第10話 フェンリルに名前をつける
『喜べ、主は我と従魔契約を結んだ。よって、我の面倒を見る義務が発生する』
フェンリルが偉そうにそういう。喜べって……。
「面倒を見る義務って?」
『我に馳走を用意するのだ。一日三食!』
「はあ……」
一日、三食……?
こいつ、さっき寸胴鍋×2のカレーをペロッと食べたよね……。
作るの結構手間だった。それを毎食やらないといけないとなると……かなりの重労働なんだけど。
それに……お金の問題もある。
今回は、さっき手に入れた魔物の肉と、既に買ってあったカレールーを使った。つまり実質ゼロ円で食事を作れた。
……でも、魔物の肉もカレールーも、有限だ。食ってけば無くなる。
馬鹿みたいに、食費が掛かる……!
「あのぉ~……ちなみにクーリングオフは、できないのかな?」
『なんだそれは?』
「契約解除的な……」
『フハハハハ! なんと面白い冗談だ! やはり面白い女だな、主は……!』
いや冗談じゃあないんだけど……。
第一、私には守護神キャンピーがいるし。別に従魔なんて、手元に置いておく必要ないんだよね……。
『契約解除は、双方の合意があれば可能だ』
「あ、そっすか。じゃあ……」
『双方の、合意が、あればな……』
「あ……」
フェンリルがにやりと笑う。
『悪いが我は主の作る馳走を、いたく気に入った。契約解除はしてやらん』
こんな馬鹿でっかいわんこを飼うハメになってしまったよ……。
『それより主よ、我に名を付けるがよい』
「はぁ……名前……?」
『そうだ。契約を結んだ後、従魔に名を付ける。これはルールだ』
「そっすか……。じゃあポチで」
『……威厳を感じられん』
「じゃあちくわで」
『……馬鹿にされてることだけはわかったぞ。おい……ちゃんと名を付けろ』
ちゃんとって言われても……こっちはあんまテンションあがらないんだよなぁ。
そもそも無理矢理に近いかたちで飼った (飼わされた) わけだし……。
「ん……」
ふと、私は、フェンリルのふわっふわの毛皮が目に入った。
なんか……めっちゃふわっふわしてない……?
こいつ魔物だ。風呂なんて入ってないだろうに。それでも……毛皮は真っ白だし、ふわっふわだし……。
『なんだ、我をじっと見つめて』
「いやその、毛皮が……」
『毛皮が気になるのか? 触りたいのか?』
「あ、え、いいの?」
『ふん。人間ゴトキ下等生物には決して触れさせない……が、主は我が主人だからな、特別に許可してやってもいい』
ふらふら……と私は吸い寄せられるように、フェンリルに近付く。
「ふぁああ……♡」
なんっだこれ……。ちょー……ふわふわ……。すっごい柔らかいさわり心地。
それに……お日様の香りもする。ああ……ずっとこんなふわふわに包まれていたい……。
「柔軟剤使ってるの……?」
『なんだそれは。我は何も使ってない。太陽神の娘、バステト神様より加護を受けているからな。我の毛皮は常に白く美しい』
神様パワーのおかげで、このふわふわが保タれているわけだ。
……ん? ってことは、お風呂にいれなくても良いってわけ?
ペットを飼う上で面倒なのは、毛皮の処理 (お風呂) だ。
それが必要ないとなると、負担が一個減る……。
それに……このモフモフふわふわを、こいつの主になれば、いつでもお触り放題ってこと……?
それは……かなり素敵じゃあない?
『おい、いつまでそうしてるのだ? さっさと名前を付けろ』
「…………」
正直、さっきまでは、こいつを従魔にしておく気はなかった。
私には相棒の、移動型無敵要塞キャンピーがいるから。
でも……ごめん、キャンピー。君は、すっごく強いし、頼りになるよ。でも……でもね!
柔らかさが……足りないの……!
その点こいつは、まあ食費は馬鹿みたいに掛かるだろうけど、でも……強いし、それに……このモフモフをいつでもお触りできるってのが、いい。
「いいよ。契約の主として、名前を付けてあげる」
『なんだか偉そうだな……ふっ、面白い女だ』
「そうね……【シロエ】。シロエなんてどう?」
毛皮も尻尾も真っ白だから、シロエ (柄) 。
『ふむ……シロエか。良かろう。以後、我をシロエと呼ぶ栄誉を与えよう。主よ』
どこまでも偉そうだなこいつ……。
モフモフお触り放題オプションがついてなかったら、とっくに保健所送りにしてるところだ。
異世界に保健所があるか知らんけども。
「そんじゃ……シロエ。今日から君は私のモフモフ係ね。しっかり毎日モフモフさせてもらうから」
『フッ……良かろう。主は今日から我の料理番だ。しっかり我を三食食わせるんだぞ』
こうして従魔シロエをゲットしたわけだった。
「もう大丈夫ですよー。シロエは私の従魔になったんで」
私は冒険者パーティ、【黄昏の竜】の面々に向かって言う。
リーダーのリダケンさんが、おっかなびっくりしながら、近付いてきた。
「お騒がせして申し訳ないです。シロエ、謝って」
『フンッ……なぜ我が人間のような下等生物に謝らねばならぬのだ』
「あんたのせいで、みんな生きた心地してなかったんだから。謝って。飯抜きにするよ?」
『フンッ……。すまなかったな。これでよいか?』
そんな私たちのやりとり……というか、私に向かって、リダケンさんが目を輝かせる。
「すごい……」
「何がですか?」
「伝説の獣、フェンリル。特に、奈落の森の神狼は気位が高いと聞きます。過去、一度も人に仕えたことがないとか」
え……そうなん……?
『当然だ。我は強い。太陽神の娘、バステト神様と、偉大なる山の神様より力をもらった、気高き存在だぞ?』
「……そんな気高い存在 (元) のあんたが、私に仕えてもいいわけ?」
『ああ。主の作る飯には、我が仕えるだけの価値がある』
単なる簡単キャンプカレー飯なんですけどね……。
そんなので餌付けされるって……。案外チョロいのかも、神狼って。
「ま、この通り今は私の従魔なんで。皆さんに危害を加えることはないんで、安心してください」
ちゃんとメンタルケアしておかないと。大事なお客さんだしね、この人達 (所持金五万の女の私) 。
私の言葉を聞いて、リダケンさん達は、ホッ……と安堵の息をつく。
こうして、私の異世界キャンピングカー生活に、新たなる相棒、フェンリルのシロエが加わったのだった。
「さ、朝食食べて、街へ出発しましょう」
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