのだが、二人で家でまったり過ごす方が多いかも。もちろん夜はあのフェロモン大王にやられっぱなしです。全く慣れません。むしろ彼は日に日にエロスが増しているかのようです。あぁ、怖い。でも、幸せです(惚気てごめんなさい)。


 バイト終わりに鮫島さんの家に直行する。今日もそのままお泊りだ。うちは無断でなければ外泊は咎められない。むしろ母は大歓迎のようだ。父はいつも何か言いたげだけど、結局何も言わない。元々父が鮫島さんのことを気に入っていたんだから、反対される要因もないしね。そういう面ではわたしは姉と違って恵まれている。いいことだ。


 今日鮫島さんは休日出勤らしい。だから合鍵を使って家に入る。シーンとしたこの部屋に一人でいるのは少し寂しい。何か気を紛らわそう。


 そうだ! 夕飯を作って彼を驚かせよう。しばし妄想……




『これ、ラナが全部作ったの?』

『そうですよ。どうぞ食べてください!』

『……うまい! すごいね。いい奥さんになれるよ』

『えへへ』





 なーんてね。がぜんやる気になってきた。冷蔵庫を見たけど食材が足りないなぁ。よし、買い出しに行くか!


 かばんを手に玄関へ向かい靴を履いていると、ドアが開いて鮫島さんが入って来た。


「あ、おかえりなさい」

「ただいま。……どこか行くの?」

「はい。夕飯作ろうと思って、買い出しに」


 すると彼が瞬時にわたしの靴を脱がして、部屋の中に引きずっていった。

 ちょっと、玄関が遠ざかるんですけど。


「あの、買い物……」

「買い物なんていいよ。ピザでも取ろう。バイトで疲れているんでしょ? 俺も疲れたから」

「大丈夫ですよ! 作ります!」


 そこまで疲れていないんですよ。そう反論したのに全く聞き入れられなかった。


 鮫島さん、わたしに料理させまいとしていないか? 失礼な話ですよ。わたしだってやればできるのに。


 結局ピザを注文した。そりゃあね、当然おいしいですよ。でも脳内妄想ではわたしの手料理を鮫島さんがべた褒めするはずだったのに。


 不機嫌なわたしを鮫島さんは機嫌を取るかのようにあまっあまに甘やかす。ソファーに座る私の横で頭をなでたり頬にキスしたりしてくる。


 そんなのでは直りませんよ! 怒ってるんですから!


 なかなか機嫌が直らないと思ったのか、彼はわたしを抱き上げて自分の膝に乗せて後ろから腰に手を回してきた。肩に顎を乗せて耳に息を吹きかけてくる。

 ゾワゾワしますから、やめてください。でも今日はまだ大丈夫だ。そう簡単に陥落してあげませんから。


 そのまま無視していたら今度は首筋にキスされた。身体が勝手にビクンと跳ねる。こら、反応するんじゃないよ!

 すると耳元でクスクスと小さな笑い声がする。


「今日はなかなかしぶといね。いつまでもつかな?」


 色気を含んだ低い甘い声が悪魔の言葉のようにわたしを揺さぶる。卑怯な!

 頑張って我慢しているわたしをあざ笑うかのように彼は太ももをなでてきた。

 触らないでくださいよ! 怒っているのが伝わらないんですか? 

 手をパチンと叩いて腕の拘束から抜け出す。彼から距離を取ってキッと睨みつけた。


「怒ってるのがわからないんですか?」

「怒る理由がわからないからね。ちゃんと言って。約束でしょ? 言葉で伝えるって」


 そうですけど。でもわかるでしょうよ。それでも約束と言われてしまえば仕方ない。


 

「……料理作って驚かせたかったんです。喜んでもらいたくて……。それなのにピザ取るって言うから、ムカついたんです」


 その言葉に鮫島さんは困った顔をした。


「そうか、ごめん。ラナが疲れていそうだったから、気づかったつもりだったけど余計なことしたね」


 そんな風にしょんぼりされたらわたしが悪者みたいじゃないですか! 本当に卑怯ですよ。心配し過ぎですから。……嬉しくなっちゃうじゃないですかっ。


「いいです。私を心配してくれたんですよね? それなのに拗ねてごめんなさい」


 謝るとわたしをそっと抱き締めた。


「じゃあ今度はラナの手料理、食べさせて?」

「……はい」


 くそう。結局いつも鮫島さんに丸め込まれてしまうんだよな。敵わない。やはり経験値の差……。大人の男、恐るべし!


 まんまと彼のペースに乗せられてしまったわたし。もうそれからは振り回されるばかりだ。熱っぽい瞳で見下ろされて、キスされる。それから耳元で甘く囁かれる。


「手料理の代わりに、ラナを食べたい。……いい?」


 ボン!!! 陥落。もう無理です。誰かこの人を止めて下さい。わたしじゃ太刀打ちできません。その後はいつものごとく、されるがままでした。わたしは彼にもう一生敵わないでしょう。いいんですけどね、それはそれで幸せなんで。





次回、鮫島限定鬼畜計画、再始動(笑)

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