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心臓に悪い一日 前編

鮫島視点です。

ある意味彼の試練の一日。


4/13 カレーの件でご指摘いただきました。作者の勉強不足でございます。申し訳ありません。

ということで修正しますので、塩の記憶は直ちに抹消ください。ええ、今すぐに。


混乱させてしまったお詫び小話はあとがきにて。

 朝、起きるとベッドの上でラナが土下座していた。昨日の謝罪らしい。


 謝られても、もう過ぎたこと。残念ではあるが仕方ない。それに相手は恋愛初心者で、自分より一回りも年下。そんな彼女を思いやるのは当然のことだ。ここは大人の男として、ラナが気にしないようにうまくやらなければならない。


 しかし怒っていないと言っても納得していない。試しに『そんなに言うなら今からしてもいいんだけど』と言ったら、動揺してベッドから転げ落ちた。やはり時期が早かった。


 ラナは流されやすいと思う。何もなかったとはいえ、家に泊まったこと自体、明らかに人の意見に流された。今度こそちゃんとラナが『いい』と言うまで待ってあげたい。心の準備さえちゃんとしてくれれば、あとは任せてくれればいい。


 今はとにかくラナの罪悪感を取り除いてやることだ。手っ取り早いのは何かお願いを聞いてもらうことだが、考えても色気のある方面しか浮かばない。欲求不満だからだろうか。とてもじゃないけれど、そんなことを言えるはずがない。


 ラナにシャワーを浴びさせている間に朝食を作る。一人暮らしは長いし、料理は好きだ。ここでようやく思いついた。ラナに昼食を作らせよう。手料理も食べられるし、ラナも俺に対してのお詫びととるだろう。


 やって来たラナに朝食をすすめる。大したものは作っていないが、おいしそうに平らげた。ここで彼女に提案した。


「ラナ。昨日のことを悪いと思っているなら、俺のお願い聞いてくれる?」

「はい! 何でも言ってください!」


 案の定食いついてきた。『何でも言ってください』って、もし俺が『今すぐラナを抱きたい』なんて言い出したらどうするつもりだよ。苦笑しながら先ほど思いついたことを口にする。


「昼食を作ってほしい。ラナの手料理が食べたい」


 ラナは笑顔で頷いた。


「わかりました! 得意なやつでいいですか?」

「いいよ」

「じゃあ材料を買いに行かなきゃ」


 ということで、二人で近所のスーパーへ買い出しに行った。





 スーパーから家へ戻る。ラナはキッチンに買って来た食材を並べた。材料を見たところ、どうやらカレーのようだ。お手並み拝見。


 まず材料を切るようだ。野菜の皮むきをしたいようだが、見ていて肝が冷える。


 そんな包丁の持ち方したら手を切るぞ! ああ、もっと薄く皮をむかなきゃ。左手は猫の手で押さえないと指を切り落とすぞ! そんなでかく切ったら火が通らないだろう!


 突っ込みどころ満載だが、黙って見守る。これ本当に得意料理だよな? 不安で仕方ない。


 ようやく材料をすべて切り終えた。所要時間四十分。時間がかかり過ぎ。しかし怪我をしなかっただけ、ましかもしれない。


 鍋に油をひいて先に肉を炒めるようだ。作り方はわかっているみたいでほっとする。野菜はいいとして肉は生では食べられない。肉に火が通ったところで野菜をすべてぶち込み、水を入れて煮込む。


 あくが出てきた。それをお玉で取り去る。しかし煮汁まで一緒にすくっていく。ああ、うま味エキスが……。もったいない。


 しばらくしてカレールウを一箱すべて鍋に入れた。おい、ルウが具材の分量より多いだろう。一体何人前作るつもりだ。


 鍋をかき回してラナは首をかしげる。それから何を思ったか小麦粉を手にしてスプーンで鍋に投入した。再び鍋をかき回している。とろみが足りないみたいだ。本来なら片栗粉なのだが、この際小麦粉でも良しとしよう。少しして、何を思ったか手にしている小麦粉の入った容器をそのまま鍋にぶち込もうとしたところで慌てて止めた。これを全部入れてしまったら、とろみではなく固形物になるから。


 しばらく煮込んだところで火を止めて満足そうに頷いた。


「できました~!」


 見た目は何とかカレーだ。ああ、心臓に悪い。料理、全くできないんだな。


 ご飯とともに皿によそってテーブルに置き、椅子に座ったところで揃って手を合わせる。


「「いただきます」」


 ラナが俺の手元をじっと見つめている。目が『食べて。どう?』と感想を期待している。


 俺は表面上はそのままで、内心では恐る恐る一口食べた。口の中にあるのはやたらでかいニンジン。噛むとガリッと音がした。―――固い。生煮えだ。よく噛み砕き、飲みこむ。


 今度はルウだけ口にした。小麦粉でとろみがついているが、とろみ過ぎ。小麦粉の入れ過ぎだ。ところどころ、だまになっている。どうせ入れるなら水で溶かしてから入れないと。


