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再会、そして爆弾発言

クリスマス後のイベントといえば、あれです。

 年末をバイトとデートに費やし、お正月を迎えた。三が日、鮫島さんは実家に帰るということなので、四日に一緒に初詣へ行った。


「鮫島さん、あけましておめでとうございます」

「おめでとう。今年もよろしく」


 お決まりの挨拶だが、まさかこのわたしに彼氏と迎える正月なるものがやって来るとは、去年の今頃では考えられない話だ。人生って何が起きるかわからない。


 地元の割と有名な神社はまだ混雑していた。拝殿に向かう参道で、もう行列ができていた。背の低いわたしは人ごみに埋もれてしまい、鮫島さんを見失いそうになる。すると見かねたのか、わたしの手をギュッと握りしめてくれた。


「迷子になるから絶対に離さないでね」


 新年早々甘々だ。そんなにわたしを甘やかしてどうするんですか! 調子に乗りますよ? 嬉しかったけど、いつもわたしばっかり翻弄されているようで少し悔しい。


「そんなに強く握られちゃ、わたしの力じゃ離せません!」


 いえ、実際は離せるぐらいの力です。かわいくないよな、こんな言い方。本当は『離せって言われても離したくありません』ぐらい言えればいいのに。ああ、性格がひねくれているよ。

 わたしの言ってることが照れ隠しってわかっているのか、鮫島さんは小さく笑った。


「あんまりかわいいこと、言わないでくれる?」


 かわいくないですから!! そこ強調ですよ。わたしがかわいく見えるなんて、眼科に行った方がいいですよ。


 かなり待って、ようやく神社の拝殿にたどり着く。賽銭を入れて神様にお願いする。

 家内安全、商売繁盛、健康第一、悪運退散、あと……恋愛成就! 神様、お願いします!!

 そういえば恋愛成就なんて初めてお願いしたかも。成長したねぇ。しみじみ思う。


 参拝後はおみくじを引く。神社に来たら必ず引いているのだ。鮫島さんはあまり引かないみたいだ。でもせっかくだからと誘ってみた。

 お金を台の上に置き、箱からおみくじを一枚引く。出ろ、出ろよ~。


「あ、中吉だ。ラナは何だった?」


 わたしはガックリ肩を落とす。その様子に怪訝な顔をした鮫島さんはわたしのおみくじを覗き込んだ。


「何だ、大吉じゃないか。どうしてそんなに落ち込んでるの?」

「落ち込みますよ! また凶が出ませんでした!」

「……は?」


 『……は?』じゃないですよ。どうして神社に来るたびにおみくじ引いてると思ってるんですか!


「大吉よりも凶の方がレアだと思いませんか? それに大吉って良過ぎてあとは落ちるだけって感じがしますけど、凶は浮上するのみって気がするんです。それに凶を引いたって話はあまり聞かないんで引いてみたかったんですっ」

「凶の下には大凶があるよ」

「大凶なんて超レアですよ! それこそ引きたいです」


 わたしの主張に鮫島さんは呆れているみたい。頭をこつんと軽くたたいた。


「新年早々何言ってるの。大吉で縁起がいいんだから、ありがたくお言葉をもらっておきなさい」


 年の功ですかね。言葉に重みがあります。ここは大人しく引き下がりましょう。

 で、お言葉ね。何々……。




『願望:遠回りするが叶う

 健康:体調管理を怠るべからず

 仕事:おおむね良し

 恋愛:紆余曲折ののち成就

 縁談:来年以降が吉

 待ち人:すでに来ている

 出産:まだ早い

 金運:財布のひもを締めるとき

 …………

 学問:昔の縁が成果を結ぶ

 旅行:南の方角が吉       』




 

 ま、おみくじなんて運試しのようなものだしね。占いも信じないから、おみくじの内容もこんなもんでしょ。内容なんて普段は見ないし。



 初詣が済んで昼食を食べた後、鮫島さんはわたしをとあるマンションに連れて来た。

 どこだろう? 鮫島さんの家ではないし……。


 ドアを開けて出迎えてくれたのは設楽さんと麻理さんだった。どうやらここは設楽さんのお宅らしい。そういえば『今度うちに遊びにおいで』って言ってくれたな。鮫島さんは全然連れてきてくれなかったけど。


「いらっしゃい。あけましておめでとうございます。どうぞあがってください」

「あけましておめでとうございます。おじゃまします」

「いらっしゃい。おめでとう。鮫島、ようやく連れて来たな」

「おめでとう。『ようやく』って言うな」


 リビングに通されると由理ちゃんの姿が目に入る。由理ちゃんもわたしに気づいてくれたみたいで、笑顔で駆け寄ってきた。


「ラナちゃ~ん! きてくれたんだ!」

「うん、約束だったもんね。あけましておめでとう」


 やだもう、かわいすぎる。天使さんだ。癒される~。

 しかし何だよ、鮫島さん。設楽さんの家に行くなら前もって教えてくれればいいのに。そうしたらマジックグッズ仕込んできたのにさ。


 でもかばんにはもう一つあるんですよ、お子さまが食いつく品が。それはバルーンアート。細長い風船でお花とかプードルとか作るあれです。それもバイトで教えてもらったんだな。風船を膨らませてきゅっきゅと音を鳴らしながらお花を作り、由理ちゃんに手渡した。


「はい、由理ちゃん。お花だよ」

「わぁ! ラナちゃんすごい。ありがとう!」


 キラキラと目を輝かせる由理ちゃん。も~~う、かわいすぎるぅ~~!! その後もプードルやらいろいろ作って由理ちゃんにあげた。由理ちゃんは大いに喜んでくれた。


 それから由理ちゃんにねだられて絵本を読んであげた。白雪姫だ。読み聞かせながら思う。この話の魔女の絵、怖すぎるよ。わたしの膝に乗っかってる由理ちゃんが魔女の顔を見て怯えてるよ。本当に子供向きの本ですか??


