【第7話 森の奥での出会いと、小さな晩ごはん】
【第7話 森の奥での出会いと、小さな晩ごはん】
朝の日差しが差し込み、ユウは軽く伸びをしながら起き上がった。
生活の基盤は整ってきたが、肉や素材はいくらあっても困らない。
今日は森へ入り、食材と役に立つ素材を集めるつもりだった。
「念のため木刀を作っておくか」
庭に置いていた木材に手を当て、魔力を流す。
木は音もせず刃の形へ変わり、余分な部分は風に消えたように散った。
握ってみると手にしっくりと馴染む。
「これで十分。さあ、行くか」
ユウは袋とアイテムボックスの結晶を持ち、家を出た。
森の入口は光が差し込んで明るく、鳥の声がにぎやかだ。
少し進むと、素材になりそうな薬草や樹皮が次々と目に入った。
しばらく進むと、角の生えたうさぎの魔物が数匹跳ねていた。
小さくて素早いが、肉は柔らかく食べやすい。
「今日の晩ごはんはお前たちに頼むか」
ユウは空気に魔力を混ぜ、片手を軽く振る。
風がうさぎの周りに走り、一瞬動きが止まったその瞬間、
ユウは木刀の柄で静かに頭を叩き、素早く殺す。
死んだ瞬間、光がうさぎを包む。
『素材化しますか?』
「はい」
光が吸い込まれるように消え、
うさぎは跡形もなくなった。
アイテムボックス内には、血抜き済みの肉、皮、骨が
きちんと分けられ並んでいく。
生きている状態では入らないため、これが最も確実で手早い方法だ。
「あと何羽かもらっておこう」
同じ方法で三羽捕まえ、素材化した。
ボックスは時間が止まるため、新鮮なまま保存できる。
森の奥へ入るにつれ、風が弱まり、あたりが静かになってきた。
動物の気配が薄れる静けさには、別の何かが潜んでいる。
そのとき、森に響く大きな咆哮が聞こえた。
「ガアアッ!!」
ユウは方向を確かめ、すぐに駆けだした。
木々の間を抜けると、開けた場所に出た。
そこでは、巨大な熊の魔物が白い犬――狼に似た生き物を押し倒していた。
犬は傷だらけで、もう動く力も残っていない。
「間に合った……!」
熊が犬に止めを刺そうとした瞬間、
ユウは木刀を握り、勢いのまま飛び込んだ。
熊がこちらへ爪を振り下ろす。
ユウは一歩踏み込み、木刀を横に払った。
魔力をまとった一撃が空気を震わせ、
その力に熊の体は弾き飛び、地面を転がった。
立ち上がろうとする熊の足元へ、ユウは魔力を流す。
地面がふっと沈み込み、熊は体勢を崩した。
その瞬間に横から木刀を叩き込む。
重い音が広がり、熊はその場で動かなくなった。
ユウは倒れた熊に手をかざした。
光が包み込み、頭の中に声が響く。
『素材化しますか?』
「はい」
光が弾けるように消え、熊の巨体は跡形もなくなった。
アイテムボックスには肉、皮、骨、牙などが整然と並ぶ。
不要な部分は自動的に分解されて残らない。
「さて……君は大丈夫か?」
犬のそばにしゃがみ込むと、
白い毛の間から血がにじんでいた。
呼吸も荒い。
ユウはそっと体に触れ、温かい魔力を流し込んだ。
光がふわっと広がり、犬の傷は少しずつ閉じていく。
犬は弱いながら目を開き、じっとユウを見つめた。
「もう大丈夫だ。動くなよ」
落ち着きを取り戻した犬を木陰に休ませ、
ユウはアイテムボックスからさきほどのうさぎ肉を取り出した。
時間が止まっているため、捕れたての状態そのままだ。
「今のうちに晩ごはんにしよう。君も腹が減ってるだろ?」
火魔法で焚き火を起こし、枝を組んで火力を安定させる。
うさぎ肉を串に刺し、じっくりと焼き上げた。
脂が落ちるたびに火がパチパチとはぜ、
香ばしい匂いがあたりに広がる。
香りにつられるように、犬が近づいてきた。
まだ体は完全ではないが、食欲は戻っているようだ。
ユウは焼けた肉を小さくちぎり、犬の前に差し出した。
「食べられるか?」
犬は一度匂いをかぎ、
そのままそっと口を開いて肉を受け取った。
慎重に噛んで飲み込むと、小さく尾を振った。
「よかった。じゃあ俺も」
ユウも串を取り、肉を頬張った。
柔らかくて、噛むほど旨みが出る。
森の奥で、二つの影が静かな焚き火を囲んでいる。
風が木々を揺らし、火がゆらゆら揺れた。
「今日は大変だったけど……悪くない一日だな」
犬はユウの隣に座り、火を見つめていた。
その姿はどこか安心しているように見える。
食事を終え、ユウが立ち上がると、
犬はゆっくりと横に並び、自然と歩き出した。
帰りたくないわけではなく、
ただ一緒にいたいという意思が伝わってくるようだった。
「ついてきてもいいぞ。無理にとは言わないけど」
犬は嬉しそうに尻尾を振った。
森の奥へ沈む夕日が、二人の影を長く伸ばしていた。




