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ep.10
街は静まり返り、不思議な夜だった。足元を寂しく吹き抜けてゆく風の音だけが、耳の中に居座っていた。
鍵を開け、ドアを開ける。いつもの場所であるはずなのに。部屋の中はどこか違って見えた。家具の位置も、空気の温度も、何もかも変わっていないはずなのに、どこか遠い場所に来たような錯覚に陥る。
一歩一歩、ゆっくりと中に足を踏み入れた、その時だった。
「やっぱり、そういう所は相変わらず、ですね」
聞こえるはずのないものだった。顔を上げる。そこには悠貴がいた。どこか少し懐かしそうな、嬉しそうな目をして俺を見つめていた。
「お前は、何故、乗らなかった……?」
俺は零れそうな目と震えそうな声を押さえて、彼に問う。
彼は少し首を傾けて、答えた。
「行った先は、ろくでもない所、そうですよね?」
俺は、何も言えずにいた。俺の頬を一筋の涙が伝う。
「だって、そこは、渚さんが、穢したから。」
「……お前は、気づいて、いたんだな、」
彼は笑った。彼のその笑顔は、彼の小さい頃と同じものであった。




