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スカートのジンクス

前回、コメディ色が少なかったので、今回は前半ふざけすぎました(汗)

前半は気楽にサラッと読んでいただきたいです。

 木曜日。バイトの帰りにショッピングモールに立ち寄る。というのも珍しく洋服を買いに来たのだ。これまで洋服といえば、正直言って動きやすいとか温かいなどの機能性ばかりを重視していたので、いわゆるデート向きの服を持っていないことに今更ながら気づいた。


 みちるにも『もっと見た目に気をつかいなさいよ。そう、スカートとかはきなさい』と忠告されたこともあり、よっしゃ、いっちょ挑戦してやろうじゃんと意気込んでここにやって来た。


 わたしがどうして、たかがスカートにこんなに意気込みが必要なのには理由がある。プライベートでスカートをはくと、いつもよくないことが起こってしまうのだ。


 そりゃあね、こんなわたしにも当然学生時代がありましたよ。でもそういうのは大丈夫なんだけど、それ以外は全く駄目。スカートはいたときに限って雲一つない晴天だったのが一転してゲリラ豪雨で濡れ鼠になって寝込んだり、他県までランチバイキングに向かったところ、前日に食中毒が起きて営業停止になっていて食事にありつけなかったりと、とんでもなく運が落ちる。だから自然とスカートを避けてしまう。


 よくよく考えたら、する気もない見合いに引っ張り出されたのもスカートのせいかも。あのときは確かワンピース着たはず。今はそれでよかったと思うけど……。



 モールの中の数多くの店の中でどの店に入ればいいのか悩む。だからみちるにデートに合いそうな服を売っている店を聞いてそこへ向かう。


 普段なら絶対入らない雰囲気の店だった。かわいらしい色合いの服がズラリ。その多くの中から何気に手にした一枚の服。やたらフリルの付いたものだ。


 無理。このフリルは自信がない。服を戻して、着回しのききそうなシンプルなデザインを選ぶ。一応試着を……と思って躊躇してしまう。なんせ高校卒業からはいていないプライベートスカートだ。


 いざ試着すると足元がすごくスース―する。気持ち悪い。しかも丈短くないか? 膝上十五センチ? 短すぎだよ! パンツ見える!


 店員さんに「せめて膝上五センチまでのはないですか」と尋ねて持ってきてもらう。試着して、まだましかなと納得する。試着室を出て最終決断。買う? やめとく?


 悩んでいると「あれぇ~。ラナさんじゃないっすかぁ」とチャラい声が聞こえる。声の主はバイト仲間の野口くんとその彼女のサヤカちゃんだった。ザ・ギャル系カップル。見た目はインパクト大だが、心根はいいやつで仲良しな二人だ。


「買い物っすか~。あれ、スカート? ラナさんって~、スカートはきますっけ~?」

「えー、サヤカの記憶では~、見たことないよぉ」

「もしかして~、男出来たんすか~?」


 なんかまずい雰囲気??


「う、うん。そうなんだけど……」


 そう言うと二人のテンションが一気にヒートアップした。


「マジっすかぁ~! あのラナさんにカレシ~!?」

「スゲ~。奇跡起きちゃったんですけど」

「……あんたたち、言い過ぎだし……」


 奇跡だとぉ? まぁ自分でもそう思ってしまうけど、それでもひどい言い草ではないかね?


「やっぱぁ~、年上っすかぁ~?」

「まあね」

「ってことは~、デート服探してんすか? で、スカート?」

「そうだけど」

「絶対おすすめっすよ! スカート。挑戦するべきっす!」


 いつもは軽くスルーする野口くんの発言だが、今日はちょっと食いついてしまう。男の意見をなかなか聞けないもんね。野口くんは全くタイプではないが、一応男だし。


「やっぱスカートがいいのかな? 男の人って」

「そりゃそっすよ。見えそうで見えない感じがたまんね~っすもん」


 サヤカちゃんも野口くんの意見に賛同する。


「やっぱぁ、スカートの方が女子力上がりますよねぇ~。ラナさんまだ若いんだから足見せなきゃダメっすよ~。スカートはいて~、足見せて~、カレシ誘惑すればイチコロっすよ~」


 誘惑するつもりは全くないんですけど。そこまではまだ望んでいませんから。しかし男はスカートを好むのか……。やっぱり鮫島さんも?


