迷える乙女の準備期間
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これからも頑張ります!!
鮫島さんに言われた言葉は、わたしの脳裏を駆け巡っている。
『バレンタイン、旅行へ行こう。そこでラナの初めてを、俺に頂戴?』
要するにそれまでに覚悟を決めて欲しいということ。あと約一ヶ月しかない。でもその頃には付き合い始めて三ヶ月ぐらいになっている。その三ヶ月の間に未遂が二回(いや、未遂とも言い難いけど、鮫島さんのその気を全部わたしがぶち壊しただけだ)。
そろそろいいんじゃないかと思う自分と、まだ早くない? と思う自分が戦っている。
こういうときのみちるサマ。電話で相談したところ、こう言われた。
『そう言ったってことは、相手も我慢の限界に来たってところね。わたしとしてはラナが了承するまで待て、と言いたいところだけど、さすがに相手もかわいそうになってきたわ。せっかく旅行っていう普段とは別の場所を用意してくれるんなら、考え過ぎずに勢いでいくこともいいかもね。その人ならちゃんとあんたのこと、大事にしてくれそうだしね。話を聞いている限りでは』
親友の言葉を胸に刻み込み、旅行までの日々を過ごす。その間も当然鮫島さんとはデートしているわけで、彼の顔を見るたびにどうも心臓が痛い。そのときはまだだというのに。
ただでさえ色気が半端ない彼なのに、やっぱりエッチのときは普段と比べられないほど艶めかしいんだろうな。こんなんじゃ、いざそのときになったらわたしはどうなってしまうのだろう。
悶える? 赤面する? ……どっちもありうる。鼻血ブーとか? ……漫画かよ!
しかもこの色気ゼロと言われているわたしに、果たして鮫島さんはその気になるの? これまでキスだって大してしてないはず。きっとわたしに色気がなさ過ぎてキスすらしたくないんだな。キスでそれなのに、エッチって……。
まさか『付き合ってもう三ヶ月だからしなきゃ』と気をつかわれている? でもそれならクリスマスの時のことと辻褄が合わないか。本当にわたしとエッチしたいの? 何だか信じられないなぁ……。
あと、そのときにはわたしはどうしていたらいいんだろう? 一応成人してますし、何となくこうするんだろうなぁ……という知識はありますよ。でもね、やっぱり怖いんですよ! 聞くところによれば痛いだの、苦しいだの、でも気持ちいいだの。完全に耳年増です。
でも実際がどうかなんて知らないもん。エッチなビデオも見たことないし。ただ寝ているだけでいいの? それとも何かしなきゃいけない? そんなこと、さすがにみちるにも訊けないよ。わからないことが多すぎる。
もう一つ心配なことがあった。お腹にある、ぷにぷに。言い換えれば脂肪。いくらわたしでも一応華の乙女。ボディラインが気になるお年頃ですよ。前のときはそんなこと思い悩む余裕すらなかったけど、今回は違う。時間があるからこそ気になる。
食事制限? いや、無理。食べるの大好きなわたしに死ねというのか。運動? 腹筋? 一ヶ月でどうにかなるのかな?
ここで美容に人一倍うるさいお方の知恵を借りましょうかね。
「え~っ。腹肉落としたいんすか~? ラナさん、どうしたんすか? 今までそんなこと言ったことなかったのにぃ」
スタイル抜群のサヤカちゃんです。わたしの切実なお願いに、ピンときたものがあったのか、珍しく小声でわたしに言った。
「ラナさん。もしかしてまだあのカレシさんとやってないんすか?」
ぬぅおー! はっきり言うんじゃないよ! 身体中が赤く染まる気がした。頼むから、野口くんには黙っていてくれ! 彼に言ったが最後、恐ろしい勢いで周囲に知れ渡る!!
その願いにサヤカちゃんは頷いてくれた。やはりいい子だね。見た目派手だけど。
「しかしクリスマスに何もなかったなんて、ラナさんどんだけ色気ないんすか? それともあのカレシさん、不の……」
「違うから!」
間髪入れずに否定する。鮫島さんはきっと健康な大人の男です。全部わたしが悪いんですよ! 思い出させないでくれ!!
不憫に思ったのか、サヤカちゃんは腹肉を落とす運動なるものを教えてくれた。毎日欠かさずに朝晩すること、と念を押された。これが結構キツイ。でもそのつらさが余計に効きそうで頑張れた。
腹肉問題が一応解決したら、次はバレンタインという、これまでスルーしてきた行事と初めて向き合うことだ。とはいえ鮫島さんは甘いものが苦手だ。
考えてもどうにもならないから、あえて戦場に飛び込むことにした。デパートのバレンタイン特別催事場。別名、女子の戦場。バレンタイン時期の短期バイトをしたときは、正直『何で、たかがチョコにこんな情熱注いでんの?』と全く乙女ゴコロが理解できなかった。
でも今なら何となくわかる気がする。好きな人のことを思って、食べて喜んでもらえれることを想像してチョコを選ぶ。真剣になるのは当たり前かもしれない。
甘党の彼氏ならまだしも、甘いもの苦手な彼氏ときたら悩むでしょ。一通り見て回ったけど、結局この日はいいものが見つからなかった。それからも暇を見つけては洋菓子店や他のデパートを徘徊して『これだ!』というものを探す。そしてようやく納得するものを見つけた。安堵し、喜んでくれるだろうかと期待を胸に抱く。
そしてチョコ以外にもう一つプレゼントを用意した。部屋に行ったときに『これプレゼントにしたらいいかも』と気づいたものだった。鮫島さんにとっては自分では買わないものかもしれないけど、きっとあっても困らないものだろう。せっかくだからちょっと値の張るものにしよう(値が張るといってもわたし基準で)。一生ものと思ったら高くないはず。
バレンタインの準備はバッチリ。あとは対腹肉との戦いに勝ち、心穏やかに、時にドキドキしてその日を待つだけ……、と思っていた。旅行の一週間前までは……。
鮫島がラナにキスしていないと思わせるのは、彼女の天然スルーのせいです。
何だか暗雲が漂う終わり方になってしまいました…。
次回予告
切ない派の皆様、お待たせしました&甘々派の皆様、ごめんなさい!
このラブコメを軽くぶっ飛んだ話にありえないほどコメディ要素が低下します。
でも必要なのです。6、7話こんな感じですが必ず再び馬鹿っぽい、らぶあまに帰って来ますので引き続きお読みいただけたらと願います。




