其の八十九「そのまんま返し」
これから語るのは、もしかするとこれから広まるかもしれない
いや、広まってしまうかもしれない「怖い作り話」です。
全部で壱百八話。どれも短い物語です。
しかしその中には、時に背筋に冷たいものが走り抜け、
時にひそひそと誰かの囁きが聞こえ、
時に見てはいけないものが見えてしまうこともあるかもしれません。
そしてひとつだけ、どうしても言っておきたいことがあります。
これらの話は、すべて作り話です。しかし、ただの作り話ではありません。
この話、本当なんです。
これは、私の考えた、怖い話でもなく、怖い作り話でもない、創作した妖怪のお話です。
いつもこんな想像ばかりしている私の思考が作り出した妖怪「そのまんま返し」の物語。
ゆっくり読んで、少しでもゾゾゾとしていただけたら、創作怪談作家として嬉しい限りです。
それでは、どうぞ。
◇◆◇
最近、妙な噂を耳にした。
「そのまんま返し」という名の、現代に生まれた新しい妖怪がいるというのだ。
そのまんま返しは、決まった場所に現れるわけではない。
ある時は公園に、ある時は駅前に、またある時は繁華街の片隅に──
人の気配が薄れた一瞬の隙を縫うように、
スッと姿を現し、何かを成し、そしてまたスッと消えるという。
それを見た者の話によれば、その姿は何やら奇妙だという。
眼鏡を掛けた僧侶のような格好をしているのに、肌は日焼けし、体つきは筋骨隆々。
まるで僧侶と格闘家を無理やり混ぜ合わせたような風貌で、
もし夜道で出会ってしまえば、誰であってもその強烈な威圧感に恐怖するだろう。
だが、この妖怪が「成すこと」はただ一つ。
その名前の通り──“そのまんま返す”だけである。
公園にポイ捨てされたゴミ。駅前に投げ捨てられたゴミ。街中に置き去りにされたゴミ。
それらを、捨てた本人の部屋に“そのまま”返す。
帰宅した瞬間、住人が目にするのは、部屋の真ん中にぽつんと置かれたゴミ。
外で捨てた時と同じ状態で、同じ向きで、同じ汚れのまま。
それはまるで「あなたが捨てたものですよ」と静かに告げるように。
だから、この妖怪は「そのまんま返し」と呼ばれているのだ。
◇◆◇
ある日のこと。とある街でアパート火災が発生した。
火の回りは早く、建物はほぼ全焼。
幸い死者は出なかったが、出火元となった部屋の住人は呆然としていた。
住人は喫煙者だったため、真っ先に疑われたのはタバコの不始末だった。
しかし、住人は部屋に煙草の臭いがつくのを嫌い、必ずベランダでそれを吸っていたという。
吸い殻も、ベランダに置いた大きめの灰皿にきちんと捨てていた。
だが、現場検証の結果──火元はベランダではなく、明らかに部屋の中だった。
その不可解な状況に、若い消防士が住人へ問いかけた。
「今日……どこかでタバコのポイ捨て、していませんよね?」
その瞬間、住人の顔色は、サーッと血の気が引くように、真っ青に変わったという。
◇◆◇
これが、私の考えた妖怪「そのまんま返し」のお話です。
どうです、怖かったですか?背筋がゾゾゾとしましたか?
このお話は、趣味のウォーキングをしているとき思いついたものです。
ウォーキングをしていると、道の脇にビニール袋に入ったゴミ、煙草の吸殻、ペットボトルが捨てられているのを見かけます。時にはゴミ袋を持って、それを拾いながらウォーキングすることも。
しかし、拾っても拾っても、しばらく時が過ぎるとそこにはまたゴミが捨てられている。
そのたびに、なんとも言えない気分になります。
そんな時に、ふと頭に浮かんだのがこの「妖怪:そのまんま返し」でした。
◇◆◇
もし、私の考えたこの妖怪「そのまんま返し」が本当に存在したら──
彼は今日もどこかで、ポイ捨てされたゴミを拾い上げ、捨てた本人の部屋へとそのまま静かに返していると思います。飲みかけのペットボトル。食べかけのお菓子の袋。
そして……火が完全に消えていないタバコ。
この話、本当だったら――あなたは、ゴミのポイ捨てをできますか?




