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失言の結果

いつもありがとうございます!!

予想以上の反響で躍り上がって喜んでます。



 綸言汗の如し、とはまさにこの状況を言うのだろうか。全身を嫌な汗が流れるのを感じる。

 

 ヤバイ。失言、完全なる失言。離婚というデリケートな問題は傷ついたアラフォー男子の地雷であろう。

 怒鳴られたりするのかな? さっき見た鬼の形相が脳裏をよぎる。個室だし、余程のことがなければ店の人も近寄らないだろう。まさかとは思うが……。新聞の見出しが浮かぶ。


 “二十三歳女性、高級ホテル内の料理店でフルボッコにされる”


 いーやーだー! 暴力反対! か弱き乙女に無体なことしないで―!!


 って想像力豊かすぎだろ! 仮にも上司の持ってきた見合いの相手に暴力はないか。ちょっと妄想が飛躍しすぎた。


 恐る恐る彼を見ると、俯き、口を手で覆って肩を震わせていた。

 もしかして泣いてる? 一回りも年上の男の人泣かせちゃった? これはこれで嫌だな。ひどいこと言ったのは十分理解してるけど、こんな小娘に泣かされちゃう大人もどうかと思う。

 あぁでもやっぱわたしが悪い。離婚問題は触れちゃいけないよね……。まだ元嫁に未練あるかもしれないし。


 彼の様子に一気に罪悪感が溢れだす。人を言い負かすのは気持ちがいいと思っていたけど、やはり時と場合によるんだね。このパターンは駄目な方だ。


 さすがに言い過ぎたよなと反省し、謝ろうとすると耳に届く小さな笑い声。空耳かなと首をかしげると、目の前の男が「あーもう限界」と言って大きな声で笑い出した。わたしは馬鹿みたいにぽかんと口を開けたまま、笑い転げる彼を見ていた。


 何この光景。彼に対する罪悪感が遠いお空の彼方へすっ飛んで行きましたよ。


 しばらく笑い続けた彼が笑い疲れたようだ。指で涙を拭う。くそう、泣き笑いか。


「いや、ごめん。初対面でこうもはっきり言われるとは思わなくて」

「……すみません」

「いいんだ。それにパーソナルデータは全く知らないのにバツイチっていう情報だけは知っているってところがツボにはまってね」


 未だ顔が笑っている彼の表情に、気分を害したわけではないとわかり、ホッとした。しかし何が面白いのかまったくわからない。


「……オジサマの笑いのツボってよくわかりません」


 オジサン発言に少しムッとされた。


「オジサン? ちょうど男盛りだろう」

「いいえ、一回り年上はれっきとしたオジサンです。一応上品に“オジサマ”と言っただけ気を使われていると感じ取ってください」


 その言葉に彼はまた笑い出した。この人ずっと仏頂面だったのによく笑うんだなと意外に思った。笑顔が正直眩しい。いい男というのは何をしても様になるのだろうか。畜生。


 笑っている彼を放置して食事を再開する。ちょっと冷めてしまったけど、初めから比べると部屋の雰囲気はずいぶんよくなった。はじめはあまりの気まずさに、何を食べてもおいしくなかったのに、今は大満足。さすが懐石料理。とてもじゃないけど自腹じゃ無理。


 もう口にすることが出来ないかも、と思って食べていると彼が微笑んでいた。不思議に思って首をかしげる。


「君はとてもおいしそうに食事をするね」

「朝飯抜きなんで。それにこんな高級料理、めったに口にできないので味わって食べないと」

「君は変わった子だね」

「そうですか? 普通ですよ」


 冷や汗をかいた失言からずいぶんと打ち解けた。ここで彼もようやく食事を始めた。食事をしながらいろいろな話をした。たわいもない話だったけど楽しかった。意外と話が合う(笑いのツボは不明だが)。



 食事を終えてホテルを出る。ここで解散かなと思っていたら、彼が「せっかくだからどこか行こうか」と言った。頷いてぶらぶらしていると、いつか食べたいと思っていたケーキ屋を見つけた。どうしても我慢できなくて、渋る彼を引きずり込んだ。


