其の九十山「目覚めても、まだ終わらない夢」
これから語るのは、もしかするとこれから広まるかもしれない
いや、広まってしまうかもしれない「怖い作り話」です。
全部で壱百八話。どれも短い物語です。
しかしその中には、時に背筋に冷たいものが走り抜け、
時にひそひそと誰かの囁きが聞こえ、
時に見てはいけないものが見えてしまうこともあるかもしれません。
そしてひとつだけ、どうしても言っておきたいことがあります。
これらの話は、すべて作り話です。しかし、ただの作り話ではありません。
この話、本当なんです。
夢の続きを見る。
それはきっと、誰にでもあることだと、私は勝手に思っています。
これは、私が体験した数々の恐怖の夢の中でも、
最も怖かった夢のお話です。
◇◆◇
私の長年の趣味はキャンプです。若い頃は友達とわいわい楽しむキャンプをしていましたが、
30歳を過ぎた頃から、一人で静かに過ごす時間が好きになり、気付けばソロキャンプ歴15年。
こんなに長く続くとは思っていませんでしたが、今では続けてきてよかったと思える趣味です。
それはそれとして。
ある日、私はキャンプ場で焚火とお酒をゆっくり楽しむ夜の夢を見ました。
その夢の中の場所も、季節も、はっきり覚えています。
場所はG県のH湖オートキャンプ場。季節は秋。
パチパチとはじける焚火の音。
静けさの中に混じる、他のキャンパーたちの穏やかな話し声。
それらを肴に、ゆっくりと時間に身を委ねる……なんて(笑)
そんな少し優雅で格好いい女を演じている気分の中――事件は起きました。
◇◆◇
私の正面右45度ほどの方向から、不穏なざわめきが聞こえてきました。
キャンプ中の事故や怪我の声とは明らかに違う、どこか異質な気配。
その声は、映画の中で聞いたような、聞かないような……
恐怖のあまり言葉にならない叫び。文字にするなら、
「くぁwせdrftgyふじこlpー!!」
何事? と、夢の中の私は妙に冷静にそちらを見ると、
間接照明が点々と灯るキャンプ場の風景の中に、
大柄な何者かが、大柄な“何か”を手に、その体格に似合わない俊敏さで走り回っているのが見えました。
その姿は紛れもなく、昔、13日の金曜日になるとテレビに現れ、
お茶の間に恐怖を振りまいていた、あの怪人でした――
怪人はキャンプを楽しむ人々を、手にした斧をブンブン振り回しながら追いかけ、
ひとり、またひとりと……ちょっとこれ、何かがおかしい。
そのとき私は気付きました。「これは、夢だ」と。
私は昔から、こういう怖い夢をよく見ます。
そのせいもあってか「これは夢だ」と、夢の途中で気付くことが多くなっていました。
そして私はいつものように、「起きろ!」と念じて、この夢を強制終了させようとしました。
今回も、それは成功しました。
◇◆◇
気が付けば、夜中の寝室。時計は1時を少し過ぎたところ。
やはり、見ていたあれは夢でした。
以前は凶悪な宇宙生物、今回は有名な殺人鬼(以降、“J”とします)。
私は怖いものが苦手で、ホラー映画はほとんど見ないのに、なぜかこういう作品のキャラクターが夢に出てきがちです。
朝までまだ時間はある。気を取り直して寝よう。
そう思いながら目を閉じたものの、少しだけ不安がありました。
私は怖い夢をよく見ます。夢だと気付いて強制的に終わらせることもあります。
ですがもう一つ――強制終了したはずの「夢の続き」を見ることも、よくあることなのです。
そして、やはり続きが始まりました。
つづきは、事もあろうか“J”が私を追いかけてくる場面から。
気味の悪い白いマスクの奥に、鬼の形相が見える気がする!!
当然、私は逃げます。逃げながら「起きろ!!」と念じ続けますが、
今回はなぜか、夢が終わりません。
必死に逃げているうちに、“J”が私を見失ったのか、少し静かになりました。
私は目の前に見えたトイレに駆け込み、個室に入り、息を整えます。
そしてもう一度、「これは夢、これは夢、早く起きて!」と唱えました――が、
「終わらないぞ――逃がさないぞ――」
それは声だったのか、思考に直接響いたのか。
恐る恐る、聞こえてきた方向――上を見上げると、そこには!
そこで、目が覚めました。
◇◆◇
時計は5時30分頃。薄明るい部屋で、私は半泣きになりながら目を覚ましました。
とにかく怖かった。ここまで追い詰められた夢は、
幼い頃に見た、ユンボの爪で家族が次々と潰され、最後に私も……という夢以来です。
夢でよかった。
そう思いながらも、ひとつだけ、はっきり覚えている言葉があり、私は背筋がゾゾゾとしました。
「終わらないぞ――逃がさないぞ――」
私は怖い夢をよく見ます。
夢だと気付いて強制終了させることもあります。
『ですがもう一つ、強制的に終わらせたはずの「夢の続き」を見ることも、私にはよくあることでした。』
私の夢に出てきた“J”は、まだこの夢を終わらせない、私を逃がさないと言っているのでしょうか。
夢の続きで、また私を追い回すのでしょうか。
この夢の続き――私はまだ見ていません。
この話、本当なんです。




