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これから広まるかもしれない怖い作り話  作者: 井越歩夢


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其の八十「結末の余白」

これから語るのは、もしかするとこれから広まるかもしれない

いや、広まってしまうかもしれない「怖い作り話」です。


全部で壱百八話。どれも短い物語です。


しかしその中には、時に背筋に冷たいものが走り抜け、

時にひそひそと誰かの囁きが聞こえ、

時に見てはいけないものが見えてしまうこともあるかもしれません。


そしてひとつだけ、どうしても言っておきたいことがあります。

これらの話は、すべて作り話です。しかし、ただの作り話ではありません。


この話、本当なんです。



久しぶりに会う友人「音奈」との食事中、創作怪談を連載中の私に、

彼女は「アイデアになるかも」と、こんな怖い話を一つしてくれました。


これは彼女の語る、あるアパートで起きた、奇妙で現実離れした話です。


◇◆◇


この話の登場人物は、仮にAさん(男性)とします。


数年前、Aさんは長年住んでいた古いワンルームを離れ、新しいアパートへ引っ越すことになりました。

いくつかの物件を内見しつつ選んだその部屋は築五年で、日当たりも良く、前の部屋より広いアパートでした。「いい部屋を見つけられた」と、彼は心底喜んでいたといいます。


そして引っ越し当日。


新しい部屋での新生活の始まりに、彼は胸の高鳴りを抑えきれませんでした。

荷物を運び終え、鍵を受け取り、初めて自分の部屋としてその扉を開ける──


しかし、その扉を開けた瞬間でした。


鼻をつく、あの古い部屋特有の湿った匂い。見慣れた薄汚れたフローリング。

そして、窓際に置きっぱなしにしていた古いカーテン。


間違いなくそこは、つい昨日まで住んでいた“前の部屋”でした。


「……は?」


驚いた彼は思わず扉を閉めました。

おいおい、どういうことだ? まさか間違えて前の部屋に帰ってきたのか?

そんな混乱の中、彼は深呼吸をし、もう一度扉を開けます。


しかし、やはりそこにあるのは引っ越し前の部屋。


新しいアパートのはずなのに、扉の向こうは“前の部屋”なのです。


◇◆◇


「それで、音奈。Aさんはこのあとどうなったの?」


私はそう尋ねました。すると彼女はスッと2秒ほど目を閉じ、こう言いました。


「この話はこれで終わり。続きは、想像にお任せします♪」


「えー?」


そう言って笑う彼女に、私は思わず声を上げました。この話、言ってしまえば起承転結の“起承”で終わっている。絶対続きがありそうなのに、「想像にお任せします」?


当惑する私の様子に、彼女は悪戯っぽく笑ってこう言いました。


「じゃあ、ここからは私の想像を話すね。」


そう言って、彼女はこの怖い話の“彼女なりの結末”を語り始めました。


◇◆◇


Aさんは震える指で、もう一度だけ扉に触れた。開けて、閉めて、また開ける。

──でも、何度繰り返しても、そこにあるのは“前の部屋”でした。


「……どうなっているんだ?」


Aさんは意を決して部屋へ足を踏み入れた。すると、そこで新たな違和感に気づきました。


昨日まで住んでいたはずの部屋なのに、何かが違う。

それは一目で分かる違和感ではなく、よく見れば気づく“微妙なズレ”。

まるで、彼の記憶を頼りに別の誰かが再現したかのような部屋に見えるのだった。


「……誰かいるのかー?」


返事はない。ただ、部屋の奥に一枚の紙が置かれている。

Aさんはゆっくり近づき、震える手でそれを拾い上げた。

そこには、こう書かれていた。


「戻ってきたんだね。次は間違えないで」


◇◆◇


「こんな感じでどうかな?」


彼女はそう言って、私に向かってニッコリと微笑みました。

ここまででもこの物語、Aさんが最後どうなったかは分からないところで終わっています。


「Aさんは、本当に元の部屋に間違えて帰っちゃったのかな?」


私は、彼女から物語の結末を引き出そうとそう問いかけました。


「どうかなぁ。新しい部屋だと思って行った場所が、実は別の世界線の元の部屋の入り口だったとか?」


「ちょっとー、そこはちゃんとしてよ。」


私は笑いながらそう言ったのですが、その後の彼女の言葉に思わず背筋がゾゾゾとしました。


彼女はまた、2秒間をおいて言いました。


「想像できる結末の余白があった方が、面白いでしょ?怖い話って。」


◇◆◇


これが、久しぶりに会う友人から聞いた怖い話。

きっと、これは彼女の作り話なのだと思います。


でも、彼女の言う通り、怪談は時に“結末の余白”があるからこそ怖いのかもしれません。

物語の余白が様々な結末を生み、それが都市伝説になって、これから広まるのかもしれない……


あなたは音奈の語ったこの物語、結末をどう考えますか?


彼女の語ったこの話、本当かは分かりませんが、

このときの出来事は、本当の話です。



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