其の八十四「ごめん、間違えた」
これから語るのは、もしかするとこれから広まるかもしれない
いや、広まってしまうかもしれない「怖い作り話」です。
全部で壱百八話。どれも短い物語です。
しかしその中には、時に背筋に冷たいものが走り抜け、
時にひそひそと誰かの囁きが聞こえ、
時に見てはいけないものが見えてしまうこともあるかもしれません。
そしてひとつだけ、どうしても言っておきたいことがあります。
これらの話は、すべて作り話です。しかし、ただの作り話ではありません。
この話、本当なんです。
私は怖い話や怪談、都市伝説が大好きで、それもあって今この──
「これから広まるかもしれない怖い作り話」を書いています。
ですが、以前からお話している通り私はとても怖がりで、心霊スポットに行くとかホラー映画を見るのは強くお断りしたい人です。
そしてもう一つ。
子どもの頃からそういった本を読み漁っていたことから、霊感がある上にオカルトに詳しいと思われ、小学・中学・高校の呼び名は「霊感少女風間さん」。
しかし、残念ながら? 私には霊感はありません。こんなふうに言うと誤解を招きそうですが、むしろ霊感の強い方が羨ましく思います。
それはそれとして。
今日のお話は、霊感の強い私の友人 S 君から聞いた、
ちょっとほっこりする「幽霊のお話」です。
◇◆◇
それは彼の高校時代。
夏休みのある日。夏とはいえ当時の夜は現在よりもかなり涼しく、
冷房がなくても暑くて寝苦しいということもない、そんな夜のことでした。
深夜、S 君はふと目を覚まします。その瞬間に彼は “ああ、来たな” と感じたそうです。
目は覚めている。でも体は動かない。金縛りです。
過去に金縛りを何度か経験している、本物の霊感少年の彼は落ち着いていました。
深呼吸をし、指先からほんの少し体を動かすイメージをします。
そのときでした。
S 君は顔にフーっと近づく“何か”の気配を感じました。
その瞬間、背筋がゾゾゾとしたそうです。
これは……久しぶりに本物が来た!
そう心の中で呟き、S 君はゆっくりと視線をその気配の方へ向けました。
そこには、長い黒髪の、儚げな若い女性らしい姿がありました。
彼の感覚は、それが明らかにこの世のものではないと認識していたそうです。
その気配は、S 君の顔をジーッと、穴が開くほど見つめていました。
しかし、何か様子がおかしい。
長い髪が額にかかっていて表情は見えないのに、
なぜか“戸惑っている”のが分かったのです。
その瞬間、S 君はふっと体が軽くなるのを感じました。
どうやら金縛りが解けたようです。
彼はゆっくりと顔を向けました。
女性は、S 君の寝ているベッドから二歩ほど下がった位置に立っていました。
そして何やら、申し訳なさそうに、恥ずかしそうにモジモジしているのです。
そんな様子が五秒ほど続いたあと、その気配は姿とともにスーッと消えていきました。
そのとき、S 君は確かに彼女の声を聞いたそうです。
「……ごめん、間違えた」
小さな声で、そう言って。
◇◆◇
S 君いわく、きっとその幽霊は別の人のところに出るはずだったのを、
間違えて自分のところに出てしまったのだろう、と。
だから、あんなにじっと顔を見つめていたのだと。
暗がりの中でよく見たら人違いに気づき、
申し訳なさそうにモジモジしていたのではないか、と。
「なにそのかわいい幽霊。」
私は思わずそう言っていました。そして冗談めかして、
「幽霊でーす、恨めし周りに来ました!……あれ? よく見たらこの人じゃない!?
ごめーん、間違えた! 退散!──こういうことだよね?」
私がそう言うと、なぜかその言葉がツボに入ったらしく、
数秒の沈黙のあと、S 君は過呼吸になりそうな勢いで笑っていました。
“恨めし周りってなんだよ” と。
◇◆◇
これが、霊感の強い友人 S 君から聞いた、ちょっとほっこりする「幽霊のお話」です。
幽霊も場所を間違えたときは、謝るものなのですね。
いえ、それより──幽霊も“出る場所を間違える”ことがあるんですね。
そんなドジっ子幽霊さんに、あなたが出会ったときは、
どうか笑って許してあげてください(笑)
この話、本当らしいです。




