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クリスマスの策略

鮫島視点です。

 ラナと会わなくなってもう三週間。今日はクリスマス。ようやく仕事の激務から解放されそうだ。


 ラナから仕事で会えないことを『気にしなくていい』と言われたときは複雑な心境だった。俺の身体のことを考えてくれている気持ちは嬉しかったが、会えなくても平気だと言われたようで寂しい。


 ラナは俺に会えなくても平気なのか? と問い詰めたくなったが、『仕事頑張ってください』と言ったその顔が、つらいのを隠して精一杯笑顔になろうとしているようだった。ラナも俺と会えなくて寂しいと思ってくれている。そう思うだけで少しだけ救われた。


 寂しさを忘れるためにがむしゃらに働いた。すると予定より早く仕事が終わるめどがついた。今日の夜なら彼女に会えるかもしれない。


 休憩がてら喫煙室に行くと設楽の姿があった。俺に気づくとこう言った。


「今日、営業先からの帰りにラナちゃんに会ったぜ」


 どうして俺より先に会うんだ! 憎たらしい奴。


「カフェの前で売り子してた。ミニスカサンタだったぜ」

「は?」


 ミニスカサンタ? どういうことだ。そんな格好で他の男の前に立つんじゃない!


 どんどん不機嫌になるのを自覚する。設楽はそれを感じ取ったようだ。俺を冷静にさせようとする。


「怒るなって。そんなにスカート丈、短くないから。で、ラナちゃん今日、バイト夜九時までだって。それに間に合うように行けば、会えるんじゃねぇか?」


 こいつは俺とラナが会っていないことを知っていた。だからわざわざバイトの終わる時間を聞いてきたのかもしれない。


「ああ。……悪いな」


 その言葉にニヤリと笑みを返す設楽。


「いいってことよ。設楽サンタからのプレゼント」


 俺は苦笑しながらも、設楽に気づかいに感謝した。





 終業直後に受付から俺に面会したい客が来ていると内線が入った。受付まで行くと、それは全く予想外の人物だった。面識のない女性、しかしその顔は明らかに面影があった。


「突然お伺いしまして申し訳ございません。はじめまして。ラナの姉の沙羅と申します。妹がお世話になっております」


 俺の見合い相手となるはずだった、ラナの姉だった。ラナよりは大人びている(年上だから当たり前だろう)が、顔はよく似ていた。


 挨拶を返し、ロビーにある談話ブースで話を聞くことにした。


「あの、こんなこと申し上げにくいのですけど……」


 沙羅さんは口ごもる。ラナに何かあったのだろうか?


「どうしましたか?」


 急かすと言いづらそうに口を開いた。


「今日、ラナを鮫島さんのお宅に泊めてやっていただけないでしょうか?」

「……は?」


 どういうことだ? 一体何を言っている? 俺は混乱する。

 沙羅さんは俺の困惑を感じ取ったようだった。


「わかります。突然こんなこと言われて、戸惑うのは当然です。わたしもこんなことを言いに、わざわざ妹の彼氏の会社まで来たくはありませんでした」


 沙羅さんは堰を切ったようにまくしたてた。


「でも母の言うことを聞かないと、後々厄介なことになるんです! 今日両親は知人のご不幸があって家に不在です。わたしも彼と予定があって……。そうすると家にラナ一人きりになるんです。ラナがずっと鮫島さんと会ってないことも知っています。すごく落ち込んでいましたし。そんなラナを見た母が、クリスマスは鮫島さんと過ごしてほしいと言い出して、わたしにラナの着替え一式を持って鮫島さんを訪ねるようにと」


 沙羅さんの話を黙って聞いていたが、樫本家は母親が強いのだろうか? 以前聞いた話では父親の方に威厳があるように感じたのだが。


「ラナはまだこのことを知りません。ラナに宛てた手紙がここに……。それから鮫島さんにも」


 差し出された手紙を開けて読む。その内容に困惑した。





『 鮫島さんへ


 はじめまして。ラナの母です。いつも娘がお世話になっております。

 さて突然ですが、今日一晩ラナのことをお願いしたいのです。

 ラナが鮫島さんに会うのを必死に我慢している姿を見て、わたしも辛いのです。

 せっかくクリスマスなので甘い夜を過ごしちゃってください。

 主人のことは気にしなくていいのよ。ふふふ。

 では素敵な聖なる夜を。 』 





 ……ラナの母親は随分変わり者だな。応援してくれる気持ちは嬉しいが、本当にいいのだろうか?


「こんなこと、いいのでしょうか?」


 そう尋ねると、沙羅さんは困り顔だ。


「……母は言い出したら聞きませんし、むしろ今日ラナが家で一人で過ごしたのがばれたときが恐ろしくて……。もちろんラナや鮫島さんの気持ち次第です。不都合があれば、ラナをビジネスホテルにでも押し込んでやってください」


 そう言って、沙羅さんは帰って行った。


 ラナを俺の家に泊めることに不都合はない。しかし一夜を共にするのに、何もしないことを保証できるとは思えなかった。現に一度箍が外れた前科がある。ずっと会えなかったこともあり、今回は前回以上に自分が信用できない。


 とりあえずラナの気持ち次第だな、と俺はデスクに戻った。





策略とはぶっ飛んだラナ母の娘への応援でした。


次回も鮫島視点でお送りします。

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