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ep.3

 終業時間を三時間ほど過ぎた頃、職員室で「先生」と声をかけてきたのは、研究所時代からの同僚である悠貴だった。

「浮かない顔をして、どうしたんです?」彼は私の顔を覗き込んだ。

「何でもない。何か用か」

彼の名を呼んでしまい、思わず口を押さえた。彼は気が緩んだように少しだけ笑ったが、すぐに表情を戻した。

「なんとなく、ですよ。」「そうか。で、本当は何の用だ?」

そう言った私に、彼は悪戯がばれて笑う子供のような顔をして少し厚さのある書類を差し出す。

「先生から頼まれていたものです。確認よろしくお願いします。」

 彼は軽く頭を下げて自席へと戻ろうとした。

「おい、お前、目が死んでいる。食べろ。」

 私は柔らかいオレンジ色の飴を放り投げた。彼は片手でキャッチしてそのまま口に放り込む。渡すつもりなどなかった。でも、彼は当然のように受け取り、当たり前のように口にする。あれは誰にでもできる仕草じゃなかった、と後になって思った。

「無愛想ですね。……渚さんは相変わらz」「ここは職場だ」

 飴の事とこの会話を見聞きして、周りの先生方が私たちを疑い深く見ている。これはまずい。バレる前になるべく早くにこの会話を終わらせなければと、思い、私は画面から目を離さず淡々と返す。

「大丈夫ですよ。今、僕と貴方は先生ですから。」

 彼はそう言って笑った。周りの先生方は逆に私たちに釘付けになっていて、私は応対を間違えたな、と反省した。

「そういえば、先生は『 俺 』って言わなくなりましたね」

 その単語を聞き、私の指が一瞬、キーボードの上で止まる。


「これ以上喋るな」


 私が発したその声は、思っていたよりもずっと鋭かったようだ。

「すみませんね、先生。いじり過ぎましたね。」

 私は何も返さず、打鍵を続ける。彼は小さく頭を下げて、自席へ戻っていった。私は振り返る気にはなれなかった。


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