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これから広まるかもしれない怖い作り話  作者: 井越歩夢


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8/52

其の七「超速老婆」

これから語るのは、もしかすると、これから広まるかもしれない

いや、広まってしまうかもしれない、「怖い作り話」です。


全部で壱百八話。どれも短い物語です。


しかしその中には、時に背筋に冷たいものが走り抜け、時にひそひそと誰かの囁きが聞こえ、時に、見てはいけないものが見えてしまうこともあるかもしれません。


そして、ひとつだけ、どうしても言っておきたいことがあります。

これらの話は、すべて作り話です。しかし、ただの作り話ではありません。


この話、本当なんです。

超速老婆。最近、都市伝説界隈で話題になっている怪異の存在だ。


通称「ターボ婆」。


その名の通り、驚異的な速度で走る老婆の怪異である。目撃情報は全国各地から寄せられており、特に高速道路沿いでの報告が多い。


あるドライバーの証言によれば、夜の高速道路を走行中、ふと視界の端に何かが映ったという。最初は風に舞うビニール袋か何かだと思った。だが、それは人の形をしていた。しかも、車と並走していたのだ。


「あれは間違いなく老婆だった。白髪で、古びた着物を着ていて。でも、信じられないほど速かった。時速100キロで走ってる車の横を、まるで風のように駆け抜けていった。」


驚いたドライバーはハンドル操作を誤り、ガードレールに接触。幸い軽傷で済んだが、事故の原因を説明するのは難しかったという。


このような目撃談は一件だけではない。別のドライバーは、深夜の峠道で「何かが追い越していった」と語る。ライトに照らされた一瞬の姿は、やはり白髪の老婆だった。足音はなく、ただ地面を滑るように超高速で移動していたという。


「ターボ婆」は、ただ速いだけではない。その存在には、ある種の「引力」があるようだ。目撃した者は、なぜか視線を奪われ、注意力を失う。事故に至るケースも少なくない。まるで、彼女の速度が常識を破壊し、現実の感覚を狂わせるかのようだ。


だが、この怪異には、もうひとつの顔がある。


それは「届け婆」と呼ばれる存在。


同じく超速で移動する老婆だが、こちらは人に害をなすのではなく、助ける存在として語られている。忘れ物や落とし物を、信じられない速さで届けてくれるというのだ。


ある学生の話では、通学途中にスマホを家に忘れたことに気づき、途方に暮れていたところ、突然風が吹き抜け、目の前にスマホが落ちていたという。拾い上げると、画面には「届けたよ」とだけ表示されていた。


別の話では、旅行先で財布を落とした男性が、宿に戻ると玄関に財布が置かれていた。監視カメラには、白髪の老婆が一瞬だけ映っていたという。誰もその姿を見たことはなく、ただ「風のようだった」と語られている。


この「届け婆」は、ターボ婆と同一の存在なのか、それとも別の怪異なのかは定かではない。だが、どちらも「常識を超えた速度」で現れ、そして消えていく。


都市伝説の中には、恐怖だけでなく、こうした「優しさ」を含んだ怪異も存在する。人を驚かせ、時に事故を招く存在でありながら、同時に人を助け、忘れ物を届ける存在でもある。


まるで、風のように見えないのだが、確かにそこにいる。


「ターボ婆」は、今日もどこかの道を走っているかもしれない。

高速道路の脇、峠道の影、あるいはあなたのすぐそばを。


もし、何かを落としてしまったら。風が吹いたら、少しだけ耳を澄ませてみてください。


この話、本当なのです。ほっこりですね。


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― 新着の感想 ―
 こわい話なのに読後感はほっこり。 「届け婆」いるのかもしれません。  
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