 それに継母とか幼い子供には早いんじゃないのか? 意味わかんないでしょ。それと確か王子のキスで目覚めるんだよな。でもキスで目覚める毒って何だよ。ミステリーならありえない。しかも継母が白雪姫を狙う動機が『白雪姫が世界で一番美しいから』とか今考えると笑える。普通は遺産を独り占めにしたいとかが妥当だよな。グリム童話ってつくづく子供向けじゃないよね。リアルなグリム童話読んだら恐ろしかったもん。


 久々に絵本読んだら眠くなってきた。由理ちゃんもうとうとし始めちゃったから、わたしもちょっと横になろうかな……。

 横になったが最後、やはり夢の世界へ落ちてしまった。





「ラナ、そろそろ起きなさい」


 揺さぶられてゆっくり目を開ける。すると間近に鮫島さんの男前なお顔。


「ありゃ……、また寝ちゃったんですね」

「本当にどこでも寝るんだね」


 鮫島さん、ちょっと呆れてます? いいじゃないですか! 寝る子は育つんです! わたしは上には育たなかったけど。横には……って、放っておいて!


「ご飯できたから、こっちにおいで」


 鮫島さんの向かう方向について行った。どうやら麻理さんがお鍋を作ってくれたらしい。わたしが眠りこけてるうちに、申し訳ないです。


「すみません。本来ならわたしも手伝うべきところを……」


 恐縮して頭を下げると麻理さんは笑って首を横に振った。


「いいのよ、ラナちゃんはお客さまだもの。さ、座って。食べましょう」


 麻理さんのお鍋はすっごくおいしかった。設楽さんは甲斐甲斐しく由理ちゃんに食事を食べさせていた。麻理さんはとても幸せそうだ。こういう家族っていいなぁ……。

 鮫島さんをチラリと見ると、目が合う。


「どうした?」

「いえ、こういう家族っていいなぁって思って」

「そうか」


 そう言って鮫島さんは微笑んだ。

 結婚前提のお付き合い、か。わたしは将来、鮫島さんとこういう温かい家庭を築くことができるのかな? 


 食事をごちそうになった後、しばらくしてお暇する。


「またいつでもおいで」

「はい。ありがとうございます」

「ラナちゃん一人で来てくれてもいいのよ。先輩は連れてきてくれないみたいだし。由理も喜ぶわ」


 なぜ鮫島さんは連れてきてくれないんだろう? 疑問はさておき、由理ちゃん目線で屈んでお別れを言う。


「由理ちゃん、今日は楽しかったよ。また来てもいい?」


 由理ちゃんはこくりと頷いて、わたしに抱きついてきた。


「ラナちゃん、またきてね」


 はい、絶対来ます! かわいい由理ちゃんにそう言われたら、来ないわけにはいかないじゃないですか! 由理ちゃんみたいなかわいい子供、欲しい!!




 こんなことを思ってしまったからだろうか。設楽さんの家からの帰り道、鮫島さんがとんでもないことを言い出した。


「ラナ、二月ってまだ予定入れることできる?」

「二月ですか? 大丈夫ですよ。それが何か?」

「バレンタイン、日曜でしょ? 次の日有給取るから、その二日間はあけておいて」


 何だろう? バレンタイン……。そういえばそんなイベントもあったね。


「それは構いませんけど、何があるんですか?」


 鮫島さんは歩きを止めてわたしの正面に立って見下ろし、言った。


「バレンタイン、旅行へ行こう。そこでラナの初めてを、俺に頂戴?」


 ……はい? ちょっと頭が動きません。えっと、それはつまり……。えええっ!!


「ああああの、それは要するに……」

「そう、それ。ラナが『いい』って言うまで待つと決めたけど、俺あまり我慢強い方じゃないから、あと一ヶ月ちょっとの間に覚悟してほしい。それ以上は自信ない」


 ななな、何と! 『自信ない』とな! えらいこっちゃ!! とんだ爆弾発言!


「今度は人に流されることなく、きちんとラナに決めて欲しいから言ったんだ。わかってくれる?」


 そんなお色気ムンムンの眼差しで見つめられたらヤバイです! ……陥落。


「わ、わかりました」


 戸惑いながら返事をすると、鮫島さんが表情を緩ませて額にキスを落とした。


「いい子だね、ラナ」


 ぬぅお―――!! 本当にわたしを木端微塵にする気ですね。破壊力抜群ですよ!!


 これは『由理ちゃんみたいなかわいい子供、欲しい』などとわたしが思ったから? いや、でも子供は早い。結婚前だというのに。しかしあれは下手すれば子供ができるやつで……。


 それとも神様の仕業ですか?? 恋愛成就を願ったから? 新年早々何ということだよ。


 でも本当にそろそろ覚悟というものが必要な時期に来たのかもしれない。



 


はい~、爆弾発言~。ラナ、混乱中です。

おみくじって本当に凶が出ないですよね。きっと減らしているんでしょうね。


次回、この爆弾発言に至る経緯が明らかに…。

ということで鮫島視点です。



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