異世界より怖い月曜日②
昨日までは、王女としての表情が多かった。
だが今の笑い方は、ほんの少しだけ年相応だった。
ハレはそれを見て、少しだけ安心する。
食事が進むにつれ、空気も少し緩んでいった。
「そういえば」
サラがふと思い出したように言った。
「昨日の道具は、全部あのリュックに入っていたのですか?」
「まあな」
ハレはパンを千切りながら答えた。
「ロープとか、スリングショットとか、布とか、熊よけスプレーとか」
リオンが眉をひそめる。
「熊ですか……。サラ王女から聞きました。ゴライアスを退けた道具ですね」
ハレは頷いた。
「そうそう。あっちは二回かけてやって、相当苦しそうだったよ」
リオンの表情が、さらに真剣になる。
「ゴライアスが、二度も……」
「いや、そんな大げさに受け止めるなよ」
ハレは少し困ったように笑った。
「キールの時も、あいつに撃った泥団子に仕込んでたんだよ」
サラが目を瞬く。
「仕込んでいたのですか?」
「護身用に一応な。熊よけスプレーを少し染み込ませて乾かしてた」
「そんなものまで準備していたのですか?」
「山だと、何が起きるか分からねぇからな。まあ、キール相手に効くかは賭けだったけど」
リオンは真剣な顔で考え込んだ。
「つまり、地球の熊対策は、ゴライアスにもキール・カルバスにも有効だった」
「そのまとめ方はだいぶ物騒だな」
「熊とは、それほど危険な魔物なのですか?」
「動物だよ。魔物じゃない」
リオンはさらに深刻そうな顔になった。
「地球の動物は、魔物でなくとも高位術者を退ける対策が必要なのですね」
「だから、まとめ方がいちいち物騒なんだよ」
サラは興味深そうに聞いた。
「地球では、魔法を使わずに危険を避ける道具が多いのですね」
「魔法がないからな」
ハレはスープを一口飲む。
「そのぶん、道具と知恵で何とかするしかない」
「だから、あなたはあのように戦えるのですね」
「そんな大層なもんじゃねぇよ」
ハレはパンを千切りながら言った。
「山で慌てると死ぬ。だから、慌てない方法を考える。それだけ」
サラは静かに頷いた。
リオンはその言葉を妙に真剣に受け止めている。
「山で慌てると死ぬ……」
「格言みたいに覚えんな」
「有用な教えです」
「まあ、間違ってはないけどさ」
その流れで、話は地球の暮らしへ移っていった。
会社。
仕事。
休日。
スマホ。
電車。
コンビニ。
サラは一つ一つに目を丸くした。
リオンは逆に、すべてを軍事的に理解しようとしていた。
「では、会社とは部隊のようなものですか」
「まあ、組織ではあるけど」
「上官はいるのですか」
「いるな」
サラが首を傾げる。
「その上官は、優しい方なのですか?」
ハレはパンをかじりながら、少し遠い目をした。
「全く。ある意味、敵だな」
「敵……?」
「悪人じゃない。ただ、定時付近になると、疲れ切ったこっちの精神を削るように聞こえてくる」
ハレは少し声色を変えた。
「残業ー!」
サラが目を瞬く。
リオンが真顔で腰元に手をやりかけた。
「敵襲の合図ですか?」
「違う。いや、ある意味合ってる」
サラは真剣に聞く。
「それは……呪文ですか?」
ハレは少し考えてから頷いた。
「呪文だな。呪いの」
リオンは険しい顔で頷いた。
「その部長という者、警戒すべき存在ですね」
「お前、理解早いな」
ハレは思わず笑った。
「昨日のキールより現実的に怖いかもしれん」
サラは少し困ったように笑った。
「ハレの世界にも、大変な敵がいるのですね」
「毎週月曜に現れる」
そこで、ハレの手が止まった。
月曜。
その言葉が、自分の中で引っかかった。
「……待て」
ハレはゆっくり顔を上げる。
「今日って何曜日だ?」
サラが首を傾げる。
「曜日、ですか?」
「暦だよ。七日で一周する区切りみたいなもん。こっちにはないのか?」
「似た暦はありますが、地球と同じではありません」
ハレは慌ててポケットからスマホを取り出した。
電波はない。
だが、日付と曜日は表示される。
画面を見る。
日曜日。
「……日曜」
数秒、固まる。
そして、血の気が引いた。
「待て。明日、月曜じゃん」




