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VS自称・婚約者 前編

前回やたらと「夜道、危険」とか言ってたくせに、起こった事件はこれです。

犯罪系ではございませんのでご安心を。

 次の週の水曜日、鮫島さんから連絡があった。明日この前の埋め合わせをしようとのことだった。




 あの日は本当に驚いた。あのバイト先はよく接待で使われる店ではあったが、まさか鮫島さんと出会うとは。突然でびっくりしすぎてかえって冷静になれた。仕事モードの彼を見れたことは普通にデートをするよりラッキーだったかもしれない。あの感じの彼を見るのは見合いぶり。


 それでもあのときと違って意地の悪い面は見事に隠されてて、爽やかさと有能ぶりが前面に押し出されていた。見惚れそうになるのを『いかん! 今バイト中!』と自分に言い聞かせてやり過ごした。


 でもずっとあの顔を向けられたいとは思えない。いじわるでいい大人のくせに子供っぽいところもあって、人のことを平気で笑い飛ばす彼の方が人間味があってよっぽどいい。たまにムカつくけど。


 バイトが終わって気が抜けると、急に昨日のことを思い出して心臓がバクバクし始めた。そして脳裏にあの甘ったるいセリフが何度も駆け巡る。


 あんなこと言った人とよく冷静に顔を合わせられたな、わたし。自分で自分を褒めてやる! バイト中に思い出さなくてよかったぁ。


 着替えながら思い出しては悶え、バイト仲間には不審者扱いされた。深呼吸を繰り返し、ようやく落ち着いたところで外に出ると、すぐに鮫島さんの姿が目に飛び込んできた。


 待っててくれたんだ……。


 心がほんわかと温かくなる。自然に笑顔が浮かび、嬉しくて駆け寄った。帰りは駅までのほんのわずかな時間だったけど話せてテンションがあがる。


 やたら帰りが遅くなるのを心配された。嬉しいんだけど、言い方が父より父親っぽくてついうっかり『お父さんみたい』と口にしてしまった。


 そこからがまた恐ろしい。両手で頬を包まれて一言。


『……彼女を心配して何が悪い』


 それだけじゃなく、デ、デコチューまでしましたよ! しかも駅前で。そりゃ歩行者はいなかったけど、車はそばでビュンビュン走ってたから! 羞恥心、アリマスカ?


 あの人はどれだけわたしの脳みそを破壊しようとするのだろう。極めつけはこれ。


『会えて嬉しかったよ。ラナもそうでしょ?』


 ええ、そうですとも。間違っちゃいないけども! どストレートに言っちゃうなんて、あなたホントに日本人!? サラリと激甘なことを言うこの人の前世はきっとイタリア人に違いない。





 いかん。話を元に戻しましょう。会社の近くにおいしい焼肉屋さんがあるらしく、一緒に食事をしようと誘われた。焼肉の焼ける音が脳裏に浮かぶ。よだれが垂れそう。もちろん即OKした。待ち合わせは午後七時。わたしが彼の会社の前まで行って会うことにした。


 ここで一つの問題が浮上した。あのいわくつきのスカートをはくか否か。あのスカートを買ったがために約束が潰れたと思っている。それでも彼と会えたわけだし(デ、デコチューとか)、今や幸福の赤いスカートに変化したのかも。


 それとちょっと生活観丸出しだけど、においのつく焼肉に新品のスカートはいて行きますか? ってこと。だってクリーニングなんだもん! お財布が痛い。


 考えまくった挙句、女子力を上げたいからスカートをはいて行くことにした。やっぱり見てもらいたいもんね。女の子らしいと・こ・ろ。



 当日の午後六時四十五分、鮫島さんの勤務する会社前。少し早く着いてしまった。


 タイツをはいているが、やはりスカートは寒い。ハーフパンツも変わらないが、ひらひらしている分風通しがいいような気がする。寒さを我慢してまではいたわたしのスカート姿、鮫島さん何か言ってくれるかな?


『スカート姿、珍しい。……かわいいね』


 キャ――ッ! 妄想で十分なパンチ力。


 でもあの人がこんなこと言うわけない。彼ならきっとこう。


『珍しいね。こんなに寒いのにスカート? 女性は大変だね』


 うわ、言いそう。絶対こっちだ。寒さに耐えておしゃれをする女子の気持ちを軽く流しちゃう。世の女子はこういう努力を認めてほしいんですよっ! 妄想の彼に言ってもしょうがないけど。


 脳内彼氏の言葉に気分が上がったり下がったり忙しかったわたしに声をかける一人の女性。


「あなた、この間の……」


 その人に視線を移す。……化粧ケバッ、服装ド派手、香水クサッ! よくよく見ればバイト先で鮫島さんと接待していた女性だ。会社帰りであろうその外見は超ミニスカートに生足? 胸元がざっくり開いていて胸の谷間がチラリ。会社に何しに来てんのさ。あの会社って制服あり? あってもこれはないだろう。


「この間はお越しいただきありがとうございました」


 一応営業スマイルで対応しておく。でも正直言って二度と来てほしくないタイプ。こんなくっさい香水なんてつけて来られたら、せっかくの料理のいいにおいが消されちゃう。板場の人が泣いちゃうよ。

 あのときはにおわなかったから、接待ということで遠慮したのかな? いや、絶対鮫島さんに注意されたんだ。そうに違いない。


 女性が高いヒールを履いていて、ちんちくりんのわたしも見下ろしていた。すごい怖い顔をして。何? もしかして今思っていたことがまた顔に出たかな?


