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3 地下牢での戦い

地下水道からジャンヌを助けにランス宮殿の地下牢に向かったドディたち。パイフーという男との戦い。

足が冷たい。当然である。ひざ辺りまで足が水に浸かっているのだから。ドディとシィバはピアリスの地下を流れる下水道を歩いていた。澱んだ臭いが辺りには漂っている。ミズゴケの腐った臭いも感じられる。

「ここを、こう進めば――」

 シィバが地図を見ながら、ドディを先導して進んでいた。

「ジャンヌのやつ、大丈夫かなぁ」

 なんだかんだとドディはジャンヌのことを心配しているのだ。

(あいつは相当俺に世話になっているよな、うん。助け出したらお礼の一言言ってくれるかねぇ。いや言わないだろうな、あいつのことだし)

「やっぱり心配ですか? ドディ」

「分かるか?」

「分かりますよ。大事な存在なんでしょう? あなたにとって」

 大事な存在、か。我儘は言うけれど、素直じゃないけれど、それでもドディにとっては確かに大事な存在だ。一城どころか一国ともかえ難い存在なのだ。

「ああ、そうだ。大事な、存在だな」

 地下水道をさらに進んでいく。そろそろランス王宮の地下に差し掛かっているだろうか? ドディは目の前に階段があるのを確認した。

「ここですね」

 シィバが先にその階段を上っていく。それにドディは付いていった。

 そこは牢屋、だ。ランス宮殿の牢屋。革命時には多くの人が囚われていたといわれている。見張りがいるようだ。

「太陰の眠り」

 ドディは陰、の魔法を唱える。とたんに牢番は地面に倒れ、眠り込んだ。

「あいかわらず、一流の魔道ですね」

「早く、ジャンヌを探そうぜ」




◇◇◇◇◇


必ずドディは助けに来てくれる。そう少女は信じていた。金髪碧眼の少女――ジャンヌだ。それでもやはり不安は隠しきれない。

(レディをこんな汚いところにいつまでも放置なんて、許せないわよ! あいつらいったい何者かしら? ホァンロンってフォルシナ王家と何か関係があるの? あんなチンピラを雇ってるなんて、フォルシナ王家も地に落ちたものね)

「ねえ、牢番さん? 暇だから、何かお話しましょうよ!」

 そう声をかけるが、牢番は返事をしない。と、彼はあくびをひとつして、地に倒れふした。

「ドディ!」


 ◇◇◇◇◇


「そこか! ジャンヌ!」

駆け寄り、魔法を唱える。

「牢の解放」

 飛び出したジャンヌはふわりと金髪をなびかせ、ドディに抱きついた。

「ちょ、ジャンヌ!」

「バカバカバカバカ! ずいぶん待ったんだから。ドディが絶対助けに来てくれるって、待ってたんだからっ!」

 彼女の目から輝く真珠が零れ落ちた。そう、彼女は泣いているのだ。

「再開を喜んでいる暇はないようです。早く出ましょう」

 シィバがそうドディとジャンヌに声をかけたその時!

「ドブネズミが迷い込んだようですねぇ……」

 ジャンヌから離れドディは身構えた。シィバは剣を抜く。

 暗闇から現れたのは、白髪のメガネをかけた男。ひょろっと背が高い。袖口の広い白いローブを羽織っている。

「誰だ、てめぇ」

 鋭い視線をその男に向けるドディ。

「私はマダール五人衆が一人、パイフー。ホァンロンには会ったでしょう? 彼と同じ組織に属しておりますよ」

「どけ、と言ってもどかないんだろうな」

 薄暗いなか、パイフーと呼ばれる男の口の端に笑みが浮かぶ。

「ドブネズミの駆除に来ましたからね」

 突然空中に光るものが浮かんだ。鏃だ。金属製の鏃。

「ホァンロンは土、で、てめぇは金、か」

「ご名答」

 その鏃が空中を舞い、ドディたちに襲いかかっていく。シィバが前に出て、剣で叩き落していく。

「白虎鋼金暗器」

 パイフーは袖口をドディたちのほうに向けるとそう唱えた。そこから鏃が飛び出していくのをドディが確認した瞬間、体に鏃が突き立つのを感じた。

「癒しの風」

 とりあえずの治癒魔法を唱え、ドディは腰に帯びた剣を抜く。「火」の属性をその剣に篭めて飛び交う鏃を熱で溶かしていく。その間にシィバも剣に「火」の力を篭めて、切っ先をパイフーに向け、走る。

 ジャンヌはというと、「木」の魔法で適度な酸素を供給していた。適度、というのは多すぎるとドディやシィバの「火」の魔法が暴走する恐れがあったからだ。木は火の力を強める働きがある。

 ドディは炎を纏った剣で鏃を叩きおとしつつ、さらに魔法を詠唱する。ここまでできる魔道士はそう多くない。彼の技量は非常に高いのだ。

「どけ、シィバ!」

 その言葉に、シィバは右に跳躍しドディの行動に備える。

「炎の矢!」

 何本もの赤い筋が薄明かりの中、パイフーに向かって殺到する。すかさず、シィバはもう一度左に跳躍し、パイフーに剣を突きたてようとした。

「ふん、なかなかやるようですね、しかしっ!」

  呪文を詠唱するパイフー。なんと溶けて液状になった鏃が動き出し、シィバを攻撃しようとする。

「な、なんてやつなの……」

 魔法を唱えながら、ジャンヌは冷や汗をかいていた。熱のためではなく、パイフーの力を見せつけられて汗が出たのだ。

 パイフーはドディの方にもその溶けた鏃を放つ。

「やめてっ!」

 ドディはジャンヌの叫び声を聞いた。

 溶けた鏃がドディの前で止まり、空からボタボタッと落ちる。ジャンヌが光り輝いていた。そして空に浮かんでいた。その瞳はいつもの碧眼ではなく、春の草のように柔らかい翠色。

「どうなってるんだ? ジャンヌ?」

 口をぱくぱくあけしめするドディ。攻撃を止め、にやにや笑うパイフー。

「やはり、ですか。いや、いいものを見せてもらいました。私はここで失礼します」

 パイフーはそう言うと、ドディたちに背中を向けた。

「逃げるんですか?」

 シィバがそう言うと、こう答えが返ってくる。

「いや、本当はドブネズミを駆除したかったのですが、残念残念。あのお方の命令を忘れていました。私の本当の目的はそれを確認することだったのですよ、ではさらば」

 そして彼は去っていった。

ジャンヌの体の光が消え、倒れこむ。

「大丈夫かっ? ジャンヌっ」

「とりあえず、ここを出ましょう」

 ドディはジャンヌを抱きかかえ、シィバとともに『グローリア』に戻っていった。


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