第2話 家を作ることにした】
【第2話 家を作ることにした】
森の近くを歩いていると、少し開けた場所が見えてきた。
大きな木が何本も並んでいるが、ここだけ地面が平らだ。
日当たりもいい。風も通る。水の音も聞こえる。
「ここなら家を建てられそうだな」
ユウは周囲をぐるっと見回した。
木の位置、地面の固さ、小川までの距離。
全部ちょうどいい。
「よし、今日は家づくりを始めるか」
そう言ったものの、家を建てたことなど一度もない。
しかし、頭の中にはなぜか家づくりの知識があった。
柱の立て方、屋根の作り方、壁の丈夫にする方法。
すべてが、自然に理解できる。
「この知識……本当に助かるな」
ユウは一本の木に近づき、手を当てた。
魔力を少し流すと、木の表面がすべらかになり、
そのまままっすぐな柱になった。
「おお、便利だ。これは楽しい」
調子に乗って近くの木にも手を当てる。
同じように形が整い、柱に変わった。
その光景を見て、ユウは思わず笑った。
「魔法でこんなことまでできるのか。すごいな」
森の風がゆっくりと吹いた。
葉が揺れ、光が差し込む。
その雰囲気が気持ちよくて、作業がさらに楽しくなった。
ユウは柱を何本も作り、地面に並べた。
次は土台だ。
魔力を使って地面を固め、水平になるように整える。
「これくらいならすぐできるな」
地面が固まり、家の形が少しずつ見えてきた。
想像よりも順調だ。
「次は壁と屋根だな」
木の板を作るために、細めの木を数本選ぶ。
手をかざすと、木は自然に薄い板になっていく。
これを何枚も重ねれば壁になる。
「便利だけど……やりすぎると森の木が減りそうだ」
そう思い、ユウは必要以上には作らないように気をつけた。
壁を立て、柱に固定する。
魔力で結び目を固めると、しっかりとした家の形になってきた。
イメージしていたよりもずっと頑丈だ。
「いい感じじゃないか」
屋根も板を組み合わせて作る。
雨が入りにくいように角度をつけた。
頭の中にある知識のおかげで、ほとんど迷わず進められた。
「よし……これで仮だけど家っぽくなってきたな」
ユウは大きく伸びをした。
森の風が体をゆっくり通り抜けていく。
「家を作るのって、思ったより楽しい」
そう感じたのは初めてだった。
以前の世界では、こんな作業をすることはなかった。
ただの仕事漬けの日々。
ゆっくりと考える時間もなかった。
だからこそ、今の時間がとても新鮮だった。
「ここでならのんびり暮らせるかもな」
ユウはできあがった家の中に入ってみた。
まだ何もないが、雨風はしのげる。
これからどう住みやすくしていくか考えると、
それだけでワクワクしてくる。
「床も貼らないといけないし、窓も必要だな。
あと、寝る場所も作らないと」
次にやるべきことがどんどん浮かぶ。
でも急ぐ必要はない。
今日はここまででいい。
家の前に腰をおろし、森を眺めた。
木々が揺れ、川の音が聞こえ、鳥が鳴いていた。
それらがすべてちょうどよく重なり、
静かで気持ちのいい時間になっていた。
「本当に、いい場所だ」
森の匂いが風に混じり、ユウの心が落ち着いた。
ここで暮らすことを選んだ自分を、少しだけ誇りに思えた。
ふと空を見上げると、夕日が赤く広がっていた。
一日の終わりを知らせる光だ。
「よし、今日はもう休もう。
明日は窓と床を作るか」
ユウは軽く伸びをし、新しい家の中に入った。
まだ寝床も何もないが、安心して眠れそうだった。
こうしてユウの森での生活は、
ゆっくりと、しかし確かな形で始まっていった。