 味は悪くない。市販のルウだから当然と言えば当然だが、何か足りない。


「ラナ、これスパイス入れた?」


 俺の問いにきょとんとする。


「スパイス? スパイスって入れるんですか? カレーってルウに全部味がついてるから、他は何も入れなくていいんじゃないんですか?」


 調味料はいるだろう。味が物足りないならカレー粉を足せばいいのに。棚に並んでいただろう? 料理の基本がなっていない。やることなすこと大雑把すぎて見ていられない。


「カレーの他に得意料理はあるの?」

「あとは目玉焼きとうどんですかね」


 目玉焼きは失敗したとしても黄身が潰れるか焼き過ぎるぐらいだろう。うどんなら芯が残るか茹ですぎるぐらいか。カレーが一番危ない気がする。


「少し味が足りないけど、おいしいよ」


 本当はおいしいとは言えない。でもここではっきり言ったら落ち込んでしまうだろう。


 俺の感想を聞いて満足したようで、ようやくラナがカレーを食べ始めた。ガリガリとカレーではありえない音がする。しかし彼女の反応は予想外のものだった。


「うん。まずまずですね」


 まずまず!? 本気で言っているのか? 味覚は正常か?


「噛みごたえがありますね。たくさん噛むと痩せるらしいですよ」


 そういう問題か? 『食べるの大好き!』って何でもアリか!


 ちょっと料理を教えなければならないか。結婚後を考えれば、この状態じゃ毎朝胃薬が必要になる。それは勘弁したい。


 それでも無理をしてすべて食べ終えた。よく耐えた、俺。





 ラナが洗い物をしている間に、俺は自室の机の引き出しからリボンの掛けられた細長い箱を取り出した。洗い物を終えた彼女をソファーに座らせて箱を手渡す。


「一日遅れたけど、クリスマスプレゼント」


 ラナの表情が一気に明るくなる。


「嬉しいです! ありがとうございます。開けてもいいですか?」

「いいよ」


 箱の中身はシンプルなネックレス。小さな石がついている。いつも身に着けられるものをどうしても贈りたかった。


「うわぁ、かわいい」

「ずっと身に着けていてほしいから。今、着けて?」


 ラナは一瞬目を見開いた後、頬を赤く染めてネックレスを着けた。よく似合っている。


「どうですか?」

「似合っているよ」

「えへへ」


 はにかむ様がかわいらしくてキスしたくなった。身体を引き寄せようとしたときだ。


「そうだ!」


 突然の大きな声に動作を止めた。どうしたのだ。


「実はわたしも鮫島さんにプレゼント用意してるんです。でも昨日会えるとは思ってなかったんで家にあるんですけど、今日渡したいんです。一緒にうちまで来てください!」


 えっ、今から? 非常に気まずいのだが。しかしいずれ挨拶には行かねばならないだろう。早いに越したことはないか。


「わかった。準備するから少し待ってて」


 俺は自室に戻り、クローゼットをあさった。スーツが無難だろう。しかし結婚の挨拶でもないのに、畏まった格好もどうだろうか。


 時間をかけて悩んでいると扉の向こうでラナが声をかける。


「鮫島さ~ん。家に電話したら『夕飯を食べていってください』って母が。父も心待ちにしているみたいです」


 電話したのか。やはりスーツか……?


「それから父が『スーツでは来るな』って言ってました。ちゃんと私服で来るようにって」


 ……俺が服装で迷うことまでお見通しか。敵わないな。


 失礼に当たらないように気をつけて、私服に身を包んだ俺はラナとともにマンションを出た。






父の『スーツで来るな』発言には「交際は認めるが、まだ嫁にはやらん」という複雑な親心が含まれています(笑)


さて次回、気まずい初めての彼女のお宅訪問。彼の試練はまだまだ続く…




☆お詫び小話『なぜラナのカレーはとろみがなかったのかの謎』

(今回の小話中の『』は心の中の声と思ってください)


 どうもいとみです。今回は実況スタイルにて「なぜラナのカレーはとろみがなかったかの謎」を解明したいと思います。

 

 まずはスーパーの買い出しから見てみましょう。ラナは恋人に初めて料理を振る舞うということでウキウキ。一方鮫島はラナの中から罪悪感が完全に消えたことにご満悦です。彼は今回一切口出しをせずに全てを見守ることにしました。