「スカートの方がエロの雰囲気に持っていきやすいんすよね~」

「も~ヤダ~! しょ~ちゃんマジエロいんですけど~!」


 この後なぜか二人が買い物に口出ししてきて、やたら丈の短いものをすすめられる。はけない物はちゃんと拒否して、ようやく一枚を選んでレジに持って行った。一応買い物に付き合ってくれたお礼を言って二人と別れた。


 家に帰って、袋からスカートを取り出す。悪いことをしたわけではないのに、やってしまった感でいっぱいだ。若干の後悔が胸に広がる。





 するとやはりスカートのジンクスは今も健在のようで、慣れていないことをやると運に見放されてしまうようだ。夜かかってきた鮫島さんの電話がその始まりだった。


『ラナ、ごめん。明日急に接待が入った。デートはまた今度にしてほしい』


 浮かれていた気分は急降下。楽しみにしていた分、落ち込みも激しい。だけど気をつかわせてはいけない。だって仕事だもん。気にしてないですよ~と、なんでもない風を精一杯装う。幸い電話だ。表情は鮫島さんには見えない。乗り切れ!


「イイデスヨ。仕事ナラ仕方アリマセン」


 よっしゃ、誤魔化せた! とガッツポーズしたけれど……。


『ラナ、落ち込んでいるのか? 言葉が棒読みなんだけれど』


 バレた! 感情を押し殺しすぎてカタコトになってしまったぁ。わたしどれだけ嘘つけないんだよ……。


『残念なのはこっちも一緒だよ。埋め合わせはちゃんと必ずするから。……そうだな、何なら朝まで一緒に過ごそうか』

「あっ、朝まで!? それってつまり……」


 いやいやいや、キスもまだなのに? 何この展開! スカートのせい? そうなの?


『冗談だから。そんなに動揺しないの。急がなくてもいいけど、ラナがいいって言えば我慢しないからそのつもりでいてね』


 ええっ! やっぱり男の人はそういうことしたいの? 相手わたしだよ?? こんなちんちくりんの小娘だよ!


『今はまだ我慢できるけど、いずれはそういうこともしたいから、ちゃんと覚悟しておいてってことを言いたかっただけ』

「そうですか……」

『そう。返事は?』

「……わかりました」


 もう何個か爆弾が落ちてきてわたしの脳はショート寸前。そしてとどめの一発で完全に落ちました。


『いい子だ、ラナ。また連絡する。おやすみ』

「おやすみなさい」 


 携帯を切るとわたしはクッションに倒れ込み、顔を埋めて悶えた。


 あの低くて甘いセクシーボイスが耳元で囁かれた。電話はもう切られているのに未だ脳内にこだましているあのセリフ。


『ラナがいいって言えば我慢しないからそのつもりでいてね』

『いい子だ、ラナ。おやすみ』


 キャ――――ッですよ、キャ――。とろけるチーズよりもとろけるよ。もはや液状化しちゃうよ、脳みそ。


 ヤバイ。これでもし鮫島さんに愛なんて囁かれた日には全身ドロドロになって土に返ってしまうかもしれない。こりゃキスなんてされたら一体どうなるんだろう。もう顔見ただけで思い出して悶えそう。


 一人で床を転がりながら顔を赤くして悶えていると、それを中断させる一本の電話。バイト先の一つだった。


『樫本さん? 悪いんだけど、明日入れないかしら?』


 スカートのジンクスはここでも発揮されますか。ああそうですか。神はわたしに働けと言っておるのだな。よかろう。どうせ暇ですし、働いた方が気もまぎれるでしょーよ。


「いいですよ」


 こうしてスカートのせいで、ウキウキなデートはバイトに早変わりしてしまった。





ラナの気分は忙しいですね。


バイト仲間の二人はバカップルです。

ちなみに野口くん20歳、サヤカちゃん19歳の設定。

これからたまに出演予定。

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