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これから広まるかもしれない怖い作り話  作者: 井越歩夢


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其の七十九「おじゃまします」

これから語るのは、もしかするとこれから広まるかもしれない

いや、広まってしまうかもしれない「怖い作り話」です。


全部で壱百八話。どれも短い物語です。


しかしその中には、時に背筋に冷たいものが走り抜け、

時にひそひそと誰かの囁きが聞こえ、

時に見てはいけないものが見えてしまうこともあるかもしれません。


そしてひとつだけ、どうしても言っておきたいことがあります。

これらの話は、すべて作り話です。しかし、ただの作り話ではありません。


この話、本当なんです。



これは、私が知人の男性(以降Jさんとします)から聞いた──

引っ越し先のアパートで起きたという、背筋がゾゾゾと冷たくなる話です。


◇◆◇


数年前、Jさんは仕事の都合で一人暮らしを始めました。

駅から徒歩十分ほどのアパート。

築年数は少し古いものの、部屋は綺麗にリフォームされていて家賃も手頃。

内見のときも特に問題はなく、「ここなら快適に暮らせそうだ」と思ったそうです。


しかし、住み始めて数日後──

Jさんは部屋の中で妙な“気配”を感じるようになりました。


最初は夜。

電気を消して布団に入ると、部屋の隅に“誰かが立っているような影”が見える気がする。


もちろん、目を凝らせばそんな影は見当たりません。

家具の影がそう見えただけだろう、と自分に言い聞かせたそうです。


でもその日以降、その影らしきものは毎晩、同じ場所に立っていたといいます。


◇◆◇


不可解なのはそれだけではありませんでした。


深夜になると、廊下のほうから“コツ……コツ……”と足音のような音が聞こえてくる。

それはアパートの廊下ではなく、Jさんの部屋の中の廊下からです。


最初は上の階の住人の足音だと思った彼ですが、天井から響く音ではない。

明らかに、部屋の中を歩く音。


これも「気のせいだ」と自分に言い聞かせ、震えながら眠る日々が続いたそうです。


しかし、ある夜──

Jさんは気のせいだと思っていたものを“はっきりと見てしまった”のでした。


◇◆◇


その夜、Jさんはなかなか寝つけず、スマートフォンを眺めながら布団に入っていました。

深夜二時を過ぎた頃、ふっと視界の端で何かが動いたような気配を感じた。


ゆっくりと顔を上げると、部屋の入口のあたりに“はっきりとした人影”が立っていました。


部屋の隅に見えていた“気のせいの影”ではない。

明確に目視できる、背の高い大人の男性の人影。


その影は微動だにせず、Jさんをジーッと見つめていたのです。


「うそだろ……?」


息を呑んで瞬きをすると、その影はスーッと静かに消えていったそうです。


「疲れているんだ」と自分に言い聞かせたものの、激しい動悸はしばらく止まらなかったといいます。


そう話すJさんは、苦笑していました。


◇◆◇


翌朝、Jさんは管理会社に電話をしました。


「この部屋、前に何かありましたか? 事故物件とか……」


担当者は驚いたように答えたそうです。


「いえ、まったくそんなことはありませんよ。

前の入居者の方も数年住んでいましたが、特に問題はありませんでした」


事故物件ではない。

前の住人も普通に暮らしていた。


では、Jさんが見ているものは何なのか?


◇◆◇


その日からJさんは、部屋で起きる現象を細かく記録し始めました。


・夜中に廊下を歩く音

・部屋の隅に“誰かが立っている気配”

・部屋の入口に立つ、はっきりとした人影


「気のせいと言われればそうかもしれない。でも、毎日続くと無視できないんだよ」


そうJさんは言いました。


そして、ある夜──決定的な出来事が起きたのです。


◇◆◇


その日は仕事で疲れていたため、Jさんは早めに布団に入りました。

電気を消し、目を閉じる。睡魔はすぐに彼を眠りへと誘いました。


そのとき、部屋の入口のほうで“ギシ……”と床が鳴り、Jさんは眠りから引き戻されました。


──そこに誰かが立っている。そんな気配が、はっきりと分かった。


怖くて目を開けられずにいると、布団のすぐ横で“コツ……”と足音がして……


“誰かが、すぐそばに立っている──”


Jさんは硬く目を閉じ、息を殺していると、その気配はその場に膝をつき、


「……おじゃまします」


Jさんの耳元で小さく、かすれた男性の声がした。


Jさんは背筋がゾゾゾとし、しばらく動くことができなかったといいます。

頭の中では「ヤバイヤバイヤバイ」がぐるぐる回り、どうしていいか分からなかった。


しかしそのままきつく目を閉じジッとしているうちに、紺ない状況の中にもかかわらず

Jさんはいつの間にか眠ってしまったそうです。


翌朝。明るくなった部屋を見回すと、もちろん誰もいない。

それでもJさんは、耳元の「……おじゃまします」は、間違いなく聞こえたと言います。


◇◆◇


翌日、Jさんは再び管理会社に連絡しましたが、担当者は困ったように言うだけでした。


「本当に何もないんです。前の住人も特に問題なく……」


その言葉を聞いたとき、Jさんは悟ったそうです。


──この部屋で“何か”を見ているのは、自分だけなのだ。


前の住人は何も感じなかった。事故物件でもない。では、なぜ自分の身に“それ”が起こったのか?

Jさんは今でも分からないと言います。


ただひとつだけ、彼には確かに覚えている言葉がありました。


「……おじゃまします」


◇◆◇


「この話、本当なんだよ……風間さんなら、この部屋に住み続けられる?」


「むり!」


私の即答に、Jさんは笑っていましたが、当事者としてその最中にいたときは本当に怖かったと言います。


なにかが“いる気配”はするのに、それに繋がる痕跡は一切ない。

そしてあの「……おじゃまします」。あれはいったい何だったのか。


その後Jさんはその部屋から引っ越し、今の部屋ではこういったことは全くないそうです。


事故物件でもない、霊感体質でもないJさんの身に起きたこの出来事。これはいったい何だったのか。


今となっては分かりませんが──


もしかすると、あのときJさんは、本当に「おじゃまされていた」のかもしれません。


Jさんいわく、これ、本当の話だそうです。

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