 初めにカレー粉売り場にやって来ました。鮫島はスパイス売り場に興味津々。彼は本格的に料理をするタイプで、カレーはスパイスから作る派。対してラナは市販のカレールウを手にします。後ろの表示を見て、中に入れるものを確認しています。ある意味カンニングです。

 次に肉売り場。ラナは鶏肉を手にしました。どうやらチキンカレーを作るようです。


『やっぱり鶏肉が一番安いしね。こういう金銭感覚がしっかりしているところをちゃんと見せなきゃ。意外にできるんだぞってとこをね』


 その肉の量を見て鮫島は驚きました。明らかに二人前の分量ではなかったからです。


『その量、多くないか? ま、さすがに全部は使わないだろう。余ったら冷凍すればいいか』


 最後に野菜売り場です。お馴染みの野菜を手にします。ここでもラナはおよそ二人前とは思えない量の野菜をかごに入れます。

 レジで会計のとき、どちらがお金を払うかで若干揉めます。


「今日はわたしが払います! そうじゃなきゃ償いになりません!」


「駄目。俺が料理作ってほしいってお願いしたんだから出すよ」


 はい、案の定どちらも折れません。レジの人が困っています。結局お札は鮫島、小銭はラナで折り合いがついたようです。


 家に戻り、いよいよ調理開始です。まず具を切るようです。危なっかしいです。鮫島がハラハラしながら見守ります。ラナは集中していて鮫島が見ていることに気づいていません。

 徐々に要領が分かってきたラナは楽しくなってきて、買った材料をすべて使ってしまいました。鮫島は遠巻きに見ているのでキッチン全体は見えません。彼の死角には大量の切った具材がありました。四十分かけて下ごしらえを終えました。二人とも安堵しています。


『とりあえず怪我しなくてよかった。危機は脱したな』


『ああ、やり遂げた。ちょっと切りすぎた感じがするけど、なんせ五人前だもんね。具が大きくていっぱいあった方が食べごたえあるしね。余った分は冷凍保存でいいか。わたしがいないときでも、鮫島さんがわたしの手料理を食べてくれてるって思うだけでテンションあがるし』


 鍋を選ぶとき、ラナは悩みました。鮫島は鍋を多数所有しているようです。


『どうしよう。どれがいいかな? ま、大は小を兼ねるか……』


 ラナは一番大きな鍋を手にしました。鮫島はそれを見て思いました。


『二人前だろ? そんな鍋じゃなくて、もっと小さな鍋があるだろうに……』


 ラナは鍋に油をひき、肉を炒め始めました。その光景を見て、鮫島が安心したのは言うまでもありません。ラナは思います。


『肉にはしっかり火を通さなきゃね。野菜は生でもいけるからどうでもいいけど』


 どうでもよくないですよ~。……伝わりません。肉に火が通ったところで野菜を入れてすぐに水を入れました。しばし煮込むとあくが出現。ちゃんとあくをとることは知っていたみたいで、お玉ですくうのですが煮汁も道連れです。


『ああ、うまみエキスが……。もったいない』


『ありゃ、大分水分減っちゃったな。これじゃ五人前にならないなぁ。水入れちゃえ!』


 ラナはちょうど鮫島が目を離した隙に水を鍋いっぱいに入れてしまいました。これで鍋の中の温度が下がり、野菜が煮えない状況ができてしまいました。彼女はもちろん彼が観察していることは知りません。なんという偶然でしょう。

 

 しばらくしてラナはルウを全部入れました。当然二人前を作っていると思い込んでいる鮫島はギョッとしました。


『おい、ルウが具材の分量より多いだろう。一体何人前作るつもりだ』


 しかしラナが作っているのは五人前です。しかも先ほど水を足したせいで五人前より多い水分量が鍋に存在します。当然ルウを入れてもとろみがつきません。鍋をかき回しながら首をかしげます。


『おかしいなぁ。全然とろみがつかない。こういうときは……。そう、粉を入れれば固まる!』


 こうしてラナは手近にあった小麦粉を手にします。スプーンで鍋に投入。本来は水で溶くべきなのですがお構いなしです。全くとろみがつかないカレーにカチンと来ます。


『何でとろまないの? わたしにケンカ売ってる? いいや、全部入れちゃえ!』


 ラナは容器を傾けて粉を全部入れようとしました。慌てて鮫島が止めに入ったものの、結構な量がすでに鍋に入ってしまいました。ラナは鍋をかき混ぜます。鮫島はがっくり肩を落とします。


『遅かったか……。でも全部入るよりましか』


『何で止めるの? でもまあまあとろみがついたか。これでいいな。味は市販だから心配なし!』


 しばらく煮込んだのち、味見もせずにラナは料理を完成させました。結果がどうだったかは、皆さんご存知の通り。

 はたして今後ラナの料理の腕はどうなっていくのか?

 ではまた。

 

 

 

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