緑川夫人
明智先生の事務所は池袋にあるミッション系大学の真横だ。先生は離婚弁護士でありながら推理作家「平井太郎」としても活動してる。
お祖父様の趣味だったと言うアンティークの真っ赤なビロードのソファに足を組みながら午後の紅茶を飲む。斜め向かいの長椅子に潤と夫に暴力を振るわれていた夫人が座る。
なぜかその後ろの扉の前に鬼丸が仁王立ちのままお手伝いさんが淹れてくれた紅茶を飲んでいる。
「運が良かったですね。まさか助けてくれた人が離婚弁護士の仕事をしてる人達だったなんて。」明智先生がワザとか天然か女性に声掛けする。
「先生!物言いを考えて下さい!
と、私もいつもお電話でしか知らなかったので初めまして、明智先生。」と潤も気付いて頭を下げる。
鬼丸の周りは冷静で頭が良さそうな人ばかりだと改めて思う。明智先生も理性的で均整の取れた容姿と紅茶を飲む指先が美しい男性だ。
「フフッ、かねがね噂は聞いてますよ。良い人が鬼丸くんの助手になってくれて私も安心しました。彼の衛生観念は崩壊してますからね。なので私も滅多に会わないようにしてました。」明智先生が微笑む。
そうだ!鬼丸を雇う弁護士に誰も会わなかったのは、鬼丸の衛生観念を危惧して誰も彼と直接会わなかったせいだ!
「先生!彼女を助けて上げてください!このままだといつか殺されてしまいます!彼女!」と話しながら名前を知らない事に気付く。
「あの…お名前聞いてなかったですね?」潤はガシッと肩を掴んだままの女性に聞く。
「…緑川と申します。」女性もヒタッと潤の胸にしがみついたままだ。
小柄で華奢な身体に小さな尖った顔に大きな潤んだ瞳が小動物のようだ。男が守ってあげたくなる女そのもの容姿だ。
まだ小刻みに震える身体と声に潤は女ながら守りたい!と思う。
「でも、1番今ヤバいのはインフルエンサーの真世さんだと思いますよ。
緑川夫人は大丈夫!しばらくウチの屋敷で匿いましょう。」明智先生が緑川夫人に手を差し伸べる。
潤の方を緑川夫人は振り返ったが、促されて
もう1つの赤いビロードの椅子に腰掛ける。
緑川夫人の小さな身体だと椅子に埋もれるようになる。
「この椅子、とても柔らかい座り心地ですね…」緑川夫人は何度も座り直す。何か引っかかるのだろうか?
「フフッ、僕もお気に入りなんですよ。さあ、まだ紅茶に手を全然つけてないですよ。飲んでゆっくりご主人の事を聞かせて下さい。」と急に緑川夫人の動きが止まる。
「どうかされましたか?」明智先生が涼し気に緑川夫人に聞く。
「…これは何でしょ?」今までの小さなか細い声がウソのようにシッカリした口調で夫人が聞く。
潤も夫人の方を見る。良く見えないが細い細い糸のような物が腰と両手両足に光ってる。
「テグスが近いでしょうか?僕と同じくらい深くちゃんと座ると両側から糸が出まして座った者を捕捉するんですよ。」そう言うとおもむろに立ち上がり夫人の着物の帯に手をツッコむ。すると細く長いしなやかな錐が出てきた。
「これで潤さんの喉を一突きされたら即死ですからね。全く手が出せませんでした。」いつの間にか夫人と潤の間に鬼丸が潤に覆い被さっていた。




