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お約束の夜

引き続き鮫島視点です。

 夜八時過ぎ。仕事を終えて、ラナのバイト先であるカフェへ向かう。


 ニ十分ほど歩いて店のすぐそばまで来ると、店の前にいるサンタ姿の二人の女性の姿が目に入った。一人は派手な女の子。もう一人は会いたくて堪らなかった彼女の姿。

 ゆっくり近づいていくとラナは俺の姿を見つけ、驚いた表情をした。


「鮫島さん……? 嘘……」

「嘘じゃないよ。久しぶりだね、ラナ」


 三週間ぶりの再会、久々に見た彼女の姿。顔が見たくて、声が聞きたくて、触れたくて……。ようやく実現し、嬉しさがこみ上げる。


 しかしその余韻を噛みしめる暇もなく、間に入ってくる声が邪魔をする。


「ラナさ~ん、この人知り合いっすか~?」

「ね~、しょ~ちゃん。この人もしかして~、ラナさんのカレシじゃね~?」

「マジで~! 超イケメンじゃねぇ~? ラナさん騙されてね??」


 ……おい! 人聞きの悪いことを言うな! 誰が詐欺師だ。


「ちょっとあんたたち! うるさいよ!」


 ラナが二人の若い男女を怒鳴る。おそらくバイト仲間だろうか。


「すみません。うるさかったですね。鮫島さん、お仕事は?」

「ああ、片付いたよ。これもラナに早く会いたかったからかな」


 そう言うと頬を赤く染める彼女。人前でなければ抱きしめたくなるぐらいに愛しい。


「もう少し待っていてくれますか? 駅まで一緒に……」

「いや、そのことなんだけど……」


 非常に言いづらい。まさか彼女の母親がこんなことをしようとは、本人は全く考えもしていないだろう。口ごもっていると、俺が手にしている物に気づいた。


「あれ? それ、わたしのかばん?」

「これ、沙羅さんから預かった」

「姉ちゃんに? でも何で?」

「それからこれ」


 ラナの母親からの手紙を渡す。それに目を通したラナは、みるみる内に表情を曇らせた。


「なんじゃこりゃー!」


 おそらく俺宛の手紙と似たようなことが書いてあったのだろう。俺は尋ねる。


「どうする?」

「え……? どうするって……」


 ラナは困惑していた。当然と言えば当然だ。いきなり覚悟しろと言っているようなものだ。


「今日うちに来る?」


 そう訊くと「少し考えたいです」と言って店の中に入っていった。俺もその後に続き、コーヒーを注文してバイトが終わる時間まで待つことにした。ラナの働く様子を眺めていると、うわの空に見えた。やはりバイトの後に伝えればよかったか。



 九時少し前にバイトが終わったと俺のところにやって来た。ミニスカサンタの衣装の上にコートを羽織って。


「着替えないの?」

「店長が貸してくれるらしくて、着替えちゃ駄目だって」


 どういう意味だろう。その格好は俺を試しているのだろうか。そんな格好で一緒にいたら理性崩壊など時間の問題だ。


 外に出て少し歩く。するとラナが俺のコートを掴んで引っ張る。


「どうした?」


 彼女は少し俯きがちに小さな声で言った。


「……今日、鮫島さんの家に行ってもいいですか?」

「……それ、どういうことかわかって言ってる?」


 そう訊くとコクリと頷いた。俺は無言でコートを掴んでいた彼女の手を取り、俺の家へ向かった。互いに終始無言だった。






 マンションに到着し、部屋に招き入れる。部屋に入るとき、ラナは一瞬躊躇したがゆっくりと部屋に入った。リビングのソファーに座るように促すとコートを脱いで彼女は座った。


 座るとミニスカートから覗いた太ももについ目がいってしまう。が、すぐに逸らした。まだ早い。ラナもようやく覚悟を決めてくれたみたいだし、焦りは禁物だ。


 彼女はテーブルに店から貰ったチキンとケーキを並べる。俺は飲み物を用意する。そういえば酒は飲めるのだろうか?


「ラナ、お酒飲める? シャンパンかワインとかどう?」

「あ、はい。どちらでも大丈夫です」


 心なしか緊張しているようだ。お酒の力を借りてでも、もう少しリラックスしてくれるといいのだが。


 ラナの隣に腰かけ、シャンパンを開ける。グラスに注ぎ、それを手渡す。彼女はじっとグラスを眺めている。


「乾杯しようか」


 互いに見つめ合い、グラスをかざす。


「メリークリスマス」

「メリークリスマス」


 乾杯した後グラスに口をつける。ラナは緊張をほぐそうとしているのか、グラスを一気にあおった。果たして、そんな飲み方で大丈夫なのだろうか。


 チキンやケーキを食べながら、次々にシャンパンやワインを開けていく。ラナのお酒を飲むピッチは速い。少し心配になったが、ベロベロに酔っている気配はない。


 結構時間が経った頃、俺は隣に座るラナを抱き寄せた。顔を覗き込むと、お酒が回っているのか顔は上気し、潤んだ目で俺を見上げている。

 上目遣いは反則だろう。その表情は俺を煽るに十分だった。頬を優しく撫でる。


「ラナ……」


 堪らなくなり、顔を上向かせて軽く口づける。その唇の柔らかさにやはり箍が外れた。一度離して今度は深く口づける。ラナが俺のシャツをギュッと掴んだ。抵抗はない。そう確認して安心し、そのまま何度も激しく唇を味わう。


「ぅん……、はぁ……」


 呼吸の合間に漏れる色っぽい吐息が、俺の中の野獣を呼び起こす。優しくしたいと思う一方で、ラナの身体を貪りたい衝動に駆られる。それでも何とか冷静になろうと自分を抑えて唇を離し、抱き締める。

 気づいたときにはラナは身体を俺に預けていた。それが嬉しくて耳元で甘く囁く。


「ラナ……、いいか?」


 返事はなかった。同意したと取っていいのだろうか? それともやっぱり嫌?


 恐る恐る表情を見ると、ラナは固く目を閉じて穏やかな寝息を立てていた。


 ……嘘だろう? この状況で眠る? こんな生殺しはないだろう。しかし眠っている彼女相手にどうこうする趣味はない。俺はため息をつく。


 おそらく連日のバイトでの疲労と酒のせいで眠ってしまったのだろう。無邪気な寝顔だ。

 眠る彼女を抱き上げてベッドに寝かせる。かわいい寝顔をしばし眺める。


 ラナとの出会いは、俺に忘れていたものを思い出させてくれた。もう一度恋をしてもいいと思ったこと、人を好きになるということ、一緒にいて楽しいこと、つい嫉妬してしまうこと。俺にとってたった一人の大切な人……。ラナ、たくさんのプレゼントをありがとう。


「お疲れ様……、俺のサンタさん」


 彼女の額に軽く口づける。残念だが仕方ない、一晩我慢するか……。俺は高ぶった気持ちを収めるためにバスルームへ向かった。

 






はい~、お約束で~す。あ、石投げないでください!

じれったいかもしれないですが、ラナ相手にはこんなもんです。

鮫島、ドンマイ(笑)

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