「食べたかったんですよね、ここのケーキ」


 大口を開けてケーキを頬張るわたしを少々呆れながら見る彼はコーヒーしか頼まなかった。


「食べないんですか? おいしいですよ」

「あれだけ食べた後にどうして入る」

「甘いものは別腹っていうじゃないですか」


 満足していざ会計のとき、全部払うと言った彼にわたしは「自分の分は自分で」と譲らなかった。無理矢理引っ張ってきておいて奢られるのは主義に反する。頑として折れなかったわたしに、彼は渋々自分の分だけ支払った。


 その後は摂取しすぎたカロリーを消費すべく街を歩き回った。特に買いたいものは互いになかったけど話しているだけで楽しい。


 夕方になり帰ることになった。「送る」と言われたが丁重に断った。もうきっと会うことはない。おそらく彼の方からこの話は断ってくるだろう(もちろんこっちから断る立場じゃないし)。


 そういえばわたしにとって初デートじゃない? 付き合ってないけど。楽しかったし、いい思い出になった。そう考えれば休日にわざわざ出かけた甲斐もあったものだ。おいしいものもただで食べられたし。役得!


 わたしは上機嫌で家路についた。家では未だに父対姉のバトルは続いていた。それでも母はもうこの状況にすっかり慣れてしまったみたい。のん気に夕飯の支度をしていた。


 姉の彼氏も朝よりは元気そうだった。ここまで我慢強い彼はなかなか見どころがある人なのかもしれない。ただ冷戦で長引きそうだけど。頑張れ!


 母に「彼、どうだった? イケメンでしょ? 写真見てキュンってしちゃった」と言われ、どう返事すべきか困る。イケメンでしたけど、キュンって何だよ。いくつですか、母よ。

 「はいはい、イケメンでしたー」と適当に返事をして自分の部屋に戻った。







 あの見合いから一週間が経った土曜日、寝起きドッキリのようなおばちゃんの襲来に遭った。一応人に見られてもいい格好に着替えて、リビングで待つおばちゃんに対峙する。


「ラナちゃん、この間のお見合いのことなのだけど」

「ああ、断って来たよね? 鮫島さん」


 当然そうだと信じて疑わなかった。しかし次の言葉に寝ぼけた目が一気に覚めた。


「それがね、彼、ラナちゃんと正式にお付き合いしたいって」

「はぁ!?」


 わたしの声に和室で今日も睨み合いを続けていた父と姉が飛び出してきた。


「何!? 鮫島くんはラナを気に入ったのか。いいじゃないか」

「ちょっと、ラナはよくて、どうしてわたしは駄目なのよ!」

「あんな男、認めん!!」

「差別だわ! 絶対に諦めないんだから!!」


 二人のすさまじさに呆気にとられて嵐が過ぎ去るのを待つ。朝からよくやるわ。


 母曰く、元々父と鮫島さんは竹田のおじちゃん経由で面識があり、父は彼を気に入っていて(バツイチでも)、常々“娘の婿に”と思っていたらしい。その相手が姉からわたしに代わってもいいらしい(たとえ一回り年上だろうが)。


 ちなみに母も、就職もせず男の気配さえないわたしが、このチャンスを逃すと一生プラプラしそうだと危惧したらしく、「お付き合いしなさい!」と勧める。


 外掘から埋められていくような感じがする……。というか何考えているのさ、鮫島さん! あなた、こんな小娘相手にしなくても選り取り見取りでしょ??


 おばちゃんにも「オススメよ~」と語尾にハートマークがつきそうな声でゴリ押しされる。

 両親のプレッシャーとおばちゃんの猛烈なプッシュから「じゃあ付き合ってみます」と返事をしてしまった。


 キッパリ断れない自分が不思議だ。何か変なもの食べたかな?


 その日の夕方、彼から自宅に連絡があり、明日会うことになった。


お見合い終了しました。

訳が分からないうちに付き合うことになってしまいましたね…

さて、次回からデート編開始です!

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