 しかしその予想は大きく外れた。


「あなた、鮫島課長の何?」


 あ――、そっちがらみかぁ。彼女、百発百中で鮫島さんに恋してますね。

 しかし初対面……ではないものの、初会話がこれってどうよ? 大手企業の社員だろ?


「人にものを尋ねる前に名乗るのが社会人のマナーでは?」


 さらっと言ってやった。あからさまにイラついた彼女。


「わたしは山本沙織。鮫島課長の部下よ」

「樫本ラナです。鮫島さんとお付き合いしている者ですが」


 そう言うと高笑いし始めてわたしを見下すような視線を向けた。


「冗談言わないで。課長があなたみたいな小娘相手にするとでも?」


 はい、こう来ましたか。よくあるパターンですわ。こういう状況は慣れてるよ。しかし散々自問自答した言葉でも、いけ好かない相手に言われると腹立つな。


 わたしが無言なことをいいことに山本さんは言いたい放題。


「彼は社内でも出世間違いなしの有能な人なの。あなた職業は?」

「フリーターですけど」

「そんな人、彼に釣り合わないわ。わたしの方がよほど彼にお似合いだわ。わたしの父はこの会社の人事部長なの。きっと彼の力になれるわ。あなたは一体何ができて?」


 聞いててはらわたが煮えくり返って来た。言うまでもなく彼の顔や肩書きとかで近づいてくる女。しかも親の権力をあたかも自分の力と勘違いするタイプ。面倒くせー!


「いずれ父から彼へわたしとの縁談を打診するつもりよ。つまりわたしは彼の婚約者。たとえ彼があなたと付き合っていても所詮遊び。今のうちに別れて下さらない?」


 うわぁ、婚約者気取り。痛いなぁ。あ、でもだんだん楽しくなってきた。黙って聞いてたら面白語録が出てくるかも。

 この待ち時間の暇つぶしを見つけてほくそ笑んでいると彼女に一人の中年の男が近づいてきた。


「どうしたんだ、沙織」

「パパ。今、鮫島課長の周りをうろつく小娘に、いかに自分が彼に釣り合わないかを教えているところなの」


 父親登場! こりゃ娘に激甘だな。黙って見てる? でもそろそろ鮫島さん来るよね。ちょっとうっとおしくなってきたかも。親が出てきたら面白さ半減。やっぱりサシで勝負が一番楽しい。この親子、どうする? コテンパンに潰したら鮫島さんに迷惑かかるかな? やっぱり我慢するべきかな。


 わたしがそんなことを考えていると二人は構わず話を続けていた。


「彼女、ラナさん……っていうフリーターなの。この人と大企業に勤務し、人事部長を父に持つわたし、どちらが課長に釣り合うかなんてわかりきったことよね。ねぇ、パパ」

「ああ、そうだな。君、わかっただろう? 彼のことは諦めなさい。もしかして、金か?」

「そうね。きっとお金目当てね。なら手切れ金を出すわ。いくら?」

「沙織の幸せのためならいくらでも出すぞ」

「あなたみたいな人に、彼のようにいつも爽やかで仕事ができて有能、出世間違いなしの人はもったいないわ」


 遊園地の観覧車の中で鮫島さんが言った言葉が蘇る。


『私の周りにいた女性は打算的な人間が多くてね。私の顔色を窺って取り入ろうする女ばかり。本心では何を考えているのかわからない。“金目当て”、“肩書目当て”、“顔目当て”だろうがね』


 この女はピッタリそれに当てはまる。しかも手切れ金? そりゃいくらなんでもやりすぎでしょうよ。鮫島さんごめんなさい。迷惑かけちゃうかも……。でももう我慢できない!


 わたしは完全にブチ切れて、目の前の親子を精一杯睨み付けた。





そういえば見合いでスカートはいてましたね(ワンピースだから)。

今更気づいてしまいました。

しかしあれはプライベートではない、ということにします(嫌々行った出来事なんで)。

気にされた方、ご容赦ください。


お約束のライバル(?)登場。

しかし早々にラナの逆鱗に触れてしまったこの親子。

一体どうなるかは次回のお楽しみ!

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