其の八十七「幽界修行」
これから語るのは、もしかするとこれから広まるかもしれない
いや、広まってしまうかもしれない「怖い作り話」です。
全部で壱百八話。どれも短い物語です。
しかしその中には、時に背筋に冷たいものが走り抜け、
時にひそひそと誰かの囁きが聞こえ、
時に見てはいけないものが見えてしまうこともあるかもしれません。
そしてひとつだけ、どうしても言っておきたいことがあります。
これらの話は、すべて作り話です。しかし、ただの作り話ではありません。
この話、本当なんです。
少し前に、動画を流しながら趣味の散歩をしていた時のお話です。
気持ちよくいつものウォーキングコースを歩いている中、
とても興味を引く言葉を耳にしました。
◇◆◇
「キャリアの長い幽霊はレベルアップしていて魔よけグッズが効きにくくなる」
なんだか色々ツッコミたいのですが……
まず“キャリアの長い幽霊”。幽霊にキャリア? 幽霊に経歴、職歴があるのでしょうか。
お札もお祓いも効かない!? 幽霊一筋4000年。幽霊界の大ベテラン?
想像すると笑いがこみあげてきそうになったため、私は一度歩くのをやめて近くのベンチに座り、休憩がてらこれについて思うことをノートに書き出し始めました。
◇◆◇
幽霊界の大ベテラン。その時ふと思い浮かんだのは、日本の三大怨霊。
「菅原道真」「平将門」「崇徳天皇」
確かに“三大ベテラン”と考えた時、とてもではありませんが「伝説の魔よけ装備を持った勇者」でなければお祓いできなさそうです。
でも、日本の三大怨霊と呼ばれる方々は今、神様として祀られてもいます。
菅原道真は「学問の神(天神)」として。
平将門は「武運・勝負運・厄除けの神」として。
崇徳天皇は「国家安泰・縁結び・芸能の神」として。
幽霊界──いえ、怨霊も大ベテランになると神様になるようです。
神様にまでなってしまえば、お祓いなんて到底できませんね。
◇◆◇
そう考えると――
現存する「心霊スポット」と呼ばれる場所に現れると囁かれる幽霊は、
幽霊界の大ベテランを目指して人を脅かすという修行をし、
やがて神として祀られることを目指す修行者?
人を怖がらせて幽霊的徳を積み、時に霊媒師との戦いを経験しながら、
幽霊界の大御所──大幽霊を目指し日々精進……。
そんな想像をした私は、思わず一人で笑いをこらえていました。
◇◆◇
私もいつか幽霊界に行ったときは……私も大ベテランを目指して日々修行をするのでしょうか。
できれば私は図書館に住み着いて、誰もいなくなった夜中にそこを貸し切りにして本を読んでいられれば、それだけでいいと思います。
そして時々、図書館に集まる読書好きの幽霊仲間たちと読み聞かせイベントを開いて、
幼くして亡くなった子どもたちに様々な物語を楽しんでもらうのも、いいかもしれません。
昼間は霊的能力で館内職員の皆さんや本好きの常連さんのお役に立てるようなことをして、
ときにマナーの悪い利用者には霊的能力でお仕置きをして(笑)
そして私は幽霊的徳を積んで図書館の神様に……
◇◆◇
その時、私はふと我に返りました。私は何を考えているのだと。
まだ私は死後の世界のことを考えている場合じゃありません。
まだまだ私には、やるべきことがあります。
全108話を予定しているこの物語「これから広まるかもしれない怖い作り話」を書き上げることはもちろんのこと。まだまださまざまな怪談を紡いで世に広めていきたいと思っていますから。
そうか。私は今、この世で“創作怪談作家の大ベテラン”を目指して修行している?
どうやら、この世でもあの世でも、楽して生きることはできなさそうです。
でも、それはいいことなのだと思います。
さて、ウォーキングを再開しましょうか。
◇◆◇
後半、話が脱線した感が強いですが、これが「キャリアの長い幽霊はレベルアップしていて魔よけグッズが効きにくくなる」という話を聞いたとき、ふと私が想像したお話です。
怖い話でも何でもありませんが、それでもこの話、私は本当だと